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古内東子 “恋愛の教祖”と呼ばれ25年「でも私の歌は全然導いていないので、申し訳なくて…」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「私の歌はああでもない、こうでもない、どうしたらいい?って全然導いてない(笑)」
『誰より好きなのに〜25th anniversary BEST〜』(11月21日発売) 本人の選曲による全45曲・3枚組。最新リマスターで、オリジナルアルバム未収録の(Single Version) (Single Mix)を多数収録
『誰より好きなのに〜25th anniversary BEST〜』(11月21日発売) 本人の選曲による全45曲・3枚組。最新リマスターで、オリジナルアルバム未収録の(Single Version) (Single Mix)を多数収録

シンガー・ソングライター古内東子のデビュー25周年記念ベストアルバム『誰より好きなのに〜25th anniversary BEST〜』が、11月21日に発売され、好調だ。25年間一貫して、多様な恋の在り方を描いた、ラブソングを歌い続けてきた。ゆえに、彼女を紹介する時の枕詞として、必ずといっていいほど、“恋愛の神様”“恋愛の教祖”という言葉が躍っている。しかし本人は、そういう見られ方、呼ばれ方に対して戸惑いを感じてしまう、という意外な反応から、インタビューはスタートした。

「昔もそうだけど、今も“恋愛の神様”って言われると、申し訳ない気持ちになる(笑)」

写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

「私の音楽を聴いてくれているファンの人は、そんな風には呼んでいないというのは、わかっていたし、レコード会社の大人の方々が、アイドルにつけるキャッチコピーのような感じで作ったというか。私の名前と音楽を、浸透させようとしてくれていたのはわかるので、こういう取材で「恋愛の神様と言われてますけど、どうですか?」とよく聞かれますが、そう言われても……っていつも戸惑います(笑)。歌詞の内容を見ても、ああでもない、こうでもない、どうしたらいいんだろうという感じで、決して上からこうしましょうよ、ああしましょうよと言っていないので、そこも違和感がありました。教祖っていうと、導くという感じじゃないですか。でも私は全然導いてないですから(笑)。ましてや、今また「そう呼ばれてましたよね」って言われると、もうダブルパンチで(笑)、どうしようもなくなっちゃって、すみませんって感じです(笑)」。

「恋愛経験がたくさんありそうって思われるけど、そういうことでもなくて」

古内は、1993年、シングル「はやくいそいで」でメジャーデビュー。その2か月後には、1stアルバム『SLOW DOWN』をリリース。当時20歳、現役大学生だった彼女が描く、恋愛シーンの中での女性の心の“揺れ”を見事に捉えたせつない歌詞とメロディは、同性から瞬く間に支持を得た。

「血気盛んな20代前半の頃、恋愛の場で自分は現役だっていう自負があるときは、歌詞の内容は60~70%リアルだったと思います。でも実際、恋愛に関してが頭の中を占める割合が多かったから、書いてあることはあながち嘘でなくて。経験値が高いというわけではなくて、男女関係では色々悩みがちだったから、そういうのが歌になっているとすれば、リアルな体験というか経験という言い方ができます。そういう言い方をすると、すごくたくさん恋愛しているんだって思われそうですけど、そういうことでもなくて。曲も自分のライヴで歌っていると、最初感じていたものとは全然違う感覚のものに、自分の中で育っていったりします。それは聴き手の方も同じだと思います。歌って、基本的には自分を主人公として聴くじゃないんですか。だから聴いた人から、ここがよかった、ここがこの曲のポイントだよねって言われたことが、全然違うなって思っても「それは違う」とは言わないし、そう聴こえたんだなという感じで捉えています」。

「デビューしてからしばらくは、ライヴが楽しいと思えなかった。でも今はすごく楽しく歌える」

ライヴという言葉が彼女の口から出てきたが、実は古内は、デビューしてから10年間くらいは、ライヴが“しっくりきていなかった”という。

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「アルバムを出してツアーをやって、それで、またそこからまた1年空くじゃないですか。時々イベントには出たりしていましたけど、せっかく慣れた頃にツアーが終わって、次はまた1年後とかになると、しかも新曲を歌わければいけないので、ずっと緊張していました。だから“しっくりくる”ということがなかった。ライヴが楽しいとか、私のライヴに来てくださいっていう気持ちが、10年目くらいまでは本当にわからなかったです(笑)。もちろんきちんとやり通しますけど、やれた感が全然ないというか、達成感がない。でも今は弾き語りライヴをやっている時は、リズムが遅れてもいいし、歌い方やアレンジも変えてもいいし、だって自分の曲だし、と思えるようになりました。プレッシャーみたいなものがなくって、間違えちゃっても、それはそれで笑いに変えられるというか、余裕が出てきたのだと思う。だから今はライヴがすごく楽しいです(笑)」。

「ソニーミュージックに在籍していた数年間は、遅く訪れた私の青春時代。初めて海外でレコーディングした『Strength』は、特に印象に残っている」

今回のベストアルバムはレーベルの枠を超えて、膨大な楽曲の中から本人が選曲した45曲(3枚組)が収録されている。選りすぐりの45曲だとは思うが、その選曲にあたって大切したこと、さらに、特に思い入れの深い曲を聴いてみると……。

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「ベストという名前がついてるからには、自分が好きな作品ばかり入れてもダメだと思うし、私がいいなと思う曲って、大体誰も好きじゃないんですよ(笑)。今回はどういう人が買ってくれるのかなって思うと、従来のファンの方、それから10月に発売した新しいアルバム『After The Rain』を聴いて、気に入ってくださって、これまでの25年を追いかけようと思って、買って下さる方もいるかもしれないと思うと、やはり定番は入っていたほうがいいのかな、とか。特に印象に残っているのは、やっぱりソニーからデビューして、数年間に作ったものは忘れられないですね。遅く訪れた私の青春時代という感じです。皆さんが青春時代を忘れないように、私も同じです。当時よく、曲が大人っぽいと言われていましたけど、私は大学生で、周りは全員大人で、そんな中で大人っぽいをことしていたのかもしれないです。後々まで気づかなかったんですけど、今思えば、あれが青春だったなという感じですね。たくさんの人に聴いてもらえた5枚目のアルバム『Hourglass』(1996年)も、忘れられない一枚ですが、4枚目のアルバム『Strength』(1995年)は、初めての海外レコーディングだったこともあって、すごく覚えています。当時私はデヴィッド・サンボーンは名前を聞いたことがありましたが、他にもすごいミュージシャンの方がたくさん参加してくれて、今思うと、贅沢な時間でした」。

初アナログ化『Hourglass』(完全限定生産盤/9月26日発売)
初アナログ化『Hourglass』(完全限定生産盤/9月26日発売)

『Strength』はランディ・ブレッカー、マイケル・ブレッカーや、デヴィッド・サンボーン、ボブ・ジェームスといった、当時のジャズ・フュージョン界を牽引する豪華ミュージシャンがレコーディングに参加。アカデミックな空気の中で作り上げた。一方、「誰より好きなのに」が収録されている『Hourglass』は、ロサンゼルスでレコーディングを行った。「東海岸の眼鏡かけたおじ様達のあの雰囲気から(笑)一転、『Hourglass』には、ウエストコーストのハッピーな風が吹いてるんです(笑)」。ちなみに『Hourglass』は9月に初アナログ化されている。

10月には6年ぶりのオリジナルアルバムを発売。「いい意味で変なこだわりもなくなり、余計なことを考えなくなって、このブランクがいい方向に向かわせてくれた」

6年ぶりのオリジナルアルバム『After The Rain』(10月17日発売)
6年ぶりのオリジナルアルバム『After The Rain』(10月17日発売)

このベスト盤が発売される約1か月前の10月17日には、約6年ぶりのオリジナルアルバム『After The Rain』を発売している。良質なAORを聴かせてくれるこのアルバムは、インコグニートを始め、クニモンド瀧口、河野伸、松本良喜他、多彩なアレンジャー陣が参加し、女性の様々な恋のカタチを映し出した、古内の言葉とメロディを、よりせつなく伝えてくれている。6年という時間は、古内の人生を大きく変え、結婚し妻となり、そして母親にもなっていた。その“リセット”が、ソニー時代の初期の古内の雰囲気を感じさせてくれる一枚につながっているだろうか。

「毎年一年に1枚アルバムを出すのが当たり前だったので、そういうものだと思っていました。だから宿題があるから書くという感じで、どこにいても曲が浮かんでくるというタイプではないんです。今回もアルバムを出すということが決まって、書き始めました。といっても子育てもあったので、子供が昼寝をしている時に書いたり、地べたを這いつくばっている感じの制作期間でした(笑)。でもいい意味で、変なこだわりもなくなり、余計なことを考えなくなって、このブランクが創作活動においては、いい方向に向かわせてくれたと思っています」。

「6年間曲を書いていなくて、エンジンのかけ方も忘れていた。でもせっかくエンジンがかかったので、もっと曲を書きたい」

曲作りを本格的にスタートさせると、どんどん曲ができるようになってきて、作家活動にも力を入れていきたいという。

「6年間曲を書いていなかったので、腰が重くて、エンジンのかけ方も忘れていて、でもせっかくエンジンがかかったので、もっと書きたいなって。自分のアルバムは出したばかりなので、他の方、誰か歌ってくれないかな(笑)。それから、これは自分で言うことではないのですが。30周年の時は、是非トリビュートとかやって欲しいです(笑)。この曲はこの人に歌ってもらいたいって考えるの、楽しそうじゃないですか(笑)」。

otonano 古内東子『誰より好きなのに〜25th anniversary BEST〜』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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