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スタートから17年 『クリスマスの約束』の根底に流れる、小田和正の熱い想い 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
2001年第1回放送で歌う小田和正(写真提供/TBS)

クリスマスシーズンの風物詩、小田和正『クリスマスの約束』

2002年
2002年

小田和正が、年に一度様々なアーティストをゲストに迎え、一夜限りの奇跡のセッションを繰り広げる人気番組『クリスマスの約束』(TBS系)。2001年から続くクリスマスの時期恒例のこの番組が、今年は延期されることが先日発表された。オフィシャルサイトには、「毎年「クリスマスの約束」の放送を心待ちにしてくださる皆様へ」と題したスタッフのコメントが掲載されている。「2018年、「クリスマスの約束」は、放送を行いません。小田さんと番組スタッフは、初夏より今年の番組制作についてミーティングを重ねて参りましたが、収録と放送を少しだけ延期して、それに代わるものを出来るだけ早くお届けしよう、と言う結論に至りました。何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。」と、中止ではなく、しかるべき時期に放送することが明言され、ファンはひと安心した。

DVD化されていない、再放送もほとんどされていない、『クリスマスの約束』の“肝”となる第1~3回を、Paraviで配信

しかし、17年間もクリスマスのこの時期を彩ってくれている番組、小田の声が楽しめなくなるのはやはり淋しい。と、思っていたところに同番組の、貴重な2001年の初回から第3回目までが、動画配信サービス Paravi (パラビ) で、12月1日から配信決定というニュースが飛び込んできた。この番組は、制作サイドの強いこだわりからDVD化されていない。さらに初期の作品はほとんど再放送されていない。そんな貴重なコンテンツを、Paraviで楽しむことができる。

特に初回、これから17年間続く長寿番組の骨格が固まり、進むべき方向を小田とスタッフが、しっかりと共有できた瞬間を捉えた回を改めて観ることで、次回以降のこの番組がさらに楽しみになるはずだ。小田の音楽人生を変えたという捉え方もできる、この番組の“基礎”となる初回、そして第2回、3回目を振り返ってみたい。

「アーティスト同士がお互いを認め、愛し、尊敬することで日本の音楽シーンは成熟する」という、小田の思いが込められた番組

2002年
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2001年、第1回目の収録は東京ベイNKホールで行われた。制作サイドから「現在あるものとは違う音楽番組をやってみないか?」という打診が、小田の元に届けられた。この時、長年音楽シーンの中で、トップランナーとして走り続けた小田の胸によぎったのは、「アーティスト同士がお互いを認め、愛し、尊敬することで日本の音楽シーンは成熟する」という思いだった。オフコース時代を含め、他のアーティストの共演が、極端に少なかった小田が、アーティストとのコラボレーションをメインにした番組にしようと考えた。まさにアーティスト小田和正の新たな挑戦でもあった。小田は、当時犬猿の仲と言われていた山下達郎を始め、7組のアーティストに思いのこもった手紙をしたため、出演のお願いをした。しかし結果的に、記念すべき第一回目はゲストなしで行われた。

「もっとみんなでやるべきだったんじゃないか、そこで生まれるものにもっといいものがある」

2001年
2001年

こんなシーンがあった。小田とスタッフとのミーティングの中で小田が「ゲストが誰も出てくれないのがドラマ」いうと、番組プロデューサーが「それでは番組にならない」と制作サイドの意見をぶつける。小田は「出演を断わられても声をかけ続ける」と、「自分の音楽人生を振り返って、最後のしめの段階に思うことは、もっとみんなでやるべきだったんじゃないかということ。そこで生まれるものにもっといいものがある」という、自身の音楽人生の現在地から感じる、熱い思いを貫いた。そしてスタジオにはゲストが来なかったが、この番組のテーマソング「この日のこと」を、財津和夫、鈴木雅之、大友康平、スターダスト☆レビュー、CHAGE&ASKA、坂崎幸之助、Kiroro、コブクロ他豪華アーティストを迎えて、レコーディングした。その様子が流されたが、楽しそうな小田の笑顔が印象的だ。<いつの日か会いたいと遠くから思っていた>という歌詞が、心に響く。

記念すべき1曲目は名曲「言葉にできない」。そして「夜空ノムコウ」(SMAP)、「勝手にシンドバッド」「真夏の果実」(サザンオールスターズ)、「Tomorrow never knows」(Mr.Children)、「桜坂」(福山雅治)などを、エピソードと共に披露した。途中、「自分の歌でさえこんなに練習しないのに、一生懸命練習した。でも本番はなかなかうまく歌えない、くそっ」と悔しがる、珍しいシーンも登場する。

「(山下達郎からの)この手紙をもらっただけで、この番組をやった価値はあると思う」

山下達郎からの手紙を紹介するシーンは、初回のハイライトだった。小田は収録後、「この手紙をもらっただけで、この番組をやった価値はあると思う」と胸の内を語っていた。山下と一緒に歌うことを願っていた「クリスマス・イブ」を心を込めて歌った。

2002年
2002年

この、小田が真摯にそして懸命に音楽と取り組む姿、スタッフと共に丁寧に番組を作っていく姿勢は、多くのアーティストの心に響き、それが17年も続く長寿番組になった秘密でもある。2002年の第2回は、最初からゲストを呼ばなかった。実は初回のオンエア直後に、あるアーティストから小田に手紙が届いた。送り主は桜井和寿(Mr.Children)だった。様々な想いと、少しの誤解から小田からの手紙の返事を書かなかったことと、実際に番組を観てその誤解が解けたこと、そして自分たちの音楽と小田の音楽が繋がっていることなど、桜井の心からの思いが綴られた手紙だった。番組内でこの手紙を読む、小田はどこか嬉しそうで、逆にゲストがいないことで、この手紙の内容、桜井の思いが、より伝わってきた気がする。小田の音楽愛が、さらに多くのアーティストの心に波のように広がっていった。そして2003年―――。

ゆず、財津和夫、根本要、桜井和寿、ゲストが初めて出演した、記念すべき第3回

財津和夫(2003年)
財津和夫(2003年)

第3回は初めてゲストが登場した記念すべき回だ。ゆず、財津和夫、根本要(スターダスト☆レビュー)、そして桜井和寿だ。桜井が歌う「言葉にできない」、さらに「タガタメ」「HERO」での小田とのハーモニーは、鳥肌モノだ。まさにこの番組でしか聴けない名演だ。

このように番組の意味、意義がこの3回で確立され、以後はそのコンセプトに共感した多くのアーティストが毎年参加し、クリスマスシーズンの風物詩的な番組になっていった。

2003年
2003年

小田とスタッフは今この瞬間も、延期になったこの番組の構想を練っているはずだ。それまで、これまでの名演の数々を楽しみながら、待ちたい。

Paravi 『クリスマスの約束』特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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