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大貫妙子×伊藤銀次 約40年ぶりに共演する“ポップスの祭典”を前に、大放談

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「今、歌うことが本当に楽しい」という、大貫妙子と伊藤銀次

伊藤銀次、大貫妙子、カズン、楠瀬誠志郎が共演する「otonanoライブ」は“ポップスの祭典”

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11月1日に行われる『Sony Music Direct Presents otonano ライブ』(神奈川・関内ホール)は、伊藤銀次、大貫妙子、カズン、楠瀬誠志郎(五十音順)の4組が出演する、まさに“ポップスの祭典”とでもいうべきイベントだ。伊藤と大貫は、シュガー・ベイブ時代以来、なんと約40年ぶりの共演ということで、注目を集めている。そんな二人が、このライヴの打合せ、作戦会議を行うということを聞きつけ、これは貴重な場になると思い、取材をお願いした。ライヴの内容についての打合せのはずが、当然話は多岐に渡り、シュガー・べイブのこと、二人の音楽的ルーツの話他、とにかく話が尽きない。打合せというよりも大放談といった方が正しいが、何より、このライヴを楽しみにしている二人の様子が伝わってきた。貴重な大放談は、いきなりライヴの核心部分から始まった―――。

「僕とたあぼおがソロになってから初共演といっても、シュガー・べイブの曲ばかりやるのは違うと思う。でも最後は全員で「DOWN TOWN」を歌いたい」(伊藤)

「シュガー・べイブにこだわるわけではないけれど、せっかく銀次さんもユカリ(Dr)も一緒だし、やっぱり、数曲はやるでしょ」(大貫)

伊藤 僕のパートの最後には、シュガー・べイブの「すてきなメロディー」を、たあぼお(大貫)と一緒にやりたいなと思っていて。それで、最後は全員で「DOWN TOWN」をやりたい。僕と山下(達郎)君で1974年に作ったこの作品が、21世紀に入ってもみなさんに愛されていて、だから自分の曲、シュガー・ベイブの曲ということではなく、この曲を最後にやるというのは、ひとつのランドマークみたいな感じになると思って。みんなで歌えるし、だからこういう集まりの時、特に今回はたあぼおが参加してくれるので、是非やりたいなと思っていて。

大貫 いいと思う。「すてきなメロディー」は主メロを山下君が歌っていて、私は上をハモっていたので、主メロは歌って欲しいな。

伊藤 あの曲は、元々たあぼおが終始ハモっている曲なので、やってもいいかなと思って。

大貫 自分のパートでは、まだ決まっていないけれど「いつも通り」とか、ソロになってからレコーディングした、シュガー・べイブ時代に書いた曲とかも考えています。

――このライヴの企画が持ち上がって、出演メンバー、バンドが出そろってくると、やはりシュガー・ベイブの曲をやろうという感じになるのでしょうか。

伊藤 それは全くなかったです。シュガー・ベイブを解散してもう40年以上経つし、もちろんそれぞれの歴史の一部ではあって、でもシュガー・べイブは、やっぱり山下君が中心にいて、それで僕らがいたので、二人が揃うからといって、シュガー・ベイブオンパレードというのは、ちょっと違うなと思っていて。

大貫 シュガー・べイブにこだわるわけではないけれど、せっかく銀次さんもユカリ(Dr)も一緒だし、やっぱり、数曲はやるでしょ。

伊藤 たあぼおと僕がソロになって、一緒にステージに立つのは初めてだし、ファンの方もそれを楽しみに来て下さる方もいると思うので、何か二人で歌える曲はないかなと思って、「すてきなメロディー」があるじゃないかと。この曲は山下君から頼まれて、僕が詞を書いて、でも納得できるものができなくて、山下君とたあぼおが書き直してできあがったものです。だから本来は、作詞のクレジットに僕の名前はないはずなのに、山下君が「このタイトルがなかったら、この詞はないわけだから、銀次も共作だ」と言ってくれて、3人の共作になっています。

「共演するのは約40年ぶり?イベントでも共演していないんです」(伊藤)

「私はイベントにほとんど出ないというか、声がかからない(笑)」(大貫)

――出演するアーティストとは昔から繋がりがあると思いますが、大貫さんとこうして同じステージに立つというのが約40年ぶりというのが意外です。

伊藤 シュガー・ベイブの時以来だから、約40年ぶりかな?イベントとかでも共演していないんですよ。

大貫 そう、なかったですね。でも銀次さんのラジオ番組に呼んでいただいたりとか、顔を合わせたりしているので、全然そんな感じがしない。大体私、イベントというものにほとんど出ない(笑)。というか、声がかからない(笑)。ソロになってからしばらくは、毎年アルバムを出して、すぐにツアーに入ってという感じだったので、それ以外のことをする余裕がなかったというか。

伊藤 たあぼおは、昔から自分の活動を中心にきちんとやっていたから、僕みたいにあっちこっち顔を出していなかったね(笑)。楠瀬誠志郎君は、僕のアルバムにコーラスで参加してもらったり、僕がプロデュースするアーティストに楽曲を提供してもらったりしていました。カズン(古賀いずみ、漆戸啓)は、僕がユースケ・サンタマリアをプロデュースした時、彼と同じ事務所にいたのが二人で、知り合いました。それとお互いキューン・ソニー(当時)から作品もリリースしていたり、カズンがデビューした当時、僕のラジオ番組に出てもらったりしました。

「えっ!ウッドストックに影響されたの?ロックじゃん」(伊藤)

「そうよ、ロック少女だったんですよ、知らなかった?(笑)」(大貫)

――シュガーベイブ、はっぴぃえんどの音楽に影響を受けた若いアーティストもたくさん出てきて、海外でも評価が高くて、当時のレコードを買いに日本にくる外国人も多いようですね。人気バラエティ番組『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京系)でも、アメリカから大貫さんのアルバムを買いに来た人が、クローズアップされていました。

伊藤 僕らは特別な音楽をやっているというつもりはなかったけど、日本にはなかった音楽をやろうと思っていました。やらなきゃという感じではなく、やっぱりアメリカの音楽がカッコよかった。

大貫 そうですよね。私は映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』(1970年)を観て、衝撃を受けて。

伊藤 えっ!ウッドストックに影響されたの?ロックじゃん。

大貫 そうよ、ロック少女だったんですよ、知らなかった?(笑)、ザ・フーも、ジミ・ヘン(ドリックス)、ジャニス(・ジョプリン)もCSN&Y、スライ&ザ・ファミリー・ストーンも、当時、17、8才で観た映画は衝撃的だった!あまりにカッコよくて。すべてがカルチャーショックでした。

伊藤 無法地帯だったね(笑)。僕もウッドストックに影響を受けました。洋楽に何を感じたかというと、音楽は自由ということです。ソウルやカントリーがルーツのアーティストが、ロックをやったり、自由なんだと思った。

大貫 ウッドストックの映画を観たのは高校生の時だけれど、中学時代は大橋巨泉さん司会の『ビートポップス』(フジテレビ系)。当時の洋楽ベスト10のような番組に夢中でした。

伊藤 たあぼおのそういう音楽的なルーツの話、初めて聞いた(笑)。

大貫 例えば、よくビートルズから影響を受けたという方は多いですが、もちろん彼らのほとんどの曲を知ってますが、当時レコードは買わなかった。だから一枚も持っていない(笑)。後に、CDでは買いましたけれど。だからビートルズからの影響を受けていない、ということは事実です。

「きれいな音楽で、リズムが激しいというのはシュガー・べイブが最初だったと思う」(伊藤)

「当時の風潮では、軟弱なバンドという評価だった(笑)」(大貫)

伊藤 影響を受けたというと?スティーヴィー・ワンダーとか?

大貫 スティーヴィー・ワンダーは、もちろん好き。彼のコード展開の持って行き方も。でもいちばん影響を受けた人はジョニ・ミッチェルですね。彼女のようになれたら、と思ってきました。あの独特の世界観は唯一無二ですし。

伊藤 たあぼおのコード(3つ以上の音を同時に鳴らした時の響き)の使い方を見ていると、スティーヴィー・ワンダーを感じる。すごく難しいコード使ってるから(笑)。僕はシュガー・ベイブというと、脂汗の歴史です(笑)。加入できたことはよかったのですが、山下君やたあぼおが作る曲の、難解なコードを見ただけで脂汗が出ていました(笑)。シュガー・ベイブの音楽は世に出るのが早すぎたんだと思う。激しいコード展開のきれいな曲だけど、そういう曲を当時、日本人はあんなに激しいリズムで聴いたことがなかったのだと思う。

大貫 難しいコードというか、メロディーを書く時にそれが頭の中で鳴っているから。でも当時はメジャーセブンス(3音で構成されるメジャーコードに、そのコードの下から7音階目の音を加えたコードのこと。「C」=「ド」なので、Cメジャーセブンスなら「ドミソ」に「シ」を足したコードになる)を多用しているバンドはあまり見なかったですね、日本では。だから、当時の風潮としては、軟弱なバンドという評価(笑)。

伊藤 聴いている人が、踊る音楽なのか、ちゃんと聴かなければいけないのか、戸惑っていたと思う。リズムを楽しむという楽しみ方が、日本ではまだ一般的ではなかったと思います。リズムというとハードロックとか、そういう捉え方だった。きれいな音楽でリズムが激しいというのは、シュガー・ベイブが最初だと思う。

――今回のライヴのハウスバンドも、シュガー・ベイブのメンバー・上原 ユカリ 裕(Dr)さんを始め、田中拡邦(G)、六川正彦(B)、細井豊(Key)という、伊藤銀次バンドのレジェンドたちが揃いました。

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伊藤 みなさん勘違いしているかもしれませんが、このイベントは僕がプロデュースではないですから(笑)。たまたま僕がいつも一緒にやっている、(上原)ユカリ君とか細井(豊)君が参加していますが、もちろんアレンジに関してのまとめ役は僕がやりますが、みんなでアイディアを出し合ってやります。バンドメンバーの中では、ギターの田中拡邦(ママレイド・ラグ)君が一番若くても、だからメンバーを紹介するときには「これからのレジェンド」って紹介しようと思って(笑)。若いといっても40手前だけど、彼はお父さんの影響ではっぴいえんどが好きになって、ママレイド・ラグを結成したんだそうです。声が大瀧詠一、ギターは鈴木茂という“一人1/2はっぴいえんど”のような人(笑)。だからベテラン勢の中に入っても、音の世界観が変わらないという、素晴らしいギタリストです。

「やっと歌うことが楽しいと思えるようになった」(大貫)

「60歳を過ぎて、やっと歌がわかってきたという感じ」(伊藤)

――銀次さんも様々なスタイルで、精力的にライヴ活動を行っていて、大貫さんも恒例の東京・大阪でのビルボードライヴを終えられたばかりで、先日インタビューさせていただいた際は「今、歌うことが本当に楽しい」とおっしゃっていました。そんな充実したお二人と、楠瀬誠志郎さん、カズンさんの歌を聴くことができる、まさに“ポップスの祭典”とでもいうべきライヴです。

伊藤 ポップスという共通言語はあるけど、一組ずつその音楽性は違います。でもハウスバンドが演奏することで、自然と統一感が出てくると思う。それが面白いと思います。それぞれのアーティストの代表曲、ヒット曲を、最高のバンドの最高の音で披露します。僕は、本当に歌に自信がなかったんです。だって大瀧詠一、山下達郎という稀代のボーカリストが近くにいて、でもそれは言い訳でした。自分がプロデュースをやるようになって、ボーカルのディレクションをする場面もあって、そこでちゃんと歌って伝えないと説得力がない。そんなことをやっているうちに、歌についての色々なことがわかってきて。教えるということは教わることだなと思いました。

大貫 歌はやっぱりライヴを重ねて鍛えるしか、方法はないと思う。恥かしい気持ちになる時もあるけれど。

伊藤 先輩からのありがたいお言葉(笑)。でも本当に恥をかくことが大事だと思う。

大貫 私も、歌の上手い山下君と一緒に始めたことで、歌に対してのトラウマから長い間抜けることができませんでしたけど。努力して続ける限り、下手になっていくということはないわけですから、今はやっと、歌うことが楽しいと思えるようになりました。

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伊藤 バンドでやっているときは、あまりわからなかったけど、アコギ一本でやっていると、モニタースピーカーから自分の歌とギターが聴こえてくると、本当に悪いところ、できていない部分がわかる。そうやって30~40本やっていくうちに、理屈じゃなくて、体感でわかるようになりました。大瀧さんが亡くなった後、ナイアガラの作品を全部聴き直しているうちに気づいたのは、大瀧さんのあの歌い方が好きだったんだなということでした。ニルソンに影響を受けている大瀧さんの、あの唇を使って歌に表情を出す歌い方。これが好きだったんだと思って、それでジャズのライヴをやることにしました。ピアニストと僕の二人だけで。大瀧さんの魅力を再発見して、ナット・キング・コールやメル・トーメの音楽を必死で聴いてみると、全部がリズム、オンビートで歌っていて、それを発見できて自分の歌が変わりました。面白くなったけど、改めて難しいと思いました。歌の世界に入って何年生かわからないけど(笑)、60歳を過ぎて、やっと歌がわかってきたという感じ。

大貫 自分のライヴももちろん楽しいけど、いつもプレッシャーの中でやっているので、このライヴは大いに楽しみたいと思います!

「otonanoライブ」オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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