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aiko 「どうかずっと覚えていてくれますように」と歌い、思い続けた20年 さらに加速するその人気

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
8月30日、サザンビーチちがさきに、3万7千人ものファンが集結

「自分の中にひとつの大きな希望が生まれた気がする」最新アルバム『湿った夏の始まり』

『湿った夏の始まり』(6月6日発売/通常仕様)
『湿った夏の始まり』(6月6日発売/通常仕様)

「すべてが出来上がった瞬間に感じた“出し切った!”という想いは今までで一番強かったし、このアルバムによって自分の中にひとつの大きな希望が生まれた気がします」――これはaikoが記念すべき20周年の今年6月に発売した、最新アルバム『湿った夏の始まり』の、オフィシャルインタビューの中の言葉だ。まだ20年?もう20年?と、本人に確かめてはいないが、その活動をストップさせることなく紡いできた20年という歳月、作品毎に鮮やかに“今”を更新し続けてきて、さらに今また「大きな希望が生まれた気がする」といえる充実ぶりからすると、まだ20年、なのではないだろうか。

確かにアルバム『湿った夏の始まり』は、1曲1曲の「濃度」が、いつにも増して高い。歌も言葉もより濃密さを増している気がする。そこに感じるのは彼女の“体温”だ。現実に起こったこと、経験した想いから生まれる歌詞。さらにそれが夢の中で広がり、もっと深い部分を捉えることで完成する。そんな、“想いを巡らせる時間”は誰にでもある。だからこそaikoの歌詞は共感を得る。そんな歌詞を、今回は高いフェイクやロングトーンを多用して、より生々しく伝えているから、いつもよりも濃密に感じるのかもしれない。今回は1曲目「格好いいな」と13曲目「だから」で、島田昌典が久々にアレンジャーとして参加している。島田のアレンジは、先述したaikoの詞の世界を、細かいニュアンスまで見事に表現してくれる。もちろん夢の中で深く広がっていくその様も、捉えてくれているようだ。メロディと共に聴き手の心のひだひとつひとつにまで広がり、浸透していく。

20周年の夏に、あの名盤で描いた夏のその後を映し出す作品を発表し、ファンとの特別な空間『LLA6』を開催

オフィシャルインタビューでaikoは、こんなことも言っている。「気づいてみれば2001年に出した『夏服』からもう17年経っていて。今回、6月にリリースすることになったときに、ふと『夏服』の17年後を描きたい、『夏服』の後に私が過ごしてきた“夏”を描いたアルバムにしたいなって思ったんです」と、名盤で描いた夏のその後が、今回は大きなテーマになっている。そんな特別な思いを馳せる今年の夏に、aikoはファンと共に忘れられない思い出を作った。それが8月30日に神奈川・サザンビーチちがさきで行った、野外フリーライヴ『Love Like Aloha vol.6』(以下LLA6)だ。LLAは2003年8月30日に第1回目が行われ、以降は06年、08年、12年、15年と不定期に行われてきた。今年は3年ぶりの開催で、待ちわびたファンでLLA史上最高の3万7千人を動員。20年を迎え、さらにパワーアップしたaikoの力を見せつけてくれた。

細部に渡るまで“規格外”のフリーライヴ。全てはファンのために

Photo/岡田貴之
Photo/岡田貴之

フリーライヴといっても、一切手抜きなし。ライヴは1時間45分と、本気度が伝わる。全国ツアー真っ最中だが、バンドは違うセットリスト、違うアレンジで臨む。波打ち際に組まれたステージは、アリーナでライヴを行うかのような巨大なもので、上手と下手には超大型ビジョンが設置されている。少しでもファンに近づきたいという思いは、50mもの花道になり、音響も、ゆうに100メートルではあったであろう、客席最後方までしっかり良音を届けてくれた。炎天下の中、早朝から会場を訪れるファンのため、グッズ販売所として、冷房が効いた巨大テントを用意するなど、ファンに少しでも快適に楽しんで欲しいという、aikoとスタッフの思いが会場の隅々にまであふれていた。

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オープニングナンバー「夏が帰る」のイントロが流れると、「待ってました」とばかりに、客席が一気に盛り上がる。夕暮れ時、海からの湿った風でまだまだ気温が下がらない会場の空気は、さらに熱を帯びる。そんな中で次々と新旧の曲を放っていく。最高のロケーションの中、寄せては返す波の音もサウンドの一部となり、どの曲もライヴ会場で聴くそれとは、全く違う肌触りとなって、伝わってくる。客席がヒートアップする中で、名バラード「瞳」が投下される。優しさの中にも凛とした思いを感じさせてくれるaikoの歌と、柔らかな潮風に包まれる客席に、大きな感動が広がっていくのが伝わってくる。「今日は3年ぶりの屋外でのライヴなので、すごく向こうの人から、海の向こうや空の上まで、たくさんの自分の歌を届けられたらいいなと思っています」と語るaiko。「天の川」も時折目をつむり、砂の上で一生懸命応援してくれているファン、残念ながら会場に来ることが叶わなかったファン、そして空の上で見守ってくれている人達、全ての人々へ情感を込め、歌っていた。

会場のサザンビーチちがさきで、敬愛するサザンオールスターズのカバーを披露

aikoは20年、そしてaikoが敬愛するサザンオールスターズは今年40周年ということで、LLA恒例のサザンのカバーを、今年も披露してくれた。「サザンオールスターズ40周年記念おめでとうございます!歌います!!」というメッセージを合図に、「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」「Ya Ya(あの時代を忘れない)」を含むメドレーだ。サザンが大好きなaikoが歌うカバーは、愛とリスペクトに溢れ、またサザンビーチで聴くとさらに郷愁感を感じる。〈君にいいことがあるように〉という一度耳にすると耳から離れないフレーズがリフレインされる、最新シングル曲「ストロー」では、笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねながら、客席にポジティブなエネルギーを振り撒く。ちなみにこの曲のMUSIC VIDEOが『MTV VMAJ 2018』で、<最優秀邦楽女性アーティストビデオ賞>を受賞したことが、先日発表された。

aikoとファンのスペシャルな夏の最後に選ばれたのは、人気ナンバー「キラキラ」。決してキラキラしたハッピーな内容の歌詞ではないこの曲。しかし希望の光を差しこんでくれる言葉が、散りばめられている。「キラキラ」を歌う前に「今日のことを、どうか、どうかどうか、ずっと覚えていてくれますように!」というaikoの言葉に、彼女が20年、愛され続けられる理由が秘められている。ずっと覚えてほしいから、何事も全力でぶつかり、ファンの気持ちが他に向かないように、ファンファーストで最大限の愛情を持って接する。長く歌っていきたい、そしてひとりでも多くの人の聴いて欲しい、そのためのすべを、正直に、愚直に実行しているのだ。

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宴の締めくくりは、ゆく夏を惜しむようなド派手な花火。1700発、ここも本気だ。次から次へと打ち上げられる花火が、漆黒の海と、会場、茅ヶ崎の街を明るく照らし、会場前のマンションのベランダに、手作りの横断幕を括り付け、応援していたファンの笑顔も、ハッキリと映し出した。誰からも愛される彼女は、サザンの地元・茅ヶ崎の街の人々からも愛されている。

20年という時間は、ファンを徹底的に楽しませたいという熱い“想い”の積み重ね

一作一作の歌に込めた思い、一期一会のライヴを、とにかく一公演一公演大切にし、120%楽しんで欲しいという思い、そして本気のフリーライヴ、徹底的なファンを楽しませたいという精神、その“想い”の積み重ねが、20年という時を紡いできた。aikoのライヴに行ったファンのSNSを見るとよく見るのが、“楽しそうなaikoをたくさん見ることができて、今日はしあわせいっぱいな気分になれたよ”という内容の書き込みだ。何をやるにも自身がとことん楽しみ、幸せな気持ちをファンに伝える。受け取ったファンはそれをエネルギーに変え、心の糧にして、日々の生活を送る。aikoの歌はまさに一人のひとりの生活に寄り添い、彩っている。そしてその日々の中で起こったことを、ファンはaikoのライヴに“報告”にくる。aikoとファンの会話のキャッチボールは、aikoのライヴには欠かせないものになっている。

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「みんなの心に穴を開けたい」aikoと、開けられたファンとが向き合い、これからも共に歌い続けていく。自分は自分の道を突き進むのみ――aikoの20年を見てきて感じることは、確固たる意志は変わることなく、その情熱はむしろ輝きを増し、多くの人の目に眩しく映っているのではないだろうか。現在aikoは全国27か所で45公演を行う、自身最大規模の全国ツアー『Love Loke Pop vol.20』の真っ最中だが、きっと5年後、10年後も変わらないスタンスでライヴと創作活動を楽しみ、ファンと接しているに違いない。ファンは至近距離でその“体温”を感じているはずだ。

aikoオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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