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城南海 『西郷どん』を歌う 「同じ島の女性として、愛加那さんになりきって方言で詞を書き、歌いました」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「愛加那さんは西郷さんと暮らした3年間を心の支えに、生きていったのだと思う」

『西郷どん』劇中歌と、大河紀行テーマ曲が収録された12枚目のシングル

「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~」<配信シングル>
「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~」<配信シングル>

来年デビュー10周年を迎える、奄美大島出身のシンガー・城南海。その歌はますます瑞々しさを増し、そして深い優しさを湛え、聴く人の心を潤す。そんな城の、進化した表現力を堪能できるのが6月20日に発売された12thシングル「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~」だ。現在オンエア中のNHK大河ドラマ『西郷どん』のドラマ劇中歌「愛加那」「愛、奏でて」(「愛加那」の三味線弾き語りバージョン)と、ドラマの最後に流れる大河紀行の音楽に起用されている。藩命により、奄美大島に蟄居した西郷吉之助(隆盛)が、3年間一緒に過ごした、島妻である“愛加那”。そんな愛加那という女性について、同じ奄美大島出身の城が歴史を辿り、島の人々に話を聴き、愛加那の西郷への想いを島の方言を使い、詞にしたためている。城でなければ歌えないこの歌について、そして愛加那という女性について、城に聞いた。

奄美大島に蟄居した西郷吉之助(隆盛)が3年間一緒に過ごした、島妻・“愛加那”の西郷への想いを、島の言葉で紡ぐ

城は2曲の作詞を手掛けるにあたって、奄美大島、徳之島、沖永良部島に流された西郷隆盛と結ばれ、2人の子供をもうける奄美大島の女性・愛加那の軌跡を辿り、島の人々に話を聞き、徐々にその実像と西郷への思いを、手繰り寄せていったという。「私も奄美大島に住んでいましたが、西郷さんと愛加那さんの関係は詳しくは知りませんでした。なので、歴史を振り返るところから始めました。でも資料もそんなにたくさんは残されていなくて、二人が暮らした龍郷という集落の方にもお話を聞かせていただいたのですが、みなさんも「想像ですが」っておっしゃりながら、西郷さんとは島妻として3年間しか一緒に住んでいないけど、その3年間を心の支えにして、暮らしていたんじゃないかなって。そんな愛加那さんの思いを、龍郷の方言で表現しようと思いました」。

「島を出る西郷さんを、愛加那さんが姉妹神として守り、送り出すという歌詞が書きたかった」

島唄はシマ唄でもあり、その集落ごとの方言で歌われる。城は島の言葉で愛加那の思いを言葉にし、愛加那になりきって歌った。「西郷どん紀行~」は、島を出る西郷のことを見送りながらも、強く思う愛加那の凛とした姿を描いている。「<わんや姉妹神ちなてぃ なんば守りゅん>という歌詞で、姉妹神(ウナリガミ)という言葉が出てくるのですが、奄美には漁に出ていく男性を、姉妹神=女性が守るという信仰があって、島を出る西郷さんを、愛加那さんが姉妹神として守り、送り出すという歌詞が書きたかった。奄美から見ると、海の向こうは果てしなく遠い、別世界です。そこから来た人が、また帰る時は止められないだろうなって、島に住んでいた私としては思います。いただいた曲が壮大なメロディラインだったので、あなたの道をちゃんと進んでくださいという、愛加那さんの強い思いを歌詞にしようと思いました」。

歌詞を読みながら曲を聴いていると、女性としての強さも感じるが、どこか虚しさやせつなさ、哀しさを感じる。「本当は淋しい気持ちも絶対あったと思うし、子供を置いていき、次いつ会えるかわからない、一生会えないかもしれないという悲しさが、やっぱり胸の奥では大きかったと思う」

ジャズピアニスト・山下洋輔と一発録りに臨む。「ピアノも歌っているようで、二人で歌っている感覚だった」

そんな島の女性の思いを、城はジャズピアニスト山下洋輔のピアノと一発録りで表現した。テイクを重ねていないからこその生々しさ、隠せない哀しみが表現できている。「ドキドキでした。レコーディングの時初めてお会いしました。紳士的で、優しい方で、包み込んでくれるような感じでした。「どうアプローチしてもOKだから」って言って下さる懐の深さがあって、飛び込んでいこうと思いました。挨拶もそこそこに、すぐにレコーディングに入りました。リハもなしで、本当にワンテイクでした。歌い始めたらピアノも歌っているような、まるで2人で歌っているような感覚でした。お互いの呼吸を感じながら、緊張感はありましたが、心地よい空間でした」。

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同じ奄美大島の血が流れている愛加那になりきり、鹿児島県出身の山下のピアノに導かれ、城は歌い切った。一度きりのセッションはまさに力強く、情熱的で、儚い。一方、「愛加那」「愛、奏でて」は、愛加那の西郷への大きな愛を短い歌詞の中に込め、切々と歌っている。「まず愛加那さんが西郷さんと離れたあと、どういう気持ちだったんだろうと思い、「西郷どん紀行~」より先に、こちらの歌詞を書きました。西郷さんは、珊瑚の石垣のお家を残して行って、私も行ってみたのですが茅葺き屋根の立派なお家で、お庭が広くて鳥の鳴き声も聞こえるし、色々な草花に囲まれて、蝶々も飛んでいて。二間のお部屋で、愛加那さんと西郷さんが、奄美の風を感じながら、自然を見ながら暮らしていたんだなって、より二人の姿が見えた気がしました。愛加那さんは紬織の名人だったようなので、その家で西郷さんを思いながら紬を織っていたのかなと思って。私の父方のおばあちゃんも、紬を織って子供を育てたそうです。島の人にとって紬を織ることは伝統工芸でもあり、生活のためでもあり、愛加那さんも二人の子供のために紬を織っていたのだと思います」。

「島の歴史を勉強する中で、生活に歌が根付いている、唄の島としての成り立ちを感じ、改めて民謡の大切さがわかった」

「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~」<CD>
「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~」<CD>

「愛加那」の三線弾き語りバージョン「愛、奏でて」は、奄美の風に吹かれながら聴いているようで、より哀しみが伝わる。今回、奄美大島出身者として、島の歴史に触れながら、同じ奄美の女性の事を歌ったことで、歌手として何か思うところ、変わってきたところはあったのだろうか。「島妻というものがあることも知りませんでした。私たちの世代は、島のつらい歴史はなんとなく知っていても、本当に島の人たちがどうやって生活していたのかとか、どれだけ辛かったのかということはあまり知りません。でもこの時代に生まれた島人の運命があったんだなとすごく感じて。自分が愛加那さんだったらどう接して、私だったら子供が二人いて、西郷さんと離れたくないって思うけど、それが許されない運命、掟のようなものがあったら、自分の気持ちを押し殺すこともしていたのかなとか。その時、島のみなさんは、民謡、歌に支えられていたのかなって。苦しい中で歌に救われ、逆に歌の中にしか残っていないストーリーもたくさんあって、それは辛い時期を送っているときにたくさん生まれたと聞いています。改めて唄の島としての成り立ちを感じたし、民謡の大切さ、存在の大きさを今回改めて感じました」。

奄美大島出身のアーティスト15名が集結する『唄島プロジェクト』に参加し、島の歴史、自然、文化を次世代に繋ぐ島の唄を制作

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そんな奄美大島出身のアーティスト15名が一堂に会し、世界自然遺産登録を目指すべく、これまでの奄美の歴史、自然や文化を次世代に繋いでいく島の「唄」を制作する『唄島プロジェクト』が発足。歌が生活に根付いている、まさに唄の島である奄美大島版We Are The Worldに、元ちとせ、中孝介、カサリンチュらと共に城も参加している。「みんなで歌うからといってワイワイ明るい感じではなく、奄美らしい、ちょっと哀愁を帯びた感じも入っている、でもグルーヴを感じるカッコいい曲です。島の魅力を伝えていきたい」。この作品は10月頃の完成に向け、制作中だ。

6月30日から全国ツアーがスタート。新曲が収録された初のミュージッククリップ集を、長年支えてくれているファンへの感謝の気持ちを込め、会場限定で発売

城は今回のシングルを引っ提げ、6月30日から全国ツアー『ウタアシビ2018夏』をスタートさせる。「夏のコンサートということで、夏らしい元気な曲をやりたい。サウンド的にも今までもよりもう少しバンドサウンドになると思います。デビュー当時はバンドサウンドの曲が多くて、なので、デビュー当時の曲もやりたいし、新曲を披露する落ち着いたコーナーもあったり、夏らしいオリジナル曲、カバー曲も歌って、とにかく楽しいライヴにしたいです」。

『城 南海 Music Clip Collection』
『城 南海 Music Clip Collection』

新曲というのは、今回のシングルのほかに、実はツアー会場限定で発売される、初めてのミュージッククリップ集『城 南海 Music Clip Collection』(6月30日発売)の中に収録される「ひとつになれたら」を、書き下ろしている。「来年の1月で10周年を迎えるのですが、自分のルーツ、子供の時の思い出を描いて、これまでずっと応援していただいた皆さんに、感謝の気持ちを伝えたいと思い書いた曲です。MVは、すごくレアな曲が入っています。「夢の地図」のMVは実は私もフルで1~2回しか観たことがなくて(笑)。ニューヨークで撮影したものですが、フルでは公開していないと思います」。

少し早いが、10年間の活動を振り返ってもらうと、「デビューしたときは予想もできなかったことを、色々経験をさせてもらっていて成長できたと思いますので、本当にいい10年でした。島の先輩、元ちとせさんの歌を聴いていると、早く年を重ねたいという思いはあります。でも、シマ唄はどれだけ頑張ってもおじい、おばあの歌には勝てないので、自分がおばあになるまで何を経験していくかが大切だと思うので、これからも頑張ります」。

城南海オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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