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萩本欽一 テレビの鬼、笑いの神の"狂気"が引き寄せる「運」と「奇跡」の関係とは

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「この特典映像では貪欲なディレクターのおかげで、映画以上の話をしたね」

萩本欽一"最初で最後の"ドキュメンタリー映画『We Love Television?』がBD&DVD化。特典映像は映画の続編!?

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昨年11月に公開され、話題を集めた萩本欽一の“最初で最後の”ドキュメンタリー映画『We Love Television?』が、5月9日にBlu-lay・DVD化される。注目は特典映像として、まるで映画の続編といっても過言ではない、萩本と、同作品の監督を務めた土屋敏男との70分に渡るスペシャル対談が、70分以上にわたり収録されている事だ。萩本も「僕は映画を観てないし、このDVDも観る気はないけど(笑)、普通だったらこの映画をどうやって作ったのかを話すのに、さらに新しい事を足そうする、この貪欲なディレクターのおかげで、映画以上の話をしたね」と語っているほど濃厚な対談だ。この映像の収録現場に、幸運にも立ち会う事ができたが、そこはまさに“萩本お笑い学校”とでもいうべき、白熱したテレビ論が飛び交い、その言葉全てが映画同様、エンターテイメント従事者はもちろん、懸命に生きている全ての人間にとっての"金言”となっている。

「僕は(テレビの仕事は、)欽ちゃんから直接もらったものだけでやっています」(土屋)

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映画は2011年1月、『電波少年』シリーズで知られる土屋が“専売特許”のアポなしで萩本宅に突撃し、「また視聴率30%を超える番組を作りましょう」と持ち掛けたところからカメラは回り始める。そして特番の番組制作の舞台裏が描かれ、1980年代3本のレギュラー番組がどれも視聴率30%を超え、“視聴率100%男”といわれた、日本の爆笑王の一挙手一投足、全てを映したとてつもなく熱量の高いドキュメンタリーだ。その"続編”とでもいうべき特典映像の対談も、凄まじい熱量の対談になっている。その一部を紹介したい。

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萩本 土屋さんってテレビ作ってる時からあんまりものを言わない人だったから、何考えてるかわからないのよ。一回腹の中とか、胸の奥とか、脳に潜在してることを明らかにさせたい。質問したい、テレビっていうのはどういうものなの?

土屋 僕は全部欽ちゃんからもらったものでやっています。『世界の果てまでイッテQ!』の総合演出の古立(善之/日本テレビ)も欽ちゃんを通した僕と、欽ちゃんから直接もらったものだけでやっていますって言い切ってました。

萩本 あいついいやつ。だから基本的にテレビっていうのは才能で作るじゃん。いいテレビ作るのはいいやつなんだね。

「"見て盗む"だけではその人の事を抜けない。お笑いは、見て覚える文系だけど、それを方程式化する必要があるから、最終的には理系」(萩本)

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土屋 高校出てからですよね、欽ちゃんが浅草に行かれたのは。18~21歳までの4年間。

萩本 で、覚えた事が全て。

土屋 そこで覚えた事がコメディアンの全て。それは修行だったんですよね?

萩本 修行したのは4年です。

土屋 それは見て盗む?

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萩本 見て盗むでしょうね。でも見て盗むっていうのは正解じゃないよね。盗んだらその人のことを抜けない。"見て気づけ”だね。ああいう風にやるんだって思った人の事は抜けないと思う。そこで方程式に気付かないと。お笑いって最終的には文系だと思ってたら、理系だったんだよね。言葉とか見たものを覚えるのは文系。それを方程式化しておかないと。

土屋 さっきおっしゃっていた「フリは静かに真っすぐと」は科学ですし、方程式ですもんね。

萩本 そう、「フリは静かに真っすぐと」。だから僕は素人を番組に出したわけですよ。一番いい相手役なんです。なぜかというと、素人って感情がないんですよ。勉強したらダメになっちゃう。セリフを言う時に、3年もやっているとセリフと動きが一緒に出る。もうちょっとやっていると、セリフより動きが先になる。もしこのDVDを観た若者で、オーディションに行く人がいたら、動きが先に出たら合格ですから。僕のところに来て、「欽ちゃん弟子にして下さい」って動きが先に出たら、合格(笑)。"ため”が大切。今のプロ野球選手も日舞やったら、4割打者が出ると思う。松井(秀喜)がいつ、“ため”っていう言葉を使うかと思っていたら、大リーグに行って、ニューヨーク・ヤンキースでワールドチャンピオンになった時に、この言葉を使ってましたね。日舞やっていれば、"ため”って言葉、半年で出たのに(笑)。僕がもしプロ野球の監督になったら、練習に日舞を取り入れたいもん。チン、トン、、、、シャンです。今21時代のテレビには“ため”が必要。20時代はテンポだけどね。

土屋 ディレクターも日舞をやった方がいいと。

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ここで、スタッフが対談のタイミングを見計らって、お茶の差し替えを持ってくる。そのスタッフに萩本は「タイミングが違う。“ため”が足りない」とダメ出し。スタジオに笑いが起こる。自身が、笑いを取るためのお手本となる動きを見せ、実践指導が始まる。萩本が大好きな素人に笑いのツボを教える、貴重なシーンだった。

萩本 今はテンポ、テンポになっていて、“ため”なんて言っている人誰もいないんだから。

土屋 いいハリウッド映画には“ため”がありますよね。

萩本 『ジョーズ』とかね。だから(スティーブン)スピルバーグも日舞やっているんじゃないですか(笑)。

土屋 (笑)大将、『ジョーズ』以降、映画観ていないんじゃないですか?(笑)。

「運を呼び込めないのはテレビじゃない」(萩本)

「大将が舞台上でやっていたことをロケでやったのが『電波少年』です」(土屋)

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土屋 大将は、奇跡が起こらないものはテレビじゃないとおっしゃっています。

萩本 もっと簡単にいうと、運を呼びこめないのはテレビじゃない

土屋 運を呼び込むためには、普段から何をやっていればいいのでしょうか?

萩本 常に「勇気」を持っている事。奇跡が起こらない番組って、勇気がないんですよ。「もう一度稽古しておきましょうか」というのは勇気じゃないから。「もう一度稽古しようと思うんだが、ここは止めておこう」というのは勇気ですね(笑)。あと、勇気で一番怖くて、僕は絶対できないのは、あなたがやっていた番組『電波少年』で、松本明子がアラファト議長の前で歌を歌うというのがあったけど、あれは無理。俺より勇気があるやつがいるって、ずっと思ってたもん。だから俺の勇気は、「せこい勇気」(笑)。

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土屋 今回映画を作りながらわかった事があって、大将は、舞台上で素人さんに対しても、リハと違う事を本番でやって、その反応を楽しむという事をやっていましたが、それをそのままロケに行ってやらせたのが『電波少年』なんです。だから猿岩石は何も知らなくて、突然ロンドンまでヒッチハイクで行けといわれて、始める。松本明子も「アラファト議長のところに行って「てんとう虫のサンバ」を歌ってもらってこい」って言われてやった事で、大将が舞台上でやっていたことを、ロケでやったのが『電波少年』です。

萩本 あれは勇気×二乗だね。

「運を"ためる"ことが大切。運を"ためた"人に、今まで役を与えてきたつもり」

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土屋 先ほど“運”が“奇跡”を起こすとおっしゃっていましたが、そのために心がけていなければいけない事はありますか?

萩本 運を“ためる”ことが大切。石の上にも三年か五年かわからないけど、運を"ためた”人に、俺は役を与えてきたつもり

土屋 そうなんですよ、大将は“その時運をためた誰か”って言い方をしますよね。でも映画の中で、誕生日にパジャマ姿で家にいる大将を捉えた画がありますが、そういう誕生日とか記念日とかを派手にお祝いをして、運を使わないようにするのでしょうか?

萩本 誕生日というのはただの「生まれた日」、正月というのは「年の初め」。

土屋 大将が書かれた本を読み返したら、番組が当たっている時に、競馬でわざと負け続けたと書いてありましたが。

萩本 負け続けたというのはオーバー。一生懸命当てようとして、でも外れて「やらなきゃよかった」と思うんじゃなくて「よし、これだけ負けて、運がテレビの数字の方に行ってるんだな、大丈夫だ」って思う事が大事。

「大学に行って学んだのは、「修行せよ」と「悟れ」。コメディアンがやることと同じ」(萩本)

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これは二人の対談のほんの一部だ。でも現場での二人の会話のキャッチボールは、ドキュメンタリー映画の続きそのものだ。萩本を師と仰ぐ土屋が、映画だけではまだまだ足りない、聞き足りないとカメラを回しているような感じだった。萩本は「3年間(駒沢大学の)仏教学部にいて、これはいい言葉だと思ったのは、「ずっと修行をせよ」という言葉。勉強しろという言葉はひとつも出てこないの。「修行せよ」のオチが、「悟れ」っていうの。なんだコメディアンと一緒じゃないかと思って。勉強しろって言う師匠はいないんですよ。修行しろって言うんですよ」という。お笑いの大家は今も修行中で、その旺盛な新しいものへの探求心、笑いへの追求心は変わらない。誰も追いつけないのは当たり前だ。萩本のお笑いへの、テレビへの熱狂は止むことはない。

『We Love Television?』(5月9日発売/ポニーキャニオン)
『We Love Television?』(5月9日発売/ポニーキャニオン)

ちなみに特典映像はこれだけではない。「土屋敏男×萩本欽一×高須光聖 3人トークロングバージョン(約60分)」という、もうひとつの熱いトーク映像が収録されている。この二つのトーク集は、テレビを、お笑いを、語り尽くし、ひいてはそれは全ての人の、人生のバイブルにもなりうる、まさに“欽言集”だ。

『We Love Television?』BD&DVD特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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