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最大の武器は「経験」 躍進を続ける個性派演劇集団・番町ボーイズ☆が開ける、新しい扉

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
左から糸川耀士郎、安井一真、二葉勇

人気急上昇中の19人の個性派演劇集団・番町ボーイズ☆

若い女性を中心に、現在その人気が急上昇中の劇団番町ボーイズ☆(以下番ボ)は、19人のキャラクターが立った男達が、舞台を中心に活躍する個性派演劇集団。2015年、結成からわずか半年で第1回本公演を行なって以来、昨年までに10回もの公演を数え、もの凄いスピードで成長を遂げている。様々なテーマの舞台、様々な演出家と出会い、鍛えられ、シーンでも注目を集める存在になった。第10回本公演は映画でも人気だった『クローズZERO』。メジャータイトルというプレッシャーにも臆することなく、番ボらしい躍動感のあるエネルギッシュで瑞々しい舞台を作り上げ、大成功させた。“次”が楽しみになる圧巻の熱量だった。その、“次”が発表された。第11回本公演は『眠れない羊~番町ボーイズ☆の場合~』を上演する。脚本&演出は、演劇プロデュース・ユニット「空想組曲」のほさかよう。番ボ初のミステリーだ。メンバーを代表して、主役の安井一真と、糸川耀士郎、二葉勇の3人に今回の舞台について、そして改めて番ボという集団について、話を聞かせてもらった。

「『眠れない羊』で、また番ボの新しい扉を開けることができる」(安井)

「今回の舞台では、立ち上げから4年経ち、成長した姿、チームワークの良さを見てもらいたい」(糸川)

――『眠れない羊』はこれまでに他の劇団でも演じられた人気作品で、再演になりますが、最初にこの舞台をやるという話を聞いた時はどう思いましたか?

糸川 今までは色々な劇団の方がキャスティングされて上演していましたが、今回は番ボのメンバーでやるということで、僕らにしかできない演目にしたいなと思いました。会話劇なので、チームワークの良さや、立ち上げから4年経って成長した姿を見てもらいたいので、そういう意味でも挑戦だし、わくわくしました。

――サブタイトルに“番町ボーイズ☆の場合”というキャッチコピーがついていますね。

安井一真
安井一真

安井 僕は作品に関して、全く情報がない状態で聞いたので、自分なりに色々と調べたら、今まで番ボがやったことがないシリアスなものというのが新鮮でした。会話劇も初めてで、改めて僕らは毎回新しいことに挑戦しているなと思って、また新しい扉をこの舞台で開けることができると思いました。

二葉 僕は、番ボで会話劇の舞台がやりたいというのをずっと言っていました。『クローズZERO』という、僕がこれまで関わった作品の中でも一番メジャーな作品の後に、ガラッと変わった会話劇ができるというのは、嬉しかったです。『クローズ~』はアクションも大きな要素でしたが、芝居だけ、演技で真っ向勝負できるのが今回は楽しみです。

――第10回本公演という、ひとつの通過点で『クローズZERO』という誰もが知っているタイトルの舞台をやり終えた後は、どんな感じだったのでしょうか?以前インタビューした時に、みなさん相当気合が入っていたので、やり切った後、エネルギーを放熱し切った後は、抜け殻のようになったのではないかと(笑)

二葉勇
二葉勇

二葉 10回目というのもあったし、年末だったので、一瞬抜け殻になりました。それまでは、間を空けずにずっとやり続けてきたので、今回少し期間が空いたので、リフレッシュできました。

安井 10回目が『クローズ~』というメジャータイトルに決まった時に、逆に11回目は10回本公演よりも良かったと言ってもらえるものを作りたいと、メンバー一同思いました。だから今回も、12回目も13回目もずっと熱のある舞台にしていきたい。

――番ボのメンバー個々の活動も増えているようですが、やはりそこで得たものを番ボの舞台で生かしたいという思いがそれぞれ強いのでしょうか?

二葉 それはあると思います。今回メンバーと本読みの時に、みんながすごく成長しているのがわかって、あと、“空気感”が出せるようになったなと思いました。本読みの時点で、芝居がちょっと見えるというか、“間”の空気とか、そういうのがこのメンバーでやるとつかみやすいというか、嬉しくなりました。

「これまで色々な演出家の方と仕事をすることで生まれた感覚、やり方は、外部の舞台に出演した時に、他の役者さんからも羨ましがられる」(二葉)

――“間”とか“空気感”が、それぞれの劇団のカラーになっていますよね。今回は演出のほさかさんからは、どんなリクエストがありましたか?

二葉 ほさかさんもこの舞台は3回目になると思いますが、そんな中で「番町ボーイズらしい舞台にしてくれていいから」と言ってくださいました。「自由にやってくれていいから、出し過ぎなくらい稽古で出して、そこから引き算していけば面白い舞台ができると思う」と。

糸川耀士郎
糸川耀士郎

糸川 執事の格好をしているので、ファンの方には喜んでいただけると思いますし、フライヤーを見ただけで、楽しそうって思っていただけると思いますが、「ただのコスプレにはなって欲しくない。執事になりきって役者として、番ボのレベルがまた一段上がったというのを見せられる舞台だと思う」と、言っていただいたので気を引き締めて臨みます。

安井 僕は他のメンバーに比べると、舞台経験が多い方ではなくて、でもすごく抽象的な言い方なんですけど、ほさかさんのやり方が大好きです。稽古初日に、ほさかさんが色々な設定を考えようと言って、年代はいつ頃で、季節はいつで、場所はどのあたりで、誰々は何歳くらいだろうって、すごく細かいところまで決めて。そういうやり方を経験するのが初めてだったので、その世界にすんなり入ることができましたし、この舞台が終わった後、また自分も含めて番ボが変われると思いました。

二葉 全員でいきなり1回目の稽古で設定を一致させて、でもみんなの意見も取り入れて、押し付けるのではなくて、全体で作っている感じがすごい。

――毎回演出家の方が、番ボのメンバーのそれぞれの中に眠っているものを引き出してくれる感じがしますよね。

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二葉 同じ舞台シーンでやっている役者さんの中でも、番ボのメンバーは、すごく引き出しが増えていっていると思います。それは僕自身が外部の舞台に出た時に感じました。「それどこで学んだの?」とか「どうやってそういう発想が出てくるの?」って聞かれることも多くて。でも自分としてはなんで出てくるんだろう?という感覚もあって。自分の感覚と色々な演出家さんの感覚がミックスされて、新しいものが生まれていっていると思っていて、それは外に出た時に特に感じるので、番ボに入れてよかったと感謝しています。

「『眠れない~』は、見方によっては全員が主役になるのが面白い」(安井)

――今回の『眠れない羊』の見どころをそれぞれ教えて下さい。

二葉 今回は会話劇という事もあって、劇場(恵比寿・エコー劇場)のサイズもちょうどいいなと思っていて、お客さんは、同じ屋敷の中の同じ部屋にいる感覚になれると思います。距離感も近いし、会話劇で引き込まれていく内容なので、そこに音響や効果音がプラスされると、本当に同じ部屋で観ているんじゃないかって錯覚すると思う。映画館とはまた違う、劇場ならではの空気を楽しめる時間になると思います。

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糸川 執事という設定だけで、非現実的というか、知らない世界に踏み込んだ感じがあると思います。その中で、こいつの正体は一体?と、一人ひとりの謎めいた部分が気になるミステリーです。謎めいたイケメンの執事達っていうのが、まずキャッチーですよね(笑)。群像劇というより、ミステリー小説を一冊読んだような感覚になれると思います。

安井 今回、座長をやらせていただいて嬉しいですけど、僕がメインというよりは、見方を変えると全員が主役になるというが面白いなと思って。本読みをしていても、全員が主人公に見えてきて、僕を見ているお客さんは僕が主人公に見えるし、他の人を見ていたら、その人が主役になるし、かつ全体もきちんとまとまっているという、本当に面白いなって。

二葉 全員にフォーカスを当てているのに、全然ぐちゃぐちゃにならないのがすごいです。

「メンバーが自分の弱い部分をさらけ出すようになって、グループが変わった」(二葉)

「最初の頃はみんな気遣いあいながら猫を被っていた仲良しグループ。今は全員男臭くなって、本当の家族のような雰囲気」(安井)

――番ボはスタートして4年、本公演も10回を数え、色々な経験、試練を積んできて、グループの中の空気というか、メンバーの一人ひとりの意識のようなものは、どんどん変わってきているのは、中にいると肌で感じますか?キャラクターや役割分担のようなものも含めて、全貌が見えてきましたか?

二葉 今まではメンバーの入れ替わりもあったりしましたが、ようやく落ち着いてきて、メンバー一人ひとりが、番ボを盛り上げるんだという気持ちになっていると思います。そういう面では、ファンの方の中にも、今までの番ボはどう応援していいのかわからないという人もいたかもしれません。でも今は番ボの全体像が固まってきて、応援してもらいやすい状況にもなっていますし、今まではメンバー個人推しという人が多かったのですが、ハコ推しも増えてきているのかなと思います。一番変わったなって思ったのは、今まではメンバー全員が強がっていて、弱い面を見せないようしていたけど、最近は自分の弱点、ダサい部分をさらけ出すようになってきたのが大きいと思います。

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安井 最初の頃は、女子の仲のいいグループのような感覚があって、みんな気遣いあいながら猫も被りつつ、でも仲のいい感じはある、みたいな(笑)。でもそれがだんだん男臭くなってきて、表面の仲の良さではなく家族っぽくなってきました。

二葉 番ボの中で、(糸川)耀士郎個人の仕事がすごく増えてきて、もちろん悔しさもありますが、今はメンバーの誰かの人気が出てくれると、それが番ボの名前を広めてくれることにつながるのがすごい嬉しくて。最初は同じ役者として嫉妬心もありましたが、それが段々なくなってきて、純粋に応援したいし、そこで得たものを番ボに還元してくれたら嬉しいです。心強いし、頼もしく思うし、そういう感情が芽生えてきたということが、チームワークにつながっていると思う。

「毎回違う作品を観ているような感覚になれる、"生もの"であることが舞台の魅力」(二葉)

――メンバーそれぞれが外部の舞台への出演も含めて、色々な仕事が増えてきていると言っていましたが、改めて舞台というものの魅力を教えて下さい。

二葉 やっぱり“生もの”というところが一番の魅力だと思います。映画やドラマはセリフを間違えるとやり直し、撮り直しになりますが、舞台だとそれもみんなでカバーして、いいアドリブになって笑いが起きたりします。日によって役者の表情が違ったり、今まで涙を流していなかったところで涙を流す瞬間があったり。それは日によってみんなの気持ちの作り方が違う場合もあって、熱量が違うというか、だから毎回違う作品を観ているような感覚にもなれると思う。生だからやっている方もドキドキしながら観られるという臨場感が、魅力だと思います。

――アーティストのライヴもそうですが、生身で一回一回勝負しているというとことが観ている側には一番伝わりますよね?

二葉 ずっとやっていくわけではないので、儚いんですけど、僕たちがやったことってもう二度とない、同じお芝居って絶対できないし、毎回同じお客さんなんてことも絶対ないし。本当に毎秒毎秒違う瞬間が訪れ、それが8公演だったら8公演につまっているというのが、淋しいけど美しいと思えるので、すごく好きですね。

――桜のような。

二葉 短い一瞬だけど、バッとスポットライトが当たって。花火とも言えますね。

「2.5次元の舞台も共通していることだけど、登場人物が"そこに生きている"という感覚になれるのが、舞台の魅力」(糸川)

――咲いた瞬間、スポットライトが当たった瞬間は、こんなに美しいもの見たことないという感じになりますよね。

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安井 本番に至るまでの稽古は決して美しくなくて、みんな稽古着を着て、追い込まれる人は追い込まれて、でもステージに立ったら美しくバッと煌びやかに輝く。

糸川 僕がすごく思うのは、2.5次元の舞台とかも共通してると思うんですけど、そこに生きてるという感覚がすごくいいなって思って。2.5次元の舞台の時も心がけていますが、やっぱりファンの人が、自分が大好きなキャラクターが、目の前で本当に存在してるという感覚になれるのが、舞台ならではだと思います。だから今回の舞台でも、イケメンの執事が目の前にたくさんいて、現実的ではないかもしれないけど、でもその人たちが目の前で生きているという感覚になれる。それが舞台の醍醐味だとは思います。

『眠れない羊』番町ボーイズ☆オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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