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長谷部健渋谷区長×野宮真貴対談<前編>「渋谷区の歌が、世代や人種、ジェンダーを超えて伝わって欲しい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
野宮真貴と長谷部健渋谷区長

野宮真貴、GIMICOらが登場した、渋谷区のカウントダウンイベント『YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018』

『YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018』には10万人もの人が集まった
『YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018』には10万人もの人が集まった
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12月31日に放送された『第68回NHK紅白歌合戦』の"グランドオープニング”は観応えがあった。東京・渋谷のランドマークともいうべき、スクランブル交差点やセンター街の風景をバックに、出演者がミュージカル映画さながらのパフォーマンスで、リレー形式で紅白の舞台NHKホールまで、視聴者をいざなうという演出だった。同じ日、渋谷では大きなイベントが行われていた。カウントダウンイベント『YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018』だ。2016年に初めて行われた同イベントには6万7千人が、今回は10万人(主催者発表)が集まり、盛大に行われた。23:00からの開会式で渋谷系の女王・野宮真貴が歌うピチカート・ファイヴ「東京は夜の七時」で幕が上がると、ステージが一気に華やかに。野宮は「渋谷のスクランブル交差点は「世界一待ち合わせの人が多い場所」と聞いていますし、最近は海外の方もたくさん来ていて、世界的に有名な場所になりました。今、お届けした私の代表曲「東京は夜の七時」も世界でも有名な曲なので、今日はダイバーシティ・渋谷のカウントダウンに相応しい一曲だと思い、歌わせて頂きました」と語った。義足モデルのGIMICOさんも登場し、「東京は夜の七時」は、憧れの曲。田舎に住んでいた時に、この曲を聴きました。私にとって“東京そのもの”のイメージ、それをこのカウントダウンイベントで生で、そばで聴けるなんて感動しました」と感激した様子だった。さらに渋谷の街についての印象を「渋谷のという街は色々な人が集まる場所。それを受け入れることができる街は素晴らしい」と語った。長谷部健渋谷区長からも「渋谷区基本構想」の掲げるビジョンが紹介され、そのPRソング「夢みる渋谷 YOU MAKE SHIBUYA」を野宮が歌った。日付が変わる瞬間には、集まった10万人から大歓声が沸き起り、新年を祝った。

そんな渋谷区のリーダーとして「人の上に立つのではなく前に立ち」、「YOU MAKE SHIBUYA」というテーマを掲げ、世界中から多様な人々が集まるダイバーシティ・渋谷の未来図を描く長谷部区長と、そのPRソングを歌う野宮真貴の対談が実現。渋谷区と音楽、エンタテインメントとの素敵な関係を、大いに語ってもらった。

「渋谷区基本構想」とは?

――まず「渋谷区基本構想」を具体的に教えていただけますでしょうか。

長谷部 地方によっては基本計画と呼ばれているもので、“政策の最上位概念”に位置するものです。我々はそれに紐づいて全ての政策を考えていきます。20年後の渋谷はこうありたいというビジョンを描き、そのためには単年、5か年、10か年…では何をすべきかという事を、基本構想の傘の中で紐づくように計画をしていく、非常に重要なものです。

――例えば区民や渋谷で仕事をする人が、渋谷区と何かやりたい、提案したいという時に、この「渋谷区基本構想」を読むと、何を必要としているのか、どこへ進もうとしているのかが一目瞭然で、提案しやすくなりますよね。

長谷部健渋谷区長
長谷部健渋谷区長

長谷部 “言葉”には今まで以上に力を入れ、ワード毎にインスパイアされるようなヒントを散りばめて作りました。例えば分野別でいうと、健康・スポーツ面では、「思わず身体を動かしたくなる街へ」という表現をしました。そこには渋谷区を“15平方キロメートルの運動場”と捉えようという事が書かれています。これは新しい運動場やプールを作る事は、土地の問題等の理由で、現実問題として難しいので、渋谷区全体を運動場と考えようと。道路を使って何かできるんじゃないかとか、代々木公園をもっと有効に使えるのでは?という発想が、行政に携わる者だけでははく、区民の方や渋谷で仕事をする方からどんどん出てくると期待しています。それに紐づいたご提案であれば、こちらとしても受けやすくなります。そういう気持ちで“YOU MAKE SHIBUYA”という掛け声の元、この「渋谷区基本構想」に目を通していただき、色々と提案していただきたいという思いを込めています。

「渋谷区基本構想」ハンドブック

「「ロンドン・パリ・ニューヨーク・渋谷区」といわれる、成熟した国際都市を目指す」(長谷部)

――2016年に誕生したコミュニティラジオ「渋谷のラジオ」について、同局の理事長・箭内道彦さんと、開局当初からパーソナリティを務めていらっしゃる野宮真貴さんの対談取材をやらせていただいたのですが、その時に箭内さんが「「渋谷のラジオ」を渋谷の街の寄合所にしたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。最先端の街だからこそ人と人のつながりが必要だと。

長谷部 箭内さんの言葉を借りると、目指すのは「最先端の田舎暮らし」です。住んでいる人にはそういう気持ちで暮らして欲しいですし、でも渋谷区で働いている人、遊びに来て下さる人、また学んでいる人、学んでいる人の中には卒業した後も、この街を第二の故郷と言って下さる方もいて、そんな“シティ・プライド”を集めたいですし、それがたくさん集まっている街が、いい街だと思います。私は、「ロンドン・パリ・ニューヨーク、渋谷区」といわれるようになりたいと、大風呂敷を広げているのですが、これは成熟した国際都市を目指そうというメッセージで、それぞれの街は“シティ・プライド”がたくさん集まっている街です。例えばニューヨーカーとかパリジャン、パリジェンヌ、ロンドンっ子という、自然発生的に生まれたそういう言葉って、シティ・プライドを持った人達を表している言葉ですよね。だからいつか“渋谷人”なのか“渋谷民”なのか、“シブヤー”なのかはわかりませんが、行政側から仕掛けるのでなく、自然発生的にそういう言葉が生まれてくるといいなと思っています。

――2016年はカウントダウンイベントを行い、昨年8月にはスクランブル交差点で盆踊り大会を開催、年末には再びカウントダウンイベントを開催と、みんなが楽しめる場所を作り続けていますね。

『“YOU MAKE SHIBUYA” COUNTDOWN 2016-2017』。約6万7000人が参加した
『“YOU MAKE SHIBUYA” COUNTDOWN 2016-2017』。約6万7000人が参加した

長谷部 イベントは、やっぱり渋谷を好きになってもらう大きなポイントになっていると思っていて、昨年のカウントダウンイベントは7割が外国からの方でした。ありがたいことに、黙っていても皆さんが集まってくれる街になっていて、例えばハロウィンの時も、それを禁止してしまうと渋谷の魅力がなくなってしまうと思いますし、禁止の仕方が思いつかないというのが本当のところです。スクランブル交差点では危険なのでダメと言っても、109の前や道玄坂の方で盛り上がったりするので、だったらちゃんと秩序を持って、合法的にやった方が安全だし警備もしやすいですし、街の価値を失わずにできるのではないかと思いました。ハロウィンはまだ解決策が見つかっていないのですが、翌日のゴミ問題も含めて、もう少しモラルに訴えていかなければいけません。とにかくポジティブに解決していって、今渋谷に集まってきているシティ・プライドの流れを止めないようにしたいです。

――野宮さんは2016年に渋谷区のカウントダウンイベントに参加されましたが、いかがでしたか?

野宮真貴
野宮真貴

野宮 渋谷でカウントダウンイベントができるなんて思っていなかったので、なんだかワクワクしました。ネオンで輝くスクランブル交差点が人で埋め尽くされると、想像以上に壮観で、映画のようでした。

長谷部 思ったよりも人が集まりすぎて、ヒヤヒヤしましたが、何事もなく無事終える事ができましたが、今回はその反省を生かして、ステージをいくつか作って、歌ってもいいステージ、トークだけのステージと分けます。

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2017年8月5日に行われた『第1回渋谷盆踊り大会』には約3万4千人が来場した
2017年8月5日に行われた『第1回渋谷盆踊り大会』には約3万4千人が来場した

野宮 2016年のカウントダウンイベントも、ものすごい数の人が集まってくれましたが、盆踊りにも参加させていただいて、その時は踊るスペースがないくら人が集まってきて大変でした(笑)。海外の方も多く、皆さん見よう見真似で踊ってくれて、嬉しかったです。「渋谷区基本構想」の歌、「夢みる渋谷 YOU MAKE SHIBUYA 」の盆踊りヴァージョンを作って、それを区長と一緒に披露しました。世界の人と気持ちがつながる音楽フェスのようでした。世界中の人が浴衣で盆ダンスを踊るなんて、素敵でしょ。これからも続けていければと思います。

「区長はエンタテイメントの力、文化の力を深く理解して、行政に関わっている貴重な存在」(野宮)

――「夢みる渋谷YOU MAKE SHIBUYA 盆踊りヴァージョン」は、野宮さんのアルバム『渋谷系、ホリディを歌う』にも収録されていて、長谷部さんもレコーディングに参加してします。

野宮と共にレコーディングに臨む、長谷部区長
野宮と共にレコーディングに臨む、長谷部区長

長谷部 ものすごく緊張しました。代理店勤務時代は、MAの時に、スタジオのブースの外で「OK!」を出す役割でしたが、レコーディングは初めてでしたので、とにかく緊張しました。

野宮 大声で盆踊りの「合いの手」を入れてもらって。「渋谷!」って区長が合いの手を入れてくれるなんて、最高じゃないですか!渋谷区長と渋谷系の女王の共演、しかも盆踊り、しかも渋谷109前のステージ!(笑)。渋谷警察署長や渋谷商店街の会長も参加して、渋谷づくし!こんなことは長谷部区長しかできないと思います。区長はエンターテイメントの力、文化の力を深く理解して、行政に関わっている貴重な存在です。先ほど「ロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷区」という言葉がありましたが、都市の成熟度は文化の成熟度とイコールなんだと思います。

「渋谷区長が渋谷系に渋谷区の歌を依頼してきた!」(野宮)

――野宮さんは「夢みる渋谷 YOU MAKE SHIBUYA」をカジヒデキさんと共に作り、歌って欲しいというオファーが来た時はどう思いましたか?

野宮 「渋谷区長が渋谷系に渋谷区の歌を依頼してきた!」ってすごく面白いと思いました。私も90年代からピチカート・ファイヴで「渋谷系」って呼ばれていますし、事務所も渋谷区にありました。今も「野宮真貴、渋谷系を歌う」と題して、渋谷系の歌とそのルーツミュージックを集めたCDを出したり、ライヴをやっているので、何か渋谷に恩返ししたいという思いはずっとありました。でも、渋谷系の音楽を知っている長谷部区長は凄いなと思いました。しかも実際に歌まで作るなんて。

長谷部 もちろんです。世代ですから(笑)。

野宮 “Baby”で始まる歌詞のポップスを区の歌にするのはクリエイティブだと思いますし、画期的ですよね(笑)。ポップスってそれこそ「人気がある音楽」ということで、多くの人に届くものですから。自分にできる事があるなら、いつでも協力したいと思っていましたので、実現して嬉しかったです。

――野宮さんが歌うと聴きやすく、やっぱりオシャレに聴こえます。

長谷部 ジェンダーを超えていく感じもして、さすがだなと思いました。

「「基本構想」は未来を見据えた子供達の「基本構想」でもある。「夢みる~」のダンスバージョンもEXILEに依頼し、制作中です」(長谷部)

――小さい子から上の世代まで、誰もが口ずさめる曲調で、愛される曲になっています。

野宮 そうですね。曲の制作依頼を受けた時に子供からお年寄りまで伝わるメロディと、歌詞もこだわりました。ミュージシャンという人種は、たくさんの人に自分の楽曲を伝えたいという欲望が実はものすごく強いので、区長の思いと共鳴したのだと思います。それと私がバンドを組んでいたピチカート・ファイヴは90年代にアメリカデビューをして、ワールドツアーもしていたので、世界中にファンがいますし、多くのLGBTの方からも支持されています。渋谷区の歌が人種やジェンダーを超えて伝わってほしいと思っています。

長谷部 盆踊りバージョンもそうですが、先日は渋谷区少年少女合唱団が、合唱バージョンを披露しました。

野宮 色々な広がり方も想定して作った歌ので、色々な形で歌い継がれていって欲しいです。

長谷部 詞の目線が独特なんですよね。おじいちゃん目線の時もあれば、子供目線の時もあって、合唱を聴いた時に子供達が<Babyって呼びつづけていいかな>って歌って、スゴイなって思って(笑)。奥が深い歌詞なんです。それと、やはり未来を見据えた子供達の基本構想でもあって欲しいので、この歌を運動会でも使ってもらいたいと思い、ダンスバージョンをEXILEさんが作ってくれています。

野宮 すごいですね!ダンスも作るんですか?

長谷部 はい、今EXILE・USAさんが作ってくれています。

<後編>に続く

長谷部健オフィシャルサイト

野宮真貴オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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