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フィギュアスケート 氷上で演じられる物語をもっと深く知るために――音楽は自分を体現する大切なアイテム

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

先日、2018年2月に行われる平昌オリンピック代表最終選考会を兼ねた、「全日本フィギュアスケート選手権」が行われ、男女とも代表選手が決定し、ますます盛り上がりをみせるフィギュアスケート。羽生結弦選手を始め、スタースケーター達の華麗な演技に、その人気は日に日に高まっているが、フィギュアスケートをもっと楽しみたいというファンに好評なのが、BSフジの『フィギュアスケートTV!』だ。フィギュアスケートをより詳しく、そしてより深く楽しみたいという、ファンの心をくすぐるプログラムだ。そのメインMCで、「フィギュアスケート解説の達人」八木沼純子に、番組の魅力と、さらにフィギュアスケートとは切っても切り離せない音楽との関係を語ってもらった。

「『フィギュアスケートTV!』は、フィギュアファン初級者も、コアファンも、どちらのファンにも気持ちよくなってもらいたい」

――日本中でフィギュアファンが増えて、もっと掘り下げたいと思う人が、この番組を楽しみにしています。

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八木沼 楽しんでいただけていると聞いてとてもありがたく思っています。本当にフィギュアを愛してくださるコアな方から、初めてフィギュアを観てファンになってくださった方まで、色々な方に観ていただける番組なので、どちらのファンにも気持ちよくなってもらえるように、わかりやすくかつ、コアのファンの方達の心をくすぐるような特集を組めるように…頑張っています!うまくバランスを取って、あまり走り過ぎないようにも気を付けています。フジテレビは今フィギュアスケートの主要な大会を放送していて、さらに前シーズンからは、全日本選手権に出場する全選手の演技をショートプログラム、フリー共に第一グループからBSでも放送しています。予選から勝ち進んできた選手たちの演技を見ていただける数少ない機会です。どの選手もそれぞれのドラマがありますし、シーズンの集大成として全日本に臨んでいる選手も多くいます。選手とコーチの関係、会場で見守るファンの皆さんの声援や表情にも注目していただいて、一緒に楽しんでいただけたらと思います。

――注目されると、選手のモチベーションも上がりますよね

八木沼 放送されることは大きな励みになると思います。また次に向けての目標にもなり、また来年もこの舞台を目指そう!さらに世界へ、という気持ちにもなっていくと思います。

「東西の選手の戦い方の違いやフィギュアスケート界の現状を知り、深く楽しんで欲しい」

――この番組で、東と西では、技の出し方、得点の狙い方が違うというのを知りました。

八木沼 西は若くして高難度の技術を持った選手が増え、ショートプログラムからトップに入るためには3+3回転のコンボを成功させないといけなくて、全体的にハイレベルな戦いとなっています。上位で勝つために3+3が必要となると、必然的に全体のレベルが上がっていきますね。東と西とでは、予選会から全日本選手権までの過程が全然違います。東は本当に狭き門になっていて…。でも20年前は逆だったんですよ。色々な事が重なった結果だと思いますが、やっぱりリンクを持つ学校増えてきて、生徒が濃い練習ができるようになってきた事が大きいと思います。コーチと選手の関係はもちろんのこと、海外の選手を目標にすることももちろんですが、日本の先輩選手が、海外の試合でも表彰台に上がることが当たり前になってきて、尊敬できる、憧れのスケーターが身近にいて目標が立てやすく、教科書となるスケーターが多い。こういった環境も大きいと思います。

――そうとするジュニア世代の子がたくさん出てきて、全体的にレベルアップするという事ですよね。

八木沼 そうですね。どんどん力をつけてきているのが、西日本の子供たちやジュニアの選手達です。シニアの選手もそうですけど、世界を見据えた演技というか、女子もトリプルアクセルや3回転ジャンプにこだわって、スケーターとしてエレガントさはもちろん、東日本は東日本で、いかにミスなく、個性を生かしながら、自分が持っているものを確実に出して滑る高校生、大学生スケーターが多いと思います。ケガがつきもののスポーツなので、ケガから復活して全日本の出場権を獲得し、改めてスケートと向き合っているスケーターも多く、いろいろなドラマがあるシーズン。そんな選手たち全日本に向けて、また来シーズンに向けてどんな演技を全日本で見せるかにも、注目してもらえると嬉しいです。

「本番だけではなく、是非予選会から会場に足を運んで欲しい」

――そういう見方をすると、またフィギュアの新しい楽しみ方に出会えますね。

八木沼 そうですね、いつもは全日本だけを観ていた人が、今度は予選会から観に行ってみようとか、近所で予選会があるからのぞいてみようとか、そうやって一緒に選手を、大会を盛り上げていっていただけたら嬉しいです。会場に足を運ぶと、テレビではなかなか感じられないフィギュアスケートの激しさやスピード感、疾走感、風に乗って滑っている感じ、ジャンプを着氷した時の衝撃音、選手の息遣いなども感じることができるので、一度ぜひ会場にいらして見てください。ハマると思います(笑)。

――番組がまさに時代にマッチしている、時代のニーズに応えていますね。

八木沼 そう言っていただけると嬉しいです(笑)。日本だとどうしても男女シングルをフィーチャーする事が多いので、もう少しアイスダンスやペアにも、力を入れて紹介していきたいと思っています。嬉しい事に、今は子供達だけではなく、40代、50代の方でスケートを始める方事が増えています。

「年齢関係なくフィギュアスケートを始める人が増えていて、生涯スポーツとしても注目を集めている」

――観に行くのではなく、フィギュアを始める大人が増えているんですか?

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八木沼 そうなんです。80歳近い方が毎日リンクに滑りにいらしていたり、試合に出場する方もいらっしゃり、生涯スポーツとしても注目を集めてきています。私も練習に行くと人生の先輩方と一緒になることも多いですよ。みなさん熱心に習って滑っていらっしゃいます。一年に2回くらいアダルトの大会があって、下は20代から上は80歳くらいまで、級を持っていなくても年齢別で滑る事ができます。元選手の方や大人になってから始められた方、みなさんフィギュアが大好きな気持ちがあふれていて、成果を見せる場があって、自分自身がやってきたものを発揮できるというのは嬉しいですよね。見ているこちらもワクワクしながら見てしまいます!

――その大会は『フィギュアスケートTV!』では取り上げないんですか?

八木沼 私はやりましょー!って言っているのですが(笑)、なかなかチャンスがなくて、でも是非取り上げたい(笑)。私が指導した、40歳のラジオアナウンサーの方は、週3回くらいのレッスンを約1年続けたら、大会で脚を腰より高い位置にキープして滑るスパイラルも本当に綺麗にできるようになって、スリージャンプと、シングルトゥーループっぽいものもできるようになりました(笑)。本人は、すごく緊張したみたいですけど、自分が今まで生きてきた中で感じた事がない緊張感と達成感だったと言ってくださいました。でも一番いいのはこの番組のアナウンサーの方を挑戦させて、私は試合に出したいと思っているんですけど(笑)。

――視聴者にはそれが一番説得力ありますよね(笑)

八木沼 テレビでは色々言っているけど、自分が経験してみてって(笑)。難しさもさらにわかってもらえるし、観ているだけではわからない事を体験する事で、実況の時に今までと違う言葉が出てくるかもしれないですし、なによりフィギュアスケート愛が深まると思います(笑)。

フィギュアスケーターの音楽のみつけ方、決め方

――フィギュアスケートの楽しみの一つに、選手が使用する音楽があると思いますが、八木沼さんは自分の演技で使う音楽は、どうやって探していたのでしょうか?

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八木沼 当時は今のように音楽がネットで配信されていて、あらゆる音楽を簡単に聴けるという時代ではなかったので、レコード屋さん巡りをしたり、アイスダンスをやっている方に借りたりしていました。海外の音源を探すのが大変で、海外遠征で行った時にまとめ買いしても、10枚買って1枚当たりがあればいいという感じでした。あとはミュージシャンの方に相談したり。私は競技時代習っていた福原美和先生に、振り付けをしていただいていましたが、高校生からは自分で振り付けをしてみなさいと言われて。それからは自分で曲を選んで、自分で振り付けて滑ってみて、そこから先生に入っていただき、プログラムを構築していく形をとっていました。自分で考えて、表現力や想像力を養うためにそうしなさいと先生に言われましたね。その頃から自分で色々考えるようになりました。それこそ今回の本田真凛選手じゃないですけど、この曲がいい!やってみたい!という曲が見つかるんですよね。そこから色々自分で想像して滑ってみて、こうやってステップを踏んで、ここでジャンプを飛んで…とやっていくと、何となく全体像が見えてきて。作っていく面白さも感じるようになりました。現在は、元スケーターの振付師がベテランから若手ホープまで、海外にも国内にもたくさんいらっしゃるので、色々なアイディアを持った方々と組むことによって引き出しも増えますし、パフォーマンスの幅も広がりますよね。曲選びは、組んだ振り付けの方が持ってきた曲の中から選んだり、コーチと相談したり自分で見つけたり。色々な意見を集約して、今年の曲というのを決めていきます。

「スケータにとって音楽は、自分を体現するための大切なアイテム」

――音楽はシーズン毎に変えていくものなのでしょうか?

八木沼 基本的にはシーズンごとに変えていく選手が多いですね。ただワンシーズン滑ってみて、納得いくものができなかったので、もうワンシーズンこの曲で、という人もいます。そのシーズンがうまくいかなくても、必ずそれが引き出しになって、将来同じ曲で花開く事も多々あります。今年は特にオリンピックシーズンなので、色々と準備しなければいけない事も多いですし、そうすると前のシーズンや以前滑って評価が高かった曲、自分が一番ポイントを稼げる曲をチョイスしたり。一番乗れる曲や、いい演技ができる曲をそのままオリンピックに持っていく人もいます。

――本当に音楽はスケーターにとって大切なものなんですね。

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八木沼 大切です。まさに、自分という滑り手はどんなものなのかを体現するための大切なアイテムです。私が出場した1988年のカルガリーオリンピックの時に、当時はアメリカのデビー・トーマスという、3回転+3回転ジャンプを本当に綺麗に飛ぶジャンパーがいて、ダイナミックさとテクニックで魅せるスケーターでした。カルガリーではこの選手と東ドイツのカタリーナ・ヴィットとの対決となりましたが、勝ったのはカタリーナ・ヴィット。この時フリーで二人が選んだのはビゼーの「カルメン」だったのです。同じ五輪シーズンに同じ選曲。普通では考えられません。しかも優勝争いをするであろうと言われていた二人。ですがそれぞれの良さを前面に持ってきた演技構成で、シーズンを戦っていきました。デビーはジャンプを中心に、若々しくフレッシュかつスポーティなカルメンを、カタリーナはひとつのストーリー性を持たせた、まるで劇場でオペラや演劇を観ているような、演じるカルメンで勝負してきました。最初から最後まで、「カルメン」の自分が主人公になりきって、それまでストーリー性を持たせた滑りを見せるスケーターはいなかった。彼女が金メダルを獲った事で、フィギュアスケートは、表現力、演じる力が必要だと、ジャンプ重視の時代に一石を投じました。しばらくはカタリーナのそのスタイルが大きな流れになって、でもまたジャンパーの時代になり、ジャンプをメインにストーリー性を持たせるスケーターが増えて、今はそれがメインストリームになっています。シーズン頭のブロック大会から全日本まで同じ曲で滑っている選手を見ていくと、できあがりが変わってくるので、先ほどの話にもつながりますが、まずは地域の大会から観て、その選手がどう変わっていくのかを観ていくのも、楽しいと思います。この選手といえばこの曲とか、スケーターに合いそうな曲を探してみるとか、楽しみ方もそれぞれ。今はフィギアスケートで使用されている音楽を集めたCDも出ていて、そこからフィギュアに入ってくる方もいらっしゃるみたいですね。

「曲と一体化した選手の演技は鳥肌モノ。音楽がより感動を演出している」

――リンクはまさにライヴ会場ですよね。

八木沼 トリノオリンピックの時に、荒川静香さんが優勝するのを生で観ていたのですが、曲と一体化した彼女がどんどんジャンプを決めていって、会場が地鳴りのような盛り上がりになって。音楽がより感動を演出しているのを感じました。その時はもう鳥肌が立って、金メダルに間違いなく近づく瞬間のあの空気感、誰も言葉が出ないゾクゾク感。大きな拍手はしていますが、溢れ出る熱気がとにかく凄かったです。そうすると音楽も心に強く残りますよね。

「『フィギュアスケートTV!クラシカルコンサート』では、人気スケーターが代表曲にしている音楽を、アーティストが歌い、演奏してくれ、感動必至」

――そんな音楽とフィギュアの素敵な関係が、『フィギュアスケートTV!クラシカルコンサート』(2018年4月21日東京・かつしかシンフォニーホール)という形になります。

LE VELVETS
LE VELVETS
NAOTO
NAOTO
神谷悠生
神谷悠生

八木沼 そうなんです。今回のコンサートでは、例え聴いた事がない曲だとしても、ボーカルグループのLE VELVETSさんや、バイオリニストNAOTOさん、ピアニストの神谷悠生さんの素敵な歌と演奏で、絶対に感動できると思います。私が現役時代に使用していたニーノ・ロータの「Time For Us」(映画音楽「ロメオとジュリエット」から)なども演奏予定だそうです(笑)。

――美しいメロディに乗って、選手が滑っている姿が浮かんできそうですね。

八木沼 曲との相乗効果で、スケーターがより花開いていくシーンが、これまでにいくつもありました。先ほどの荒川静香さんの時のように、選手がリンクから浮き上がってくるような舞台の中で、踊り演じているスケーターを観る感覚になる瞬間があります。今回のコンサートで演奏予定の曲を、代表曲にしているスケーターもたくさんいますし、フィギュアファンの方は、選手の皆さんの演技を想像しながら楽しめると思います。とにかく全ての人を飽きさせない時間になるのではないでしょうか。

『フィギュアスケートTV!クラシカルコンサート』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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