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ザ・クロマニヨンズ「音楽で大層な事を目指している人が多い気がする。俺達は楽しければそれでいい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「威張って中心にいようなんて思わないし、聴きたい人が聴きたいだけ聴いて欲しい」

「真面目」と「ロック」という言葉は、反義語といっていいほど極端な温度差を感じる。でもザ・クロマニヨンズは11年間でシングル16作、アルバム10作を発表し続け、年間約70本の全国ツアーをやり続けている、どこまでも真面目なロックバンドだ。もっというと甲本ヒロトと真島昌利はザ・ブルーハーツ、ザ・ハイロウズ時代から30年間、愚直に、純粋にロックをかき鳴らし続けている。そして10月11日には11枚目のアルバム『ラッキー&ヘブン』をリリースした。その作品に込めた熱い想いを語る……ことはなく、甲本も真島もどの作品についても「成り行き。楽しいからやっている」という一貫した答えしかない。マイペースで自然体。楽しく真面目にロックを奏でている。だから真面目というのはもしかしたら「違う」と、二人からは言われかもしれないが、二人の言葉からロックンロールへの深い愛、そしてバンド活動への愛を感じて欲しい。結論からいうと『ラッキー&ヘブン』は、唯一無二の、誰も真似できない純度の高い、鋭くて瑞々しいロックが12曲詰まっている名盤です。

「アルバムは何も考えていなくて、全部行きあたりばったり。いつも成り行き」(甲本)

――アルバムを出して、ツアーをやって、またすぐにアルバムを作ってそしてツアー、というサイクルをずっと続けています。ファンの中には、このペースが「自分の人生のサイクルの一部になっている」という人も多いようです。

甲本ヒロト(Vo)
甲本ヒロト(Vo)

甲本 多分、成り行きで決まったサイクルなので、これがいいんだと思う。だいたい日本の面積とか、色々考えた時に大体60~70本で、それを回るにはどれくらい日数がかかって、という感じで割り出した、無理のない自然な数字だからやりやすいんだと思う。

――さらにツアーが終わったら、すぐに次のアルバムのレコーディングに入って、やはりその時のライヴの余韻というか、ツアーで感じたものがそこに反映されるのでしょうか?

甲本 よくわからないですね。何も考えてなくて、全部が行きあたりばったりというか、成り行きなんですね。成り行きもずっとやっていくうちに決まってくることだから、多分それでいいんだと思う。

――ロックを聴くにしても、やはり30年間ロックンロールを鳴らし続けてきたお二人が作り上げるロックを、聴きたいと思いますよね。お二人はやっぱり好きなことをやり続けている事に対しての満足感は、ずっと感じているのでしょうか?

甲本 楽しいよね。多分僕らはまだリスナーなんですよ、まだっていう言い方はおかしいけど。例えばすごく料理が上手で、有名なシェフになっても、やっぱり自分でご飯作って、食べるじゃないですか。僕は作る側だからもう食べないってことはないじゃないですか。やっぱり食べるでしょ。僕らはロックンロールを楽しむリスナーなんです。

真島昌利(G)
真島昌利(G)

真島 クロマニヨンズのツアーで地方に行くと、メンバーとレコード屋さんで会うんですよ(笑)。特に約束はしていないのに、全員レコード屋さんで会うんですよ。それも楽しい。たまに東京のレコード屋さんで会うこともあります。

――こうやってアルバムを1年に1枚出し続ける、その生産力が凄いですよね。2年空いたり、3年ぶりのアルバム、という事がないですよね。

甲本 ひとつには、僕とマーシーが別々に曲を作るから、一人あたりの負担が少ないっていうのもあると思う。それもあるし、人それぞれの、バンドのやり方があると思うんだけど、すごく大層なものを目指されている人が多いと思う。僕たち、高尚なことをやろうとか難しいことをやろうとかじゃなくて、自分たちが楽しければそこで完成なんです。だからそういうハードルの低さみたいなのがあるんじゃないかな。

「曲を書かなきゃ、と意識した事はないし、ロックンロールバンドって楽しいなと思ってやっている」(真島)

「普通の人が週末にしかできない事=バンドを、毎日できるんだから幸せ」(甲本)

――ちょっと休みたいなと思った事はないですか?

小林勝(B)
小林勝(B)

甲本 多分休んだとしても、レコーディングをやってるんじゃないかな。バンドって休みの日にやることじゃないですか、普通。

――それが楽しいからずっと続けているんですよね。

甲本 普通みんなが週末にしかできないことを、ほぼ毎日やってるわけだからね。

――20代とか30代の時からそういう風に思っていました?

甲本 こうやって言葉にできるようになったのはいつからかなあ。

――マーシーさんは、しんどいなって思ったことはないですか?

真島 しんどいなって思うのは、インフルエンザにかかった時くらいですね(笑)。体の調子が悪かったら、何をやっても楽しくないじゃないですか、好きなことをやっていても。1年に一枚レコードを作るのを全然辛いと思ったことはないし、それが楽しいことだから。曲を書かなきゃいけないという意識もないし、ずっとロックンロールバンドって楽しいなと思ってやっています。

「その時何を感じているのか、思っているのかもわからない状態で歌詞を書くから、思っていない事が歌詞になっている事が多い」(甲本)

――今回の『ラッキー&ヘブン』も、やっぱりバンドの楽しさというか、4人が本当に楽しそうに音を出してるのが伝わってきます。

桐田勝治(Dr)
桐田勝治(Dr)

甲本 伝わってくれたら嬉しいね。

――いつもレコーディングがとにかく早いとお聞きしました。1週間くらいで終わるというのは本当ですか。

甲本 正味ね。あんまりスタジオで悩んだり考えたりしないです。ずっと音が出てる。1日の作業時間は2~3時間で、でも3時間も音を出していれば色々なものが録れます。

――曲はヒロトさんとマーシーさんの間で、事前にメールでやりとりして、スタジオに入るのでしょうか?

真島 いえ、何もやらないです。

甲本 具体的に説明すると、ツアーが終わりました、そこから2週間ぼんやりします、そこはもうみんなの自由な時間。それで2週間後にスタジオに集まりますと。その時にはもう12曲できていて。ツアーが終わった時点で曲があるからレコーディングするんです。レコーディングがあるから曲を作るのではなくて。それも普通だと思うけどな。だって絵がないのに展覧会開いてもおかしいでしょ。それで曲を僕とマーシーが順番にメンバー全員に、3日間で伝えるんです。3日間でメンバー全員が12曲を共有するんです。4日目からはその12曲をじっくり弄り倒して、頃合いがよくなったころにレコーディングが始まる。それだけです。

――曲を書いた時点で、2人の中ではアレンジのイメージも大体できていて、それをメンバーに伝えて音を出してみて、メンバーの意見を取り入れて作り上げていくという感じでしょうか?

甲本 そこは色々なパターンがあって、歌だけ持って行って、どんな風にしよう?テンポは速い方がいい?ゆっくりな方がいい?と意見を聞いて、そこからみんなで決める曲もあるし、イントロまで全部決まっていて、これをやって欲しいんだって言う場合もあるし、曲ごとに全部違います。

――曲はその時に感じていること、思ってることを、降りてくるものを素直にメロディと言葉に置き換えているという感じですか?

甲本 特に感じてるのか、思ってるのかもわからないんです。思ってないことはよく歌詞になってますけどね(笑)。

――歌詞はシンプルで、でもそれがロックンロールのリズムと歌に乗るとすごくスケール感を持って伝わってきます。歌詞は昔から感覚だとおっしゃっていますが、それは今も変わらないですか?

甲本 うん、変らない。こんな事言ってやろうとか意識してなくて、自然と出てくるもの。

――クロマニヨンズの音楽は、コーラスが非常に印象的で耳に残りますが、コーラスも曲を作った時点で、できあがっている事が多いのでしょうか?

画像

真島 それも色々だよね。最初から鳴ってる場合もあるし。

甲本 曲を作った時から同時にアイディアが閃くこともあるし、曲を録って1回聴いてみて、ここにコーラスを入れようとかいう場合もあるし、(ドラムの桐田)勝治とかも、色々アイディアを出してくれるので。

――ツアー後、割とすぐに曲を持ち寄って、セッションしながら構築していって、やはりライヴの事を考えて作り上げる事はありますか?ここでこの曲をやったらさらに盛り上がりそうとか。

甲本 滅多にないなぁ。ある?

真島 その時によるかな。

甲本 俺は少ないかな、ライヴの事を考えるのは。

真島 例えばカッコいいロックバンドの映像を観た後とかに、自分達がそこに立った時に、イントロがこんな風にきたらカッコいいなっていう勝手なイメージ。それが形になることもあるし、妄想で終わることもあるんですけど。形になった時はすごく嬉しいです(笑)。

――ライヴはホールもライヴハウスもフェスも、場所によって捉え方は大きく違いますか?

甲本 関係ない。どこでやっても楽しい。

――クロマニヨンズはライヴが終わった後の付きもの、打ち上げをやらないんですよね?

甲本 何にもやらないですね。やっぱりライヴっていうのが一大事で、とても楽しいものだから、打ち上げもいらないんですよね。ディズニーランドに行った後に打ち上げをやるようなもので、最高に楽しかったんだから、もう帰って寝ようよ、みたいな感じ。

「アルバム作りは本当に楽しいけど、苦労して頑張って作ったってアピールした方が売れるらしいよ(笑)」(甲本)

「なんか物事を表現する人には苦しんでて欲しいんでしょ(笑)。みんな感動に着地したいだけだよね」(真島)

――クロマニヨンズを、ヒロトさんとマーシーさんを見ていると、本当に純粋に楽しくロックンロールをやり続けていて、待っているファンの期待に常に応え続けているのがすごいと思います。

甲本 でもね、苦労したっていう事を、苦労して頑張って作ったって事を、アピールした方が売れるらしいよ。やっぱりね、苦しんでる人を応援したくなるんだよ。

――判官びいき的な感じですね。でも逆に、最初にも言いましたが、30年間もとにかく楽しんでロックンロールをやっています、という人の作った音楽の方が聴きたいと思いますけどね。

甲本 できることならば長く続けて、時間で証明していくしかないですよね。苦しんでやっていたらこのペースで30年できない。5年ならできる、10年ならできる、でも30年ってこいつらバカだろって思ってもらえれば(笑)。

真島 なんか物事を表現する人には、苦しんでて欲しいわけでしょ(笑)。

――苦しみの中から生み出したものです、という情報を聞いただけで、どこかありがたがって聴いちゃう人もいます。

真島 そこで感動したいわけでしょ、みんな。感動に着地したいだけだよね。

甲本 そういうのもエンターテイメントとしてあるんだよね。

「僕らみたいなバンドがいてもいいんじゃないかと許してくれればそれでいいです」(甲本)

――エンターテイメントって結局楽しむものなので、だからお2人がずっとおっしゃっていることが、本質だと思いますけどね。

甲本 僕らみたいなバンドがいてもいいんじゃないかと許してくれればそれでいいです。もう本当に威張って中心にいようとかも思わないし。観たい人にだけ観て欲しいし、聴きたい人が聴きたいだけ聴いて欲しいし、それを誰にも邪魔させたくないし、僕らとその人達の間を。そういう気持ちのいい現場であると思いますよ、今は。

――今回のアルバムに関しても、コンセプトがこうで、今回は苦しんで、絞り出してとかではなくて、もう楽しくやってるだけだからと言われてしまうと、逆にすっと腑に落ちるというか。

真島 それは良かったです。

甲本 僕らのそういう在り方を許してください。さっきみたいに感動に着地するのが好きな人もいるし、捉え方はひとつじゃなくてもいいじゃないですか。そういうのが好きな人も当然いてもいいし、僕達みたいなやり方が好きな人も当然いてもいいし、色々な楽しみ方がある方がいいんじゃないかな。

真島 みんな自分が“普通”だと思っているでしょ。でもそれでいいんじゃないかな。

――クロマニヨンズはアルバムを作ると、毎回アナログ盤も一緒に作っていますが、最近はまたアナログレコード人気が復活してきて、若い人にも支持されていて、一方で音楽の聴き方もどんどん変わってきて、アルバムも一枚ではなくて曲単位で買われたりもしています。作っているほうとしては、そういう聴かれ方という事を意識してアルバムを作るものなのでしょうか?

『ラッキー&ヘブン』(10月11日発売)
『ラッキー&ヘブン』(10月11日発売)

甲本 それは自分なりのこだわりはありますよ。でも人のことは言えないので仕方ないです。ただおせっかいだから、すごく美味しい食べ方あるんだけどなぁとか、これは温かいうちに食べた方がいいのになぁとかは思う。僕らはずっと音楽が好きで、レコードが好きで、それは10代の頃からまだ続いていて、バンドも何十年間やっていてもまだ楽しくて、こんな俺たちの意見として聞いてくれるのであれば、アナログは最高だと思う。

――『ラッキー&ヘブン』は「デカしていこう」で始まって「散歩」で終わりますが、この並び、曲順がアルバムの温度感を作り上げていると思います。

甲本 アナログ世代なんでどうしても、そういう聴き方とか曲順ってすごく気になったり、曲間の秒数とかもすごく気になるし。それは「デカしていこう」で始まって「散歩」で終わるっていうのがいいんだよって説明したいですよね。

真島 自然に受け取って欲しいよね、説明しないでね。それは曲順にだってすごく時間をかけて考えて決めたし。レコードのA面B面ということを意識して決めてるし。

――きっと2人のレコードの趣味は似ている部分があると思いますが、それがあるから30年以上一緒にやっていると思いますが、お二人の距離とか距離感について教えて下さい。

甲本 昔はよく怒られました(笑)。バンドやる前、僕の家にマーシーが来て、一緒に住み始めたんです。その時にマーシーはすぐにバンドをやりたかったのに、僕がグータラで、のらりくらりやってたら怒られました。今でも覚えていますね。

――早く動け、と(笑)。

甲本 すごく怒ってたよね。

真島 (笑)

甲本 僕はマーシーからだけじゃなくて、色々な人からよく怒られるんですよ。でもたいていの理由は僕がグータラだからみたいで。自分ではそんなつもりはないんですけど、怒られてる内容を聞いていると、あっ怠けてるんだって(笑)。怠けようって思ってたらまだいいんですけど、普通にやってるつもりなのに、人から見たら怠けてるように見えるみたいだから困りますよね。

――ヒロトさんが悪いと認めざるを得ない、と。

甲本 認めざるを得ない。ああこれは頑張ってないなっていうのがよくあるんですよね。それを一番に気づかせてくれたのが、あの時だったな。マーシーと一緒に住んでて、狭い部屋で本気で怒ってるから、ああ怒らせてるなぁ、聞いてると俺が悪い、みたいな。

真島 バンドやろうって人を呼んでおいてやらないからさ。それはあれ?ってなるよね(笑)。

「ロックンロールに心をつかまれちゃってるので、飽きるまでやる」(甲本)

――そんな二人がずっと楽しくやっていられるこのサイクル、ペースはまだまだ続けていけそうですか?

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甲本 うん。それは自分達の努力とかそういうことではなく、ロックンロールって本当に面白いんですよ。ロックンロールのお陰だと思う。そいつに心をつかまれちゃってるんですよね。だからそのつかまれているうちは続くんじゃないですかね、飽きるまで。

――絶対飽きないですよね。

甲本 それはわからない。それは約束できないけど、飽きるまでやる。飽きてからもやってたらそれもまたすごいだろうけど、そこはわからないです。

「歌をどんどん出していきたい。歌を作る事が本当に楽しいし、他にやる事がない」(真島)

――マーシーさんは、ましまろ(ヒックスヴィルの真城めぐみ(Vo)と中森泰弘(G, Vo)と真島のバンド)で、クロマニヨンズとは違う表現を楽しんでいます。

真島 歌をどんどん出していきたいなって。出さないと便秘になるし(笑)、体に良くないじゃないですか。

――創作欲、生産力がやっぱり高いんですね。

真島 創作欲というのはよくわからなくて、歌を作るということがとにかく楽しくて、他にやる事ないし。

――来年4月まで続くツアー『ラッキー&ヘブン2017-2018』が10月26日の北海道を皮切りにスタートします。今回は58本です。

真島 ライヴは本当に楽しいですね。

甲本 ライヴって、その場で起きていることに瞬間瞬間で4人が対応していく事じゃないですか。1個の風船が落ちないように、みんなで手を差し伸べて、バレーボールのラリーみたいに。あれが楽しいんですよね。

――体力的にはどうですか?

甲本 できる事をやるだけです。できない事はできない(笑)。

ザ・クロマニヨンズ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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