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汗と涙と最先端技術と 『超体感ステージ「キャプテン翼」』はテクノロジーと人の”熱量”が作る新感覚舞台

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
主人公・大空翼役の元木聖也

8月18日に東京・Zeppブルーシアター六本木で開幕した(~9月3日)、『超体感ステージ「キャプテン翼」』を観た。「キャプテン翼」といえば、1981年から88年まで『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載され、その後も『週刊ヤングジャンプ』(同)他で続編が連載されるなど、単行本の総売上げが全世界で8000万部以上という大人気サッカー漫画だ。これまで舞台化、実写化不可能と言われていたが、それは、サッカーというスポーツのスピード感とスケール感、そして登場人物が繰り出す、普通のサッカーでは到底表現できない必殺技をどう再現するかが問題だった。

世界で初めてハプティクス(触覚提示)技術を取り入れた舞台

しかし今回の舞台は、“超体感”と銘打っているだけあって、世界で初めてハプティクス技術(触覚提示技術)という最先端技術が導入された舞台で、リアルとバーチャルが見事に融合し、マンガの世界観も、必殺技も見事に再現してくれている。まさに“超体感”しながら、舞台に参加しているような感覚になる。

(株)ソニーが開発研究を進めるハプティクスは、離れた物体の「感触」を手元に伝える技術で、同会場に87席ある「プレミアム体感シート」には、計10個の振動デバイスを内蔵した「ハプティックウェア」が用意され、これを装着する事で、シュートを受けた衝撃やキックの感触、登場人物の心臓の鼓動までもが体感できる。実際に「ハプティックウェア」を装着したが、靴の上から、脚、腕まで装置をマジックテープで付け、振動デバイスを内蔵したベストを身につけ、工程は多いもののスタッフが手伝ってくれるのでそこは安心だ。

役者の身体能力の高さと、繊細な演技、最先端テクノロジーとが融合し、生まれる感動

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肝心の舞台だが、舞台版オリジナルストーリーが展開され、なにより主人公・大空翼役の元木聖也を始め、役者陣の身体能力の高さに驚かされる。アクロバットな動きや、ダンスバトルを繰り広げながら表現するサッカーシーンは圧巻。紗幕とスクリーンのみのシンプルな作りのステージで、演者の動き、演技、ダンスが、より強調される。確かな演技力と、ダイナミックかつ繊細な動きが要求され、“リアルさ”が求められる。それは、客席から見ると、そこにボールはなくても、実際にボールが存在しているような動き、表情での演技が必要になる。必殺技を繰り出すシーンでも、ボールがどこにあるのか、繊細な動きでアピールして、ワイヤーで空中に浮いている時も、シュートを打つ本人と、キャストとが息を合わせ、細かい動きでボールを追う動きをしなければいけない。ここの丁寧な動きと、映像、音、光、リアルとデジタルが寸分狂わないタイミングでひとつになるからこそ、全く違和感がない。しかもハプティックウェアを通じて、振動、衝撃が伝わるので、必殺技の再現力は高い。

原作を知らない人でも楽しめる、総合エンターテインメント

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見どころは、もちろん最新技術を始め、キャストの身体能力にもどうしても目がいってしまうが、“ゴーイングマイウェイ”の主人公・翼をうまくサポートしていく仲間との友情が描かれた、スポーツならではの“熱さ”を体現する、演者の熱量だ。また、キャラクタートレースもしっかりしていて、原作との違和感も感じさせず、それぞれのキャラクターの強い個性に感情移入でき、スピーディーな演出で決して飽きさせない。

この舞台は、ハプティクスに加え、フレグランス(香り)の演出も盛り込み、嗅覚、触覚、聴覚、視覚を刺激する総合エンターテインメントとして楽しめるので、原作を知らない人でも、新感覚の舞台として、十二分に楽しめる。これからの舞台は“観る”から、より“体感”型になってくるが、このステージのように、テクノロジーの進化が進むほど、演者の身体能力や演技力、なにより一人ひとりのその“熱量”が結集し、最新技術と結びついた時に、大きな感動が生まれるのではないだろうか。『超体感ステージ「キャプテン翼」』が、そう教えてくれた。

『超体感ステージ「キャプテン翼」』は、東京・Zeppブルーシアター六本木で9月3日まで行われている。

『超体感ステージ「キャプテン翼」』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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