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T.M.Revolution西川貴教(2)味方ゼロと思ったことも。ずっと期待される存在でいたい

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
デイリーランキング1位発進のべスト盤『22-』のジャケット写真

T.M.Revolutionがデビュー20周年を迎える。それを記念した全シングルを完全網羅したオールタイムベストアルバム『2020-T.M.Revolution ALL TIME BEST-』が5月11日に発売された。そこでT.M.Revolution西川貴教にロングインタビュー。前編では、「大笑いではなくクスっと笑えてじんわり心に残るものを提案し続ける」という、20年間揺るがない、仕掛けの流儀の話を聞かせてもらった。後編では、デビュー以来ファンに元気と勇気を与え続けている西川だが「20年間順風満帆な時期なんてなかった」と語るように、プロジェクトの「封印」や、レーベル移籍で精神的に苦しかった時期も経験し、それをどう乗り越えてきたのか、そして来るべき未来を見据えて考えていることなどを、タップリ聞かせてくれた。西川貴教ばかりがなぜモテる――人を惹きつける自己プロデュース力とは!?

「自分がいる場所はメインストリームではない。誰も席も取りに来ない。座りづらいのかな?(笑)」

――20年という時間の中で、音楽マーケットも刻々と変わっていき、CDが70万枚、80万枚、100万枚売れていた時代もありましたが、今はなかなか厳しい状況ではあります。それはどのアーティストも同じで、そういう時代の流れを感じながらも西川さんは常に第一線で活躍されています。その順応力というか、こう来たらこう手を打とうとか、こう来たらこう返そうみたいな跳ね返し方というか、その判断力の速さが抜きんでていると思います。

西川 いや、はなから真ん中、メインストリームにいないからですよ。華々しいど真ん中の道を進んでいないから、もしくはそこを目指してやっていないからですよ。ちょっと端っこの方で頑張っているというか…。

――いやいやそんなことないですよ。

西川 考えてみると色々なアーティストの方や表現者のかたがいて、それに影響を受けたフォロワーもいて、そこで席を奪い合うような状況が続いているわけじゃないですか。でも僕のいる席は誰も取りにこないんですよね(笑)。座りづらいのかなあ(笑)。僕的にはT.M.Revolutionと西川貴教のなかで、傍から見たらそれやる?みたいなこともあったかとは思いますが、さっきも言いましたが、大笑いじゃないけどクスッと笑えてずっと心に残るものがたくさんできたらいいなというイメージで、今までひとつひとつのことをやってきました、なるべくまじめに。面白いことをまじめにやることが肝かなと。先日も「突風」という会社を立ち上げまして…。

面白いことをまじめにやることが大切

――事業戦略発表会見に行きました。

 「株式会社突風」相談役・森山卓郎、社長、特別顧問・高橋みなみ
「株式会社突風」相談役・森山卓郎、社長、特別顧問・高橋みなみ

西川 ありがとうございます。正直ああいう記者発表だと、ちょっとご挨拶して、囲み取材して、ワイワイやって終わりでも、ある程度記事にしてもらえそうと思うじゃないですか。でもそれは違うよと。ちゃんとやりたいし、最終的に色々な人に面白いねって思ってもらえるかもしれませんが、こちら側がいかに真剣に取り組んでいるのかを伝えたくて、その結果があのスクリーンに映し出したパワーポイント(資料)の枚数です(笑)。何度もリハーサルして、パワーポイントのページをめくるタイミングも打合わせをしました。でも記者のみなさんニヤニヤして見ていたでしょ?あれでいいんですよ。最初から僕があれをニヤニヤしながら面白いでしょってやってはダメなんです。僕はまじめにやっていても、みなさんからするとバカバカしいことかもしれない、でももしよかったら応援してくださいということでいいと思うんです。

――クスッと笑えるのって、まじめにやっているからクスッと笑えるんですよね

西川 だってまじめだもの(笑)。今でこそ「HOT LIMIT」がみなさんに面白がられていますが、当時はこれはスタイリッシュだと思っていたんですよ。これでいくかって決めたものの、まさかこれじゃないだろっていうところにいくという面白さです。今はこんな宴会芸みたいになってますけど(笑)

――ゴールデンボンバーのみなさん、高橋みなみさん、レイザーラモンRGさんほかが出演している「HOT LIMIT」”みんなで踊ってみた”ミュージックビデオ (有名人の方々お忙しいのに、ありがとうございますver.)、最高です。

西川 ありがとうございます。でもあれも本人が喜んで受けてくださっているのがすごく嬉しいです。やらされている感ではなく、やって良かったと言ってくださったのを聞いて、すごく良かったと思いました。やっぱりお互い気持ちよくできる関係でやったものは、結果、“残る”んですよね

――お互いの“想い”がつながらないとだめなんですよね、全てにおいて。

西川 そこなんだなと思いました、片想いでもダメだし、本当に相手のことをちゃんと思うことができれば、自ずと形になっていくんだなと感じました。

――今回改めてベスト盤で作品をタップリ曲を聴かせていただきましたが、西川さんのライヴに来ている人たちは、元気をもらいたいというか前向きな気持ちになりたいという想いで足を運んでいるんだなということを再認識しました。

西川 嬉しいですね。

プロジェクトを「封印」した苦悩の日々。歯車が噛み合わなくなって、全てのことがうまくいかなくなった。でも外からは楽しそうにやっていると見られていればOK

――いつも元気なイメージで、ファンの皆さんに元気を注入している西川さんですが、逆に気持ち的に落ちるときはあるんですか?この20年で一番落ちた時のことは覚えていますか?

西川 何度もありました。1999年から2000年をまたぐ形でT.M.Revolutionというプロジェクトを「封印」して、T.M.R-eとして活動したり、またT.M.R.として再始動したり…あの時は精神的に厳しい時期でした。その後移籍して、今のレーベル、エピックになるのですが、今思うと20年続けている中では、あのあたりから色々な歯車が噛み合わなくなっていったのかなと。今はもちろんあれも必要だったと自分では解釈していますが、自分で会社を立ち上げて、自分のことを一人でやり始めて、その時は本当にどうなるかとか、どうやっていくかとか、そんなことさえ遠くのことのように思える状態で、どうしたら事態が打開できて、いい方向に物事が向かうとか全くわからない状態でした。正直レーベルのスタッフ、周りにいるスタッフとの間に軋轢ができてしまい、味方がゼロに思えるような状況の中で、果たして活動が出来るのだろうかと不安でした。僕が音をあげるの待ちみたいな感じでもあったし…。そんな中でレーベルを移籍することを決めて、そこから新しいスタッフと一から関係性を築いていきましたが、最初はお見合いのような探り合いの時期もあったし。だから本当に順風満帆な時期なんて全然なかったです。でもそれをもし西川楽しそうにやっているな、西川いいねって思ってもらえていたのであれば、それが一番幸せです。音楽って、難しいことをやっているなと思われながら聴かれているうちは、だめだと思うんですよ。メロディと詞を気に入ってもらえて、自分でも歌えそうとか、自分でも出来そうとか思ってもらえて、で、いざ本当にカラオケで歌ったり、実際演奏してみたら「こんな難しいことやっているの?」って、そこで思わせることができたら勝ちで、そこがよくも悪くもポピュラーミュージックの肝なのかなと思っています。

「初めて僕のライヴを観て下さる人との出会いは、20年やっているからこその”ご褒美”」

――自己プロデュース力に長けていることが、20年間やってこられている大きな理由のひとつだと勝手に解釈しています。20年第一線でやり続けること自体すごいことですが、ソロアーティストで20年続いている人って少ないですよね。

オールタイムベスト『22―』(5/11発売)
オールタイムベスト『22―』(5/11発売)

西川 僕にとってツアーの在りかたとか、ライヴというものの醍醐味が、全国津々浦々に自分のパフォーマンスを届けるということにあって。いかにどの会場にも同じクオリティのものを届けられるかが大切なんです。ツアーを行いましたが、そんな中でも何年も行くことができていない土地もあったりしたんです。そういうところでは極端な話、半分くらいの方が僕のライヴを観るのが初めてだったりするんですけど、なんかそれってすごく嬉しいなと思いました。これが続けていくということなんだなと思いましたね。もし10年とか15年で終わっていたら、この人たちと出会えなかったわけで、今そういう出会いができるというのは、続けてきたご褒美みたいなものだと思っています。でもこればかりは水ものですからね、聴き手の心の移り変わりも早いですし、難しいですよね。

――頭のスイッチの切り替え方がすごいですよね。いつも即断、即決、即行動、ですよね。

西川 なぜそういう判断をしたのか、全てを説明できているわけではありませんし、以前にこうしようって言っていたものが、全部が全部すぐに形にできていたわけでもないんです。でも概ね自分がこうしようって言っていたことは、ものすごく時間はかかっても必ず実行するようにしていますし、自分も粘着力のある性格なので(笑)、ずっとどこかに抱えているんですよね。だから最終的に、よくも悪くもああは言うけどちゃんと形にはするんだなと思ってもらえることが大事で、そうやって結果を積み重ねていけば信じてもらえるのではと思っています。これまでの様々な活動のことは当然忘れていませんし、きちんと形にするために、少しずつ進めているつもりです。でも、周りから見ると、言ったのに実現出来ていないじゃないかという人もやっぱりいますよね。でもそれを、だったらもういいよ、面倒くさいからやめよう、ではなくて、いつかその人たちが、あの時あんな言いかたしてごめんなさいって言ってくれるまでやろうということです(笑)

――粘着力というよりも執念に近い…。

西川 いまも正直色々な想いがある中でツアーやリリースを迎えているのですが、今の判断が、次にまた皆さんから信じてもらえたり、疑わないという気持ちにつながると信じて、今できることをきちんとやっていこうと思っています。

「こいつだったら何かやってくれるんじゃないかと期待される人でいたい」

――サービス精神旺盛ということは、芯がクソまじめということなんでしょうか。

西川 そうなんですかね。邦洋問わず、他のアーティストのライヴを観に行くと、悔しいなと思ってしまう素敵な音楽がたくさんあって、だからこそ自分に何ができるのかとか、自分にしかできないことが何なのか、ここから先の30年とは何なのかを考えていきたいです。プラス、ここから先は、確か10周年迎えたときも同じことを言っていたと思いますが、望まれる人になりたいと思いますね。こういう人でいて欲しいと思われるような存在。つまり期待されたり任されたり、少なからずこいつだったら何かやってくれるんじゃないかと思ってもらえる人。こいつに任せても無理でしょって思われたら話も何もこないですし。

――確かに、今もう色々な話が殺到していますもんね。

西川 まだまだです。やっぱり「イナズマロックフェス」もそうですけど、最初はこんなに続けるなんて誰も思っていなかったはずですし。

「「イナズマロックフェス」は他のフェスとは違う、”地域のお祭り”」

――そんな「イナズマロックフェス」は、今年も9月17,18日に地元・滋賀で開催されますね。

2015年「イナズマロックフェス」。高橋みなみ(元AKB48)とのコラボ
2015年「イナズマロックフェス」。高橋みなみ(元AKB48)とのコラボ
2015年「イナズマロックフェス」/滋賀県草津市 烏丸半島芝生広場
2015年「イナズマロックフェス」/滋賀県草津市 烏丸半島芝生広場

西川 イナズマもそうですけど、イベントやフェスが年々増えて、それはリスナーにとってもアーティストにとっても、またその地域にとっても素晴らしいことだと思います。よく対比されるのですが「イナズマロックフェス」もフェスと名乗っているので仕方ないのですが、はなから“地域のお祭り”を作っているつもりで、他のフェスとは全く別のものなんです。観た事がない方はロックフェスなんでしょ、田舎でやっているんでしょって思われると思いますが、ふたを開けてもらうと、「あ、これ他のフェスとは違うな」って思ってもらえると思うんですよね。

――ステージ転換の間にお笑い芸人が出演したり、サービス精神旺盛な地域のお祭りですよね。エリア内にはとにかく滋賀県を知ってもらう、感じてもらう施策がいたるところにあって、確かに完全に地元のお祭りです。

西川 もっともっとそういうものを、たくさん作ることができたらいいなと思っています。こんなものがあったらいいな、でも無理かなと思っているものを、ひとつでも多く作っていきたいです。

アジアの国々の人達と、国境を越えカテゴリーに収まらない、無国籍な音楽を創ることに力を入れたい

――これからは海外での戦略も活動の中で大きなものになってくると思いますが、T.M.Revolutionはすでに多くの海外ファンから支持されています。といっても日本の音楽が受け入れられているというよりも、アーティスト単体でしか受け入れられていないのが現状で、そんな中で西川さんは海外での活動についてはどう考えていらっしゃいますか?

西川 例えば僕が台湾でライヴやりますとか、台湾で仕事があるんですというと、台湾って親日だからねと言う人がいますが、そういう人は台湾に行って実情を見て欲しい。CDショップでは海外の音楽のコーナーの8割はK-POPに独占されていて、日本の音楽はポピュラーミュージックも演歌も全部混ぜて1割程度です。この状況に危機感を持たないと、そうやって親日だからと高をくくっている間に、他の国の音楽に、ファンを持っていかれるということです。もっとみなさんと一緒に繋がりたいという気持ちを、直接届けに行かないとダメなんだと思います。そういう意味でもせめて東京から北海道や九州に行く感覚と同じように、台湾やシンガポール、マレーシアなどには足を運べるようにしていきたいです。今年は、韓国のAOAとコラボさせていただいたり、7月からは『サンダーボルト・ファンタジー』という台湾で30年続いている人形劇を、日本のプロダクションと台湾のプロダクションが合同で映像化するということで、その主題歌をやらせていただいたりもします。こうやって近い地域や国のみなさんと、できればバラバラではなく“アジア圏”の者同士としてモノ創りができたらいいなと。今回AOAとのコラボで思ったのですが、トラックは韓国で歌詞は日本語、歌っているのも韓国のアーティストと日本のアーティストで、なんかもうぐちゃぐちゃになっていて、どこの国の音楽でもないもの、こういう無国籍なものをもっと創れないかなと思いました。J-POP、K-POPとかではなく、そういうカテゴリーに収まらないおもしろいものを、もっと創ることができるのではと、それを次の楽しみとして力を入れていきたいです。

これからも、まだ誰も見たことがないものを生み出していくことに関わっていきたい

――すごく意義があるし、楽しそうですよね。もうすでに始まっています。

西川 AOAとのコラボも、みんなが一緒に作りたいと言って声をかけてくれて、台湾の『サンダーボルトファンタジー』に関しても、関係者の方と一度も接点がなかったのに、総監督の虚玄淵さんに主題歌は西川で、と言ってもらえた事がすごく嬉しかったです。色々なものを期待してもらえることが、僕にとって今一番嬉しいことですし、20年やってきたことの財産だと思っています。 

――次の30周年に向けて、楽しみもたくさんあるし、まだまだ上がっていくばかりですね。

西川 いやいや、こんなむちゃくちゃなバイオリズムの持ち主だから、そういう意味ではこれからはCDを何十万枚売りたいとか、こんな大きな会場でライヴをやりたいとか、数値化されているものではない、まだ誰も見たことのないものを創るほう、生み出すほうにたくさん関われたらいいなと思います。

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<Profile>

1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。'96年5月、西川貴教のソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてシングル「独裁-monopolize-」でデビュー。以後「HIGH PRESSUER」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」などヒット曲を連発。また水樹奈々や韓国の人気ガールズグループ・AOAとのコラボレーションは大きな反響を呼んだ。「NHK紅白歌合戦」には通算5回の出場を果たすなど、20年間第一線を走り続けている。またその圧倒的なライヴパフォーマンスも定評があり、今も動員も増やし続けている。また「株式会社突風」を設立したり、5月6日に「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)に出演した際には、18年前に出演した時に着用した衣装でパフォーマンス、『おかあさんといっしょ』(NHK・Eテレ)内の人形劇「ガラピコぷ~」に声優としてレギュラー出演するなど、話題を提供し続けている。自身が主催する故郷・滋賀県での大型野外ロックフェス「イナズマロックフェス2016」を、今年も9月17,18日に行うことを発表した。

T.M.RevolutionオフィシャルWebサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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