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女子中高生に人気のガールズバンド・Silent Siren快進撃のワケは、地道さと”根拠のない自信”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
全員読者モデル出身、サイサイことSilent Sirenの4人

年末の東京体育館に女子中高生が大集結

2015年12月30日東京体育館
2015年12月30日東京体育館

昨年12月30日、年末の東京体育館には女子中高生とおぼしき集団が、大挙して押し寄せていた。もちろん男性も負けじと集結していたが、若い女性の方が多い。彼女達、彼らの目的は『Silent Siren 2015 年末スペシャルライブ 覚悟と挑戦』のファイナル公演だ。Silent Siren(サイレント サイレン)、“サイサイ”は、すぅ(吉田菫;Vo&G)、ひなんちゅ(リーダー、梅村妃奈子;Dr)、あいにゃん(山内あいな;B)、ゆかるん(黒坂優香子;Key)の4人組ガールズバンドで、2012年11月にメジャーデビュー。これまでにシングル11作、アルバム3作をリリース。若い女性から圧倒的な支持を得ている理由、それは彼女たちが全員ファッション誌の読者モデル出身という、“一番近くの憧れの存在”だからだ。しかしこの全員読モ出身というキャッチーな肩書が、確かにわかりやすくてひきがあるので武器になる一方で、時には「音楽は片手間でやってるのでは?」とか「読モだから下手なんでしょ?」「アイドルが集まってバンドやってるだけでしょ?」という偏見の目で見られ、サイサイの歴史は苦悩と葛藤の歴史でもあった。「すごく悔しかった。それからハングリー精神はずっと持ち続けてます」と、リーダーのひなんちゅは語る。全員がその悔しさを糧に努力を重ねてきた。

”根拠のない自信”が原動力。ライヴを重ね”確かな自信”へ

すぅ(吉田菫;Vo&G)
すぅ(吉田菫;Vo&G)
ひなんちゅ(リーダー、梅村妃奈子;Dr)
ひなんちゅ(リーダー、梅村妃奈子;Dr)

筆者もメジャーデビュー直後の彼女たちのライヴを、渋谷の小さなライヴハウスで観た事がある。当時はソロライヴではなく対バンだった。確かにメジャーデビューまでひたむきに練習に打ち込み、腕を磨いてきてはいたものの、まだまだ粗削りだった。デビューしてからもとにかく練習した。ライヴに軸足を置き、ライヴハウスからスタートして地道に動員を増やしてきた。イベントにも積極的に出演し、とにかく場数を踏むことで実力と自信を付けていった。彼女たちの努力、情熱もありメキメキ力をつけていった。デビュー前の2012年7月に原宿アストロホールで行ったライヴの動員は、300人がやっとだった。それから約1年後の2013年5月に渋谷AX(現在は閉鎖)で行ったライヴでは1500人、満杯のファンを動員するまでになり、結果が少しずつ伴ってきていた。昨年1月にメジャーデビュー2年2か月、ガールズバンド史上最速で実現した日本武道館ライヴで、ボーカルのすぅが「根拠のない自信だけでここまでやってきた」と語っていたが、嘘偽りなく、それが彼女たちの原動力であり、最大のエネルギーになっていたのだ。ひとつの夢、目標に向け、それは叶うと信じて疑わず、ただ前に進むのみ。そんな根拠のない自信とともに、ライヴを重ねることでさらに“確かな自信”をつけ、それは作品にも表れてきた。

3rdシングルがブレイクのきっかけ。3rdアルバムで音楽性の幅を広げる

あいにゃん(山内あいな;B)
あいにゃん(山内あいな;B)
ゆかるん(黒坂優香子;Key)
ゆかるん(黒坂優香子;Key)

彼女たちの“潮目”が変わったのは、2013年8月にリリースした3rdシングル「ビーサン」からだろう。もちろん1stアルバム『Start→』が約3万枚のヒットになり、追い風になっていたこともあるが、「ビーサン」の売上げの初動(1週間の売上げ)が前作の3倍になっていた。真ん中にあるリズム隊が弾き出す太いグルーヴを感じるバンドサウンド、ポップなメロディとすぅのキュートな声、“オッオッオオッオッオー”というキャッチーなコーラスが印象的な作品だ。そして共感できる詞、かわいらしさを追求したMUSIC VIDEO(MV)も彼女たちの人気の秘密のひとつだ。この作品以降シングル、アルバム共にCD売上げランキングのトップ10入りを続けていることからも、「ビーサン」がサイサイ躍進のフックのひとつになったといってもいい。

その後もサイサイはコンスタントに作品をリリースし続け、ライヴはさらに精力的に行い、大型フェスなどにも出演、2014年と昨年には香港、台湾、インドネシア・ジャカルタでもワンマンライヴを行い、その活動の範囲をアジア全域にまで広げている。そんな経験がスキルアップにつながり、進化した4人の姿を見る事ができるのが3rdアルバム『サイレントサイレン』(2015年2月)だ。キラキラポップ、ロックだけではない、音楽性の広がりを見せてくれ、テクニック的にも魅せてくれる。ダンスナンバーからゴリゴリのロック、硬派なアレンジのものまで大いに楽しませてくれ、でもやはり“キラキラ”したサイサイスタイルにしっかりと仕上がっている。

音楽性が広がり”深化”したニューアルバム『S』

4thアルバム『S』(通常盤)
4thアルバム『S』(通常盤)

そして、さらにバンドとして”深化”した姿を感じさせてくれるのが、3月2日にリリースされた4枚目のオリジナルアルバム『S』だ。この作品には「八月の夜」(『バンタンデザイン研究所』CMソング)、「hikari」(映画『通学シリーズ 通学電車』主題歌)、「alarm」(『いつかティファニーで朝食を』(日テレ系)主題歌)、ZONEのカバー「secret base~君がくれたもの~」(フジテレビ系スペシャルドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』エンディングテーマ)のタイアップソングが含まれている豪華な内容だ。前作『サイレントサイレン』よりも、さらにバンドとしての振り幅を感じさせてくれる楽曲が揃い、色彩豊かで「サイサイらしさが増した」(ゆかるん)アルバムで、「たくさんある曲達の中でも“今”聴いて欲しい曲が詰まっている」(すぅ)。

その「サイサイらしさ」全開なのがオープニングナンバーの「チェリボム」だ。ギターが立ったポップチューンで、解釈によってはちょっとHな歌詞の“中毒性”がある曲だ。年末のライヴで初披露されたが、ライヴの数日前からこの曲の振付け動画が公開されていたこともあり、ファンからの反応もよかった。何度も聴きたくなる“中毒性”も「サイサイらしさ」のひとつと言っていいだろう。

サイサイに欠かせない存在なのが、ほとんどの曲とアレンジを手がける、サウンドプロデューサー・クボナオキだ。そのどこまでもキャッチーなメロディと硬軟織り交ぜた緻密なアレンジが、サイサイというバンドの骨格と匂い、空気感を作り上げている。2曲目の「八月の夜」(10thシングル)はそのクボではなく、ボーカルのすぅが曲を手がけている。サイサイの詞はすぅが手掛けることが多く、この曲も畳みかけるようなリズムが疾走感を生み、言葉遊びがまた中毒性を生む。疾走感がありつつも、歌詞は夏独特のせつなさを感じさせくれ、「詞の中の二人の最後は、聴いた人それぞれが想像して欲しい」(すぅ)という、甘酸っぱい青春のワンシーンを切り取った1曲。

エレクトリックなシンセとラウドなギターが絡み、ベースがドライブしてこれも疾走感が気持ちいい「milk boy」、おぎやはぎの矢作が出演したMVが約150万回再生を記録し、話題になったウェディングソング「ハピマリ」(9thシングル)、あいにゃん作詞の「Love install」は他の曲とはやや温度感が異なるクールな雰囲気。クボナオキの曲をCHRYSANTHEMUM BRIDGE(クリサンセマム・ブリッジ)がアレンジという、他にはない組合わせ、サウンド的にも様々な工夫と冒険の跡がうかがえる「チャレンジした曲」(あいにゃん)だ。「デモを聴いてデジタルな感じがしたので、デジタルと恋愛を融合させる内容にすると面白いかなと思い、詞を書きました」(前出)。

シンプルなアレンジで「君」と「僕」の世界を描き“聴かせる”「hikari」、すぅの本名をそのままタイトルにした「吉田さん」は「実話です。同窓会に行って、女子として完璧そうなコを見て、ちょっと惨めな気持ちになった自分を描きました。そのコも同じ苗字なのになんでこんなに違うんだろうっていう…」(すぅ)と言うように、リアルで誰もが共感できる、どこかクスッとできるユーモアある詞はインパクトがある。ひなんちゅ作詞の「レイラ」は「マンガ『NANA』が大好きで、そこに出てくる芹沢レイラという女のコをイメージしました。読者モデルをやっている時、自分の事がよくわからなくなって、自分探しというか、それこそ私のアイデンティティって何?というような事を考えていた時期で、その時の事をレイラに投影して書きました」(ひなんちゅ)。“本当の『わたし』を見てくれているのは誰?”という言葉が胸に刺さる一曲。

後半の落ちサビが印象的なドラマ主題歌「alarm」、ミディアムテンポ、シンプルなアレンジで相手への素直な想いを切々と歌う「nukumor」は、そこに愛(i)があれば“ぬくもり”になるというハートフルなバラード。

「C.A.F.E」は、ゆかるんが作詞を担当し「女のコはみんなカフェ好きなので、カフェで始まる恋を描きたかった」と言い、さらに「ライヴで合唱できる、ポジティブで元気があるものにしたかった」と言う通り、ハッピーな空気を生み出している。ゆかるんは、デビュー直前にサイサイのメンバーになった、元ファンという珍しい経歴の持ち主だ。「大学時代、初めて行ったライヴがインディース時代のサイサイで、すごく好きになって。メンバーにならない?って言われたときはすごく嬉しかった」(ゆかるん)。サイサイの曲作りやライヴの演出においては、今もサイサイの一番のファンを公言するゆかるんの声、意見は、ファンならではの目線、客観的な声として貴重なものになっているという。

『いつかティファニーで朝食をSeason2』(日テレ系)の主題歌「スローモーニング」は、カップルの日常の朝の何気ない風景を切り取り、“幸せの形”を描いた優しいメッセージが、女性からの憧れ、共感を集めている。ラストを飾るのは先輩ガールズバンド・ZONEの名曲「secret base~君がくれたもの~」のカバー。「青春時代に聴いていた曲をカバーさせてもらえて光栄です。原曲の良さを壊さないように、でもサイサイらしさを出せたと思います」(ひなんちゅ)。すぅがキュートに、かつせつなく歌い上げる。一つひとつの楽器の音が歌にまさに“寄り添う”ように、すぅの声をよりクローズアップさせる。でもそれぞれの音がしっかりと主張し、バンドとしての力を感じさせてくれる仕上がりになっている。

音楽、ビジュアル、ライヴ、グッズ…サイサイの”センスある楽しさ”に夢中になるファン

読者モデルとしてはカリスマ的人気を誇っても、それがそのまま音楽への評価につながるかといえば、また別の話だ。メンバーは懸命に練習し、モデルの仕事に行く時もギターを背負っていき、仕事が終わったらスタジオに直行した。仕事で得たギャランティをスタジオ代や楽器代にまわし、全体練習、個別練習、とにかく音楽に打ち込んだ。音楽が好きだから、楽しいからそこまで打ち込める。そしてぶれない“根拠のない自信”を武器に、突き進んできて、人気という評価を引き寄せた。サイサイが繰り広げる“楽しいこと”にファンも参加し、楽しんでいる。読者モデルのカリスマだけに、音楽はもちろん、CDジャケット、MUSIC VIDEOなどビジュアルワーク、ライヴ、グッズetc…すべてにおいて”センスのある楽しさ”を発信し、ファンを巻き込み、その数は増える一方だ。LINEの公式アカウント登録者数も50万人が見えてきた。

バンドとしての更なる勢いと、懐の深さをみせてくれた4thアルバム『S』でも、やはり音楽をとことん楽しんでる4人の姿をしっかり感じることができる。

地道な努力が実を結び、日本武道館、東京体育館を制覇し、いよいよ横浜アリーナへ

彼女達のキュートで華やかなビジュアルからは“地道”という言葉は全く想像できないが、人知れず地道に努力を重ねてきたからこそ、今の人気がある。4月からはアルバム『S』を引っ提げてのツアー『Silent Siren Live Tour2016 SのためにSをねらえ!そしてすべてがSになる』を、全国25か所26公演行う。7月18日には目標のひとつでもあった横浜アリーナのステージに立つ。日本武道館、東京体育館、そして横浜アリーナと、一つずつ夢だったステージからの光景を胸に焼き付けて、それをまた次への糧にしてサイサイというバンドは大きくなっていく。

かくも美しい見晴らし抜群の“成長”という名の坂道を、ゆっくりと、でも確実に4人は上り続けている。

画像

<Profile>

Vo&Gt.すぅ(吉田菫)、Dr.ひなんちゅ(梅村妃奈子)、Ba.あいにゃん(山内あいな)、Key.ゆかるん(黒坂優香子)の4人組ガールズバンド。

2012年11月、シングル「Sweet Pop!」でメジャーデビュー。 全員が読者モデル出身。 通称“サイサイ”として親しまれ、原宿を中心に女子中高生に人気が広がる。リーダーでドラムのひなんちゅは、「関ジャニ仕分け∞」(テレビ朝日系)のリズム感対決、キーボードのゆかるんは同番組の柔軟女王決定戦で話題に。ベースのあいにゃんは、自らがグッズのイラストを描き、ファンから親しまれているキャラクター「サイサイくん」も彼女が手がけた。ボーカル&ギターすぅは作詞・作曲を手がけ、ほとんどの楽曲の作詞は彼女によるもの。 2014年には初の海外公演、香港でのワンマンライヴも成功させ、アジアへ向けての第一歩を踏み出した。また国内の大型フェスにも相次ぎ出演。2015年1月17日、ガールズバンド史上デビュー最短で日本武道館でのワンマンライヴを行い、チケットはソールドアウト、 9000人を動員。その後、2月25日に3rdアルバム『サイレントサイレン』を発売。 アルバムを引っ提げたツアーは4月からスタートし、台湾・香港公演を含むアジアツアー全16会場20公演を成功させる。 9月にはインドネシア・ジャカルタでのワンマンライヴも開催。また、自身が企画した「サイサイフェス」も開催している。

Silent Sirenオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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