【インタビュー】秦 基博 デビュー10年目、初の連ドラ主題歌で見せた屈指のポップ感にこだわった理由

デビュー10年目、20枚目のシングル「スミレ」を発売した秦 基博

アルバム完成直後から制作に入った新曲。でも全く違うスイッチで作ることができた

「スミレ」(2/24発売)通常盤。ジャケットは秦が特殊メイクで推定年齢75歳のおじいさん姿に変身している
「スミレ」(2/24発売)通常盤。ジャケットは秦が特殊メイクで推定年齢75歳のおじいさん姿に変身している

時代に求められているということだろう。秦 基博への映画の主題歌やCMソングのオーダーは後を絶たず、昨年12月にリリースした3年ぶりのアルバム『青の光景』は、13曲中7曲にタイアップが付いている。そして秦の2016年一発目のシングル「スミレ」(2月24日発売)は、初の連ドラ(『スミカスミレ 45歳若返った女』(テレビ朝日系))の主題歌だ。セルフプロデュースで作り上げた渾身の一作『青の光景』に続いてすぐに制作に入ったという今回の作品は、秦のシングル史上でも屈指のポップチューンに仕上がっている。どこまでもポップで疾走感溢れる中にも、どこかミステリアスさを感じさせてくれる「スミレ」の制作秘話を、さらに、話題のCMソングの第2弾に加えライヴテイクが4曲も収録されていて、ミニアルバムといってもいいボリュームとクオリティのこのシングルに込めた想いを聞いた。

――前回、アルバム『青の光景』のインタビューの時に、制作をぎりぎりまでやっていたとおっしゃっていましたが、今回の「スミレ」はアルバムを作り終えてそのままま制作作業に突入した感じですか?

秦 11月の頭にアルバムのマスタリングが終わったのですが、11月末が今回の曲のデモの提出の締め切りで、12月31日に歌入れをやっていました(笑)。でも頭の中は切り替えができていましたので『青の光景』とは全然地続きではなく、「スミレ」を作った時はまた違うスイッチが入ったんだと思います。

――今回のドラマ『スミカミレ 45歳若返った女』の原作「スミカスミレ」はご存知でした?

秦 いえ、読んだことがなかったんですが、今回お話をいただいた時も脚本とか映像がまだなく、まず歌詞を書く手始めとして、原作を普通に買って読みました。45歳若返るという設定が独創的で、普段少女マンガを読まない僕でも面白く読めました。

――疾走感がある、どポップな曲で、主演の桐谷美玲さんの清潔感のあるイメージと、ドラマのキモになるミステリアスな雰囲気も漂っています。

秦 桐谷さん主演でドラマの終盤に流れるということは事前に聞いていましたので、どこかで桐谷さんのイメージが曲に出ているのかもしれませんね。

突然恋が始まったその瞬間を描きたかった

――詞もストレートで、シンプルですが、原作を読んでインスピレーションが湧いてきたというのはあると思いますが、具体的なキーワードはどこから?

秦 原作の中ではある日突然45歳若返ってしまうという設定がまずあって、現実世界では起こらないことではありますが、でも“人生いつ何が起こるかわからない”というところはいえるかなと思いました。65歳まで恋をせずに生きてきた女性が、若返ったことで初恋をする、というのがひとつの大きな要素としてあったので、恋愛という部分にひとつポイントを置き、突然恋が始まったその瞬間を描けたらいいなと思いました。「スミレ」という楽曲自体は、主人公は「僕」という男になりますし、テーマは初恋ではなく、むしろ恋に臆病になっていた自分が、君と出会ったことでまた恋をしている自分に気付くというのがストーリーになっています。ただその根底にある、恋をした時のとまどいと高揚感の相反するところを表現できたら、ドラマともリンクするんじゃないかと思いました。

――「スミレ」というタイトルに決めた理由は?

秦 「小さな花が咲いてるみたいで」という歌詞もあるのですが、スミレの花言葉を改めて調べてみると、一般的には“誠実”と言われていて、西洋では「小さな恋」という意味もあるようです。ほかにスミレという言葉が持っている響きも合ってるなと思い、付けました。

――今回もアレンジも含めてプロデュースはご自身ですが、音をしっかり聴かせるアレンジで、ストリングスが全体を引っ張っていきつつ、ミステリアスな雰囲気を演出してくれています。最初から最後まで気持ちがイイ曲です。

秦 爽快感みたいなものがあると思います。ドラムを結構ラウドに録っていて、音自体は太く、楽器の数は増やさずにそれぞれの音が太く出るようにというのは意識しました。ストリングスアレンジの相談は皆川(真人)さんにして、ポップで明るい曲ではあるのですが、使う楽器を増やして派手にするのではなく、ドラムやストリングスの音色は普段とは違うアプローチで工夫し、それが今回の作品で自分でやりたかったサウンド感でした。

――秦さんの作品でここまでポップな感じのものって今までなかったですよね。

秦 そうですね、もちろん今までもポップな曲はありましたが、この曲が向かっている先、ある位置というのは、サウンド的なことを考えても今までになかったと思います。

初の連ドラ主題歌。次週への期待感を意識して作った

――秦さんといえば映画の主題歌やCMソング、とにかくタイアップが多い印象がありますが、今回初めて連ドラの主題歌ということで、何か思うところはありましたか?

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秦 次週への期待感というものを意識しました。映画はそこで完結して、余韻の中に曲があることが多いのですが、連ドラって次への期待感の中で終わっていくものなので、イントロが流れた瞬間ドキドキするような、また次も観たくなるようなものにしたいと思いました。ドラマ自体はラブミステリーという種類のものだと思いますので、それにハマるように書いたつもりです。

――詞はすんなりと?

秦 いえ、苦労しましたね。Aメロは特に言葉が少ないので、その中で曲の世界に入ってもらう情景や気持ちを感じ取ってもらいサビに向かうという流れが難しかったです。

――歌い出しの「花盛り」という言葉が秦さんの口から出てくるのが、インパクトありました。

秦 花盛りという言葉は女性が一番輝いている時という意味があったりして、主人公のスミレが65歳のスミレであろうと、年齢に関係なくいつでもそうあれたらという気持ちを込めました。それと、はなざか、まで母音が「あ」で強い感じがあって、響きもいいですしイメージも拡がっていく、歌い出しの言葉としてはいいかなと思いました。

――その後「君の香り」と続きます。先ほども言いましたが、秦さんの作品の中ではすごく新鮮な感じがします。

秦 言葉選びに関しては、この曲ならではの思い切った選び方をしていますね。言葉そのものが持つポップさ、抜け感は絶対あると思いますので、そういう言葉を選んでいこうとはしていました。サビの頭の歌詞が英語(「Oh Baby Suddenly~」)というのは初めてです。

――ライヴで映えそうな楽曲です。

秦 3月から始まるツアーでももちろん歌いますが、アルバムを出した後、ツアーまでの間にシングルをリリースするのが初めてなんです。今まではツアー中にシングルを出して、途中から新曲をやり始めることはありましたが、今回のパターンは初めてですのでどんな感じになるのか楽しみです。セットリストの中での置きどころに関しても、流れを持っていける曲だと思いますので、あまり前後は気にしなくていいかなと思っていて、いいところに置こうと思っています。

「恋はやさし野辺の花よ」に続く話題のCMソング第2弾は「野ばら」。様式美は大切にしつつ、自分の色をしっかり出す

――カップリングの「野ばら」のカバーは、「恋はやさし野辺の花よ」に続いて「いち髪」のCMソングです。

秦 印象としては教科書に載っていた歌、というおぼろげに覚えている程度の曲だったんですけど、今回はCMのコンセプトに合わせて曲探しをみんなでやりました。その候補の中に「野ばら」があって、アレンジがパっと浮かんだのでこの曲にしました。メロディの展開が心躍る感じになっていますし、メロディとコードの関係がいい感じなんですよね。

――同じCMの前作もインパクトありました。

秦 1作目のCMは、男性がひと目ぼれした女性に片想いをしているという設定でしたので、CMサイドからは「恋はやさし~」を歌って欲しいという依頼だったんですが、今回は二人の距離が少し縮まってて、一緒に部屋にいるシーンがあったりして、幸せを感じることができて、テンポも感じたいというリクエストがありました。それで「野ばら」をシンプルでミニマムなアレンジにしようと思いました。

――前作の「恋はやさし野辺の花よ」が大正オペラ、今回がクラシックと、年代的には相当前の作品をカバーするというのは、自分の中にはないメロディとかコードとかが刺激にはなるとは思いますが、表現するには難しいものなんですか?

秦 「野ばら」に関しては耳なじみのある曲ということもありますが、自然な形で受け止められました。歌詞は、自分の中にはない言葉でしたが、シンプルで景色も浮かんでくるし、情景を思い浮かべながら歌うことができました。シューベルトの曲なんですけど、ポップスとしてアレンジしていますし、間奏もぐっと自分に寄せて作っています。「野ばら」も「恋はやさし野辺の花よ」も、メロディ自体が短いんですよ。歌詞も言葉数が少なく俳句のような世界ですよね。必要最小限のものだけで表現していて、そういう様式美みたいなものは感じます。でも物足りない感じが全くなく、「スミレ」の歌い出しの部分でやろうとしたことってそれに近くて、少ない言葉数でどれだけ景色を想像させることができるか、ということを考えました。そこは通じている部分かなと思います。

去年唯一のワンマンライヴからベストテイクを4曲収録

――今回の作品はシングルといいながらも表題曲と「野ばら」の他にも、去年行ったあおもり三内丸山遺跡でのライヴテイクが4曲も収録され、盛りだくさんな内容です。

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秦 リリースのタイミングの事も考えました。アルバムを出した後で、もう一回アルバムを聴いて欲しいなという思いと、ツアーも始まるので、アルバム『青の光景』に収録されている曲をライヴ音源で聴いて欲しいと思いました。それと、去年唯一のワンマンライヴがあおもり三内丸山遺跡でのライヴだったので、その中のハイライトというかストリングスカルテットとやってよかった曲、バンドアンサンブルが良かった曲を含めて、新旧のバランスを考えたらこの曲数になりました。「季節が笑う」は弾き語りとストリングスカルテットという組合わせは、あのライヴの特徴的なシーンだったのでそこから一曲選びたいと思ったのと、「Q & A」はストリングスとバンドの編成で、原曲とは違うあの日だけのアレンジでやってみたらすごくよかったので。あとはストリングスなしの、シンプルにバンドだけでの演奏を聴いて欲しいというところで「ダイアローグ・モノローグ」と「トレモロ降る夜」の2曲を選びました。この時のバンドメンバー、あらき(ゆうこ)さん(ドラム)、(鈴木)正人さん(ベース)、皆川さん(キーボード)は、3月からスタートするのツアーのメンバーでもあるので、その伏線という意味合いも込めて。

――野外で響くストリングスの音色は心地いいですよね。ストリングスの音が優しいんだけど、空気を切り裂く感じが伝わってきました。

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秦 あの場所というのが独特の“澄んだ”感じがありまして、すごく凛とした空気が流れていました。最初一人で弾き語りをしたのですが、その時の雰囲気は今でも鮮明に覚えていますね。ストリングスの音が流れ始めた瞬間の張りつめた空気とか、そういうのは覚えていますね。その時の空気感がパッケージされていると思います。

ツアーを回って『青の光景』が完成。「スミレ」は次のアルバムへの0歩目

――今年はツアーも控えていて、アウトプットする年と先程もおっしゃてましたが、さらに何か秦 基博が進む先みたいなものって見えていたりしますか?

秦 今、曲作りということでは本当に空っぽな、フラットな状態なので、まずはツアーをスタートさせて、色々考えるのはそこからかなと思っています。やっぱりライヴをしてアルバム『青の光景』に決着をつけないといけないんです。ツアーを回ると色々とわかることがありますし、『青の光景』がやっと完成をみることになると思うので、そうすると自分の中でこういうことをしたいとか、こういう曲を作りたいとか、そういう欲求が絶対出て来るんですよ。それを待つべきじゃないかなと思うんです。無理やり物を作るよりは、作りたいと思う気持ちが大切だと思います。毎回そうなんですがアルバムツアーを経て、ようやく自分の行先を自分で知るというか、そういう意味では「スミレ」ってすごく特殊で、自分で自覚していない何かが入っていると思うんです。『青の光景』のレコーディングを一旦終わらせ、ひとつ答えを出した後にまた作っているので、全然違うモードで「スミレ」には向かっていっていると思うのですが、それが一体何なのか、それがその先どう展開して、どんな作品に向かっていくのかというのは自分でもわからないんですよね。もしかしたら次のアルバムに向けた0歩目かもしれませんね。『青の光景』のツアーを経て、「スミレ」の先にあるものが見えて来るんじゃないかなと思います。

去年はアルバム作りに没頭し、その間も数々のタイアップソングを手掛け、多忙を極めた秦 基博だがどうやらその歩みは止まる気配がない。「今年はアウトプットの年」と言い、3月からスタートする「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016-青の光景-」で全国を回る。「アルバム『青の光景』はライヴで披露して初めて完成」し、それを見届けてから“次”を目指すという。しかしデビュー10年目の今年は早くもシングル「スミレ」をリリースし、いつもとは違うペース、雰囲気の中で始動した秦の動向が楽しみだ。「スミレ」で披露した底抜けのポップ感、こだわりは「「スミレ」が次のアルバムへの0歩目かもしれない」と語る秦の強い意思表示と捉えると、早すぎるが次のアルバムが楽しみになってきた。

初回生産限定盤には「Sally」の”みんなでつくる”MUSIC VIDEOを収録
初回生産限定盤には「Sally」の”みんなでつくる”MUSIC VIDEOを収録

<Profile>

2006年11月にシングル「シンクロ」でメジャーデビュー。強さを秘めた柔らかな歌声と叙情的な詞世界、そして耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる、。「鱗(うろこ)」や「アイ」のロングヒットで幅広い層から支持を集める一方、日本武道館での全編弾き語りライブ(2011年)、独創的な映像演出を取り入れた『Visionary live-historia』(2013年)を成功させるなどライヴアーティストとしての評価も高い。2014年に映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌として書き下ろした「ひまわりの約束」が各種年間チャートを席巻し100万ダウンロードを突破するなどロングヒットを記録し、弾き語りによる初のベストアルバム『evergreen』が「第56回日本レコード大賞企画賞」を受賞。2015年6月にリリースしたシングル「水彩の月」は第68回カンヌ国際映画祭正式出品映画『あん』の主題歌、9月にリリースしたシングル「Q & A」は映画『天空の蜂』の主題歌に起用された。2015年12月16日約3年ぶりの5thオリジナルアルバム『青の光景』をリリース。

秦 基博オフィシャルサイト