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【インタビュー】K-POPという枠を飛び越えて Jun. Kという名の才能が奏でるグッドミュージック

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(写真:アフロ)
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恐るべき才能。1stソロミニアルバムでは世界的ピアニストLANG LANGと共演

K-POPというと、イケメングループが、ダンスミュージックをベースにした歌と激しいダンスとで女性を魅了する――そんなイメージが強いと思う。また、K-POPというだけで食わず嫌い、聴こうとしない人も少なくない。でも"いい音楽“に触れないのはやはり損だし、心を豊かにしてくれるグッドミュージックが目の前にあるのに、それを見逃す、いや、聴き逃すのはもったいない。そう思わせてくれたのは、韓国の人気グループ・2PMのリードボーカルJun. Kという、素晴らしい才能の“音楽家”を見つけてしまったからだ。

Jun. Kが、去年5月にリリースした1stソロミニアルバム『LOVE & HATE』を聴いて、そのクオリティの高さに驚いたことが、彼が作り出す音楽にはまったきっかけだった。なんといってもその声に心が震える。彼がひと声発した瞬間、空気が変わる。叙情的で繊細かつ強さも持ち合わせたその声は、このアルバムの中で共演している世界的ピアニストLANG LANGをして「美しく心の底まで響く声の持ち主」と言わしめるほどだ。最高で最大の武器の声を駆使して、AORっぽい雰囲気のもの、ドラマティックなポップス、R&BやHIP-HOPありと、バラエティに富んだ音楽を聴かせてくれる。作家として、プロデューサーとして、そして歌い手として音楽家Jun.Kの素晴らしい才能が詰まった作品で、個人的に去年一番聴いたアルバムになった。

そんなJun. Kから2ndソロアルバム『Love Ltter』(11月25日発売)が届いた。今回もその多彩な音楽性は冴えわたり、どの曲も非常に印象的で、これから訪れる冬を温かなものにしてくれそうな一枚だ。

『Love Letter』では「冬」に温かい気持ちになって欲しいという想いを込めた

――1stミニアルバム『LOVE & HATE』は、Jun. Kさんの個性と音楽スタイルを世に知らしめるための名刺代わりの一枚的な存在だったと思いますが、今回の2ndアルバム『Love Letter』を作るにあたって、まず思い浮かんだキーワードはなんだったのですか?

Jun. K 確かに1枚目のアルバムは名刺代わりという言葉がピッタリだと思います。2枚目は発売時期が11月中旬ごろになると聞いていましたので、コンセプトを「冬」にしようと決めました。冬の時期にこのアルバムを聴いてくれた人が温かい気持ちになったり、ワクワクしたり、恋しくなったりするものにしたかった。タイトル曲「Love Letter」は自分の音楽性をこだわって表現した曲ですが、それ以上にポップスとして皆さんが聴いて、いいなと思ってもらえるものを作りたかった。

――その「Love Letter」はジャズの色気を感じさせてくれながらも、クリスマスっぽい雰囲気があって、ビッグバンドの豪華な音がハッピーな気持ちにさせてくれます。

Jun. K 1950年代のビッグバンドの音をイメージして、コード進行に合わせて色々な音を組み合わせ、そこに洗練されたビートを加えるという作業をやり、かなり時間をかけて作りました。ドラムのキックで新しい感じをプラスしていき、わざと音のテンポをずらしたりして、メロディはポップなんだけど、トラックは独特な感じが出せたかなと思います。テンポがきちんと合っていないからこそ、満たされる感じになったんじゃないかなと思う。

「Love Letter」は50~60年代のドゥーワップテーストを感じさせてくれるコーラスワークが秀逸だ。彼の、音に一切に妥協を許さないストイックさが、耳に残る印象的で、豊潤な音楽につながっている。『Love Letter』というアルバムタイトルだけに、全曲がラブレターのように甘く切ない言葉と温かなメロディであふれている。1曲1曲こだわりにこだわった作品だけに、その聴きどころを1曲ずつ本人に解説をしてもらった

――前半はアコギ一本のシンプルなサウンドなので、その声の素晴らしさが伝わってきて、本当に胸に染みてグッとくる「Better Man」。

Jun. K 一番短時間でできた曲です。自分が愛する人に手紙を書く感覚です。“温かさ”を表現したかった。“いつも隣にいてくれてありがとう、君のおかげで僕はイイ人になれるんだ”、ということを伝えたかった。

――「Good Mornig」は個人的にムチャクチャ好きな楽曲で、前作だと、どこかAORっぽい肌触りだった「With You」のような感じの曲ですね。

Jun. K 確かにそうですね。実は一番時間がかかった曲です。メロディとコーラスのバランスを考えるのに時間がかかって、この曲のコーラスはある意味メロディの役目をしているんです。90年代のポップスの匂いをさせたかったんです。

コーラス、コーラスワークの素晴らしさがフックになる

Jun. Kワールドの大きな要素、特長になっているのが、そのコーラスワークだ。唯一無二の声を重ねたコーラスは、曲に彩りと深みを与え、コーラスアレンジの素晴らしさで、フックをたくさん作りだすことができるというのが強みでもある。彼が多大な影響を受けたRケリーやディアンジェロなどR&Bやソウル、ドゥーワップなどのフレーバーを感じさせてくれるコーラスアレンジが心地よく、「Love Letter」も「Good Morning」も"コーラスが聴きたい“と思わせてくれる一曲だ。

Jun. K コーラスというのは独特のものと思っていて、今回「Love Letter」という曲はジャズっぽいテイストなので、ジャズってコーラスもベースになる要素だと思うので、「Love Letter」同様、「Good Morning」もコーラスにかなりこだわっています。

――スウィングジャズのフレーバーが気になる「Walking On The MOON」。

Jun. K スウィングジャズっぽい感じのものを作りたくて、実は2PMの新曲としてこの曲を作り始めたのですが、結果的には2PMの新曲はもうちょっとHIPHOP的なものにしようということになり、この曲を自分のアルバムに入れることにしました。“淋しさ”というものが描かれています。自分の心を代弁しているような内容になっているのですが、コンセプト、ビート的に考えると、ベースになるのはスウィングジャズなんですが、その合間合間に転調で違う音楽を入れ込んでいます。だから音楽的にも面白いと思う。

――フェンダー・ローズ(ピアノ)の音色が美しい、まるでテディ・ペンダーグラス(※1)のバラードのような、スウィートな感じの「Hold Me Tight」は?

Jun. K (笑)僕もテディ・ペンダーグラス好きです。影響されているかもしれません。ある意味僕が一番好きな感じのジャンルです。作っていて楽しかったです。今まで2PMの曲でも、1枚目のソロアルバムの中でも見せてこなかったメロディ、アレンジになっていると思います。自分の新しい部分が出せたと思う。こういうコードラインが好きですし、この曲を聴いて冬を温かく過ごして欲しいです。

複雑な構成が生み出す、曲の”深み”

――歌声がひと際切なくて、叙情的なピアノの音色が印象的な「Sorry」は?すごく複雑な構成で、シンプルなのに“濃い”感じがします。

Jun. K これも比較的短時間で出来上がった曲です。起承転結を独特なものにしたかった。最初はピアノから始まって、もうすぐフックが来るのかなと思ったら、そうではなく……ビートが始まってそのままいくのかなと思ったら、また止まって、そこからまた静かな感じで始まって行くという、フェードイン、フェードインが重なって、それがまた突然止まって、そこに歌が乗ってくるという、予想を裏切る構成になっています。間奏のところで男女が会話をしている部分があるのですが、わざとラフな感じ、本当に会話している感じを出したかったので、ケータイに自分で吹き込んで、それを使いました。

――「Love Game」。これもコーラスワークがすごく気になります。

Jun. K 言ってみれば1枚目のアルバムのリード曲「LOVE & HATE」のセカンドバージョンのような感じになっていると思います。これも転調がすごくたくさん盛り込まれています。この曲を作る時もエレクトリックピアノだけで始まって、残りの余白の部分に自分の歌を入れ込んでいって、その余白の部分を十分に生かしたいと思いました。

――そしてラストは2PMのライヴでも披露していました「EVEREST」。非常に高度なテクが使われていて、Jun. Kさんらしい曲です。

Jun. K ライヴでやることを最初から念頭に置いて作った曲です。イントロ部分にジャズヒップホップを入れ込んで、そこからニュースクール、ヒップホップに転調して、この曲も転調が多い曲。それからR&Bにいってトラップ(※2)にいって、で、アウトロにまたラップが入ってきて……この曲を聴いているとひとつの曲の中に、色々な音楽が3つも4つも入り込んでくる感じを受けるんじゃないかと思います。僕は元々転調が多い曲が好きで、聴く人によっては曲が少し難解に聴こえるかもしれませんが、この曲を聴いた時にみなさんの頭の中で色々な映像が思い浮かんでくるといいなと思います。

「冬」のアルバムを真夏に制作。部屋をキンキンに冷やし”今は冬だ”と言い聞かせ、取り組む

――今回の歌詞はJun. Kさんの経験と想像、両方を踏まえて書いたものですか?

Jun. K もちろん自分の経験が反映されています。韓国語で歌詞を書いて日本語に変えていくので、少しずつ表現・意味が変わってきている部分はあるかもしれませんが、基本的には自分が今まで生きてきた中で感じた感情を、いつも歌詞やメロディに反映させています。実はこのアルバムを作るにあたって8曲目の「EVEREST」以外、7曲を作っている間は家に16日間閉じこもって作業をしていたのですが、ちょうど真夏で、でも冬をテーマにしたアルバムを作らなければいけないので、作業している部屋のエアコンを17℃に設定してキンキンに冷やして、寒い寒いと言いながら、今は冬なんだ!って自分に言い聞かせて作業をしていました(笑)。

――このアルバムを引っ提げてのツアーはどんな感じになりそうですか?

Jun. K 今まだアイディアを出している段階ですが(インタビューは10月10日)、アコースティックな感じもいいなぁとか。決め決めな感じではなく、ラフで、バンドとセッションするようなイメージが今は浮かんでいますが、さてどうなっているのかはお楽しみに!ライヴごとにセットリストを変えてみるとか、そんなことも考えているところです。

唯一無二の声、圧倒的な歌の上手さ、コンポーザー、プロデューサーとしての才能、”総合力”が高いアジアを代表する”音楽家”の一人

『Love Letter』初回盤A
『Love Letter』初回盤A

唯一無二の声、その声を重ねたコーラス、美メロ、そして美しいストリングスを多用し、どんなタイプの曲でも、必ずドラマティックな部分を作り出すことができるのが、彼の強みだ。ドラマティックということは感動をもたらせてくれるということだから。また世界的ピアニストLang Langから最高の賛辞を引き出し、ライヴでは涙を流す人も多い、その何ともいえない素晴らしい肌ざわりの声も含めて、まさに"アジアの才能“といっても過言ではないと思う。さらに、そんな声を最大限に生かすメロディとサウンドを作り出す、彼のプロデューサーとしての才能も評価されるべきだ。彼は、山下智久が作詞したバラード曲「ブローディア」のプロデュースや、母体でもある2PMの楽曲を手掛けたりと、根っからのプロデューサー気質だ。彼が作り出す音楽は、ブラックミュージックへのリスペクトに溢れ、そしてその“マナー”に乗っとったメロディの構築、アレンジが特長で、それは幅広い層から支持を得ることができる普遍性を持つ。そしてそこに最新のビート、音楽のフレーバーを乗せる。でもそんな最新の音楽スタイルも決して“イキ過ぎず”、見事に美メロに融合させている。その絶妙な“塩梅”がグッドミュージックを作り出すのだ。様々なジャンルの音楽が世界中で毎日のように生まれては消えを繰り返し、その中で残っていくものが現れ、いつしかそれが多くの人に支持され世界の流行になる。そんな“時代の気分”をJun.Kはさり気なく自分の音楽に取り入れ、斬新さと新鮮さをリスナーに与えてくれる。

やはりプロデューサーであり、そしてその歌で多くの人の心に感動を与える音楽家だ。そんな彼の今現在の“気分”を感じることができるアルバム『Love Letter』、何はともあれ聴いた方がいい。

※1 アメリカ出身のソウル/R&Bの最重要シンガー。1970年代のブラックミュージックシーンの一大潮流フィラデルフィアソウル(ストリングスを多用したソフトで洗練された都会的な雰囲気のソウル)の第一人者。2010年、59歳で急逝。

※2 Trap。重低音を強調したビートに、スネアドラムの連続音や、派手な電子音を加える中毒性の高いスタイル

『Love Letter』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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