Yahoo!ニュース

被災地と支援基地が重なる富山県から見た能登半島地震

田中淳夫森林ジャーナリスト
富山県でも全壊家屋は100軒を超す(筆者撮影)

 仕事で富山県に行ってきた。

 その際に思ったのは、最近の能登半島地震のニュースで取り上げられるのは、石川県ばかりということ。最初の頃こそ、富山県や新潟県などの被災に触れる記事もあったのだが、今や全国ニュースで富山県の被災はほとんど登場しない。

 しかし、一度被災したのに、すぐ元の通りにもどるはずはない。そこで、地元の人にお願いして、富山県内の被災地を案内してもらった。すると、意外な富山県の立ち位置と、復興に立ちふさがる壁が見えてきた。

 富山県の被災は、大半が能登半島東部の根元に当たる氷見市である。

 まず訪れたのは、氷見の中心部でもある北大町の商店街。多くの店舗が傾いていた。検査により「危険」「要注意」などのチラシが張られていた。人気もない。随分片づけたとのことだが、液状化現象で各所に砂が吹き出た跡が見られた。さらに地盤が沈降したのか隆起したのか、段差が目立つ。コンクリートの柱が何十センチも浮き上がっているところも多かった。

堤防に走るひび割れ

 さらに海沿いに半島を北上して訪れた姿集落。ここがもっともひどい被害を受けたという。実際、多くの家屋が傾いたり壁が落ちたりしている。全壊も少なくない。
 それ以上に恐ろしく感じたのは、堤防のコンクリートに走るひび割れだ。これでは今後の波にいつまで耐えられるか。しかし、これを復旧するのはかなり時間がかかるのではないだろうか。

 今後住めるかどうか疑問視する声もあった。人影もなく、ほとんどの住民が避難したようだ。道路は通れるから孤立集落ではないが、人がいなくなる可能性を感じた。

 ほかの集落でも、よく見たら屋根瓦が落ちている、壁や窓が傾き崩れている家屋は多数あった。

 富山県全体では、全壊家屋が100軒を超えたそうだ。まだ調査は続いているのでもう少し増えるだろう。半壊、一部損壊なども含めた被害家屋は、県内で6000軒を超えるとされている。

 幸い死者は出ず、大半の地区で電気や水道は復旧している模様だ。そのため全国的な被災報道からは外れてしまったのだろう。しかし、富山県も被災地であることは忘れるべきではない。

奥能登支援の基地化

 一方で、別の側面も見えてきた。それは、氷見市が石川県の被災地復興の支援に行く起点になっていることである。各地に東京など遠方のナンバーをつけた車があり、ボランティアらしき人々が集っている。氷見市内の被災地支援もあるが、奥能登へ向かう人も少なくないらしい。

 氷見市からは、七尾や輪島、珠洲など奥能登に向かう場合に、金沢市からより入りやすい面があるようだ。電気や水道もあらかた復旧している。そのため、氷見市民も奥能登の奥地の救援に駆けつける状況が起きていた。

 地元の林業家は、1月6日からずっと輪島に通っていると聞いた。最初は片道4時間、最近でも2時間はかかるというが、自身の仕事を止めて現地に足を運び続け、できることをしているそうだ。

 ただ復興支援現場は、混乱気味だという。現地には、石川県と自衛隊と国交省の人々が入っているものの、それぞれがバラバラに動いている。現場では仕事の分担がされず、誰が何をしたらよいのかわからない状態だという。

 また国の役人は、1日(24時間)交代で入れ代わるうえ、引き継ぎが十分にされていないために、混乱に輪をかける。統括的な指揮系統が敷かれていないのだ。

手を付けられぬ傾いた樹木

 さらに厄介なのは、倒木などの処理だ。地面ごと山が傾いたため、各地で樹木が倒れたり、倒れかけたままの状態が広がっているという。

 道路などに倒伏したものはともかく、まだ倒れていない木は、勝手に伐れない。なぜなら樹木は私有財産でもあるので、所有者の了解が必要だからだ。しかし森林の所有者は、平常時でもなかなかわからない。不在地主であるケースも多いうえ、境界線が曖昧だったり、相続時に名義変更がされずに名義が分散していたら、お手上げだ。

 ちなみに傾いた木を伐るのは、プロでなければ非常に危険だ。安易にチェンソーを幹に入れると、木は裂けて飛び跳ねてしまい、事故につながりかねない。その点からも林業家が被災地で活躍できる余地は大いにあるのだが、残念ながら十分に力を発揮できる態勢になっていないようだ。

 十分使える立派なスギやヒノキ,アテもあるが、今のままだと処理ができずに最終的には廃棄物扱いにされてしまうだろう。

 以上、被災地でありながら復興支援基地にもなっている富山県。そして林業家の視点から見えた能登半島地震の状況である。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事