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関西万博の大屋根リングの木材は、再利用できるのか

田中淳夫森林ジャーナリスト
関西万博の公式キャラ「ミャクミャク」の顔もリング状?(写真:つのだよしお/アフロ)

 このところ大阪・関西万博の話題が増えた。とくに取り上げられるのは、会場のシンボルとなるリング状の木造の大屋根だ。

 会場を一周する構造で幅30メートル、高さ12~20メートル、一周の距離は約2キロに及び、来場者は屋根の上と下を回遊できる。完成すれば世界最大の木造建築物となり、日本の伝統的な貫工法を採用したことも強調されている。ついでに言えば、万博公式キャラクターの「ミャクミャク」も、リング状になっているのは関係あるのか関係ないのか。

 しかし、184日間の会期が終わると解体されるのに建設費がバカ高い(約344億円)ことや、クギや金属板やボルトも使われることがわかってくると、エセ伝統工法だと批判を受けてしまった。

 そこで推進側からは、万博終了後も保存する、別の場所に移設する、解体して木材を再利用する……などの提案も行われ始めている。

 果たしてそんなに簡単に木材を再利用できるだろうか。その点を考察してみた。

リングが木造になった理由

 そもそも木造リングはどのように企画されたのか。

 会場をリングで囲むデザインは、コンセプトの「多様でありながら、ひとつ」を表現する構造だという。

 そこに大阪府木材連合会(府木連)が、リングを木造にする案を陳情した。私が目にした当初の案は、直径0.8~1メートル、長さ12メートルの国産丸太を2200本立ててリングを支えるというものだった。木材は再利用できるからSDGsの精神に合致する、建築費は試算で約104億円と安くなる、国産材を使うことで林業振興に役立つ……などのメリットを挙げていた。

 それに対して林業家は比較的冷淡な反応だった。その太さ、長さの国産材を2200本調達するのは不可能だからだ。私も、寺社建築などで直径80センチのヒノキが必要だと探しても、なかなか見つからず難儀しているのに、この本数はまったく荒唐無稽だと感じた。木材関係者は、日本の山の実情を知らないのだ。

フィンランド製の集成材

 リングを木造にする案は通ったものの、無垢の大径木材は諦めて、構造用集成材を使うことになった。すると国産だけでは無理となる。必要な約2万立方メートルは、国産の構造用集成材の年間供給量の6割を占める量なのだ。生産力の点からも厳しい。そこで柱には主にフィンランドのアカマツ材による集成材が多く使われることになった。この時点で、日本の林業振興という旗印も怪しくなっている。

 その後建築費も膨れ上がり、試算の3倍以上。集成材が高いためか。あるいは木構造の工事費の見積もりが甘かったのか。もしかして中抜きされたのでは?と疑いもかけられる始末。

 ただ梁部分や歩行する床には国産の集成材を多く使うことで、かろうじて国産材の出番をつくったわけだ。

 府木連は、床にはNLTと呼ぶクギで木質板を接合したパネルを使う提案をしていた。その方が小規模工場でも製造可能で、安くつくのだが、結局は国が肩入れしているCLTとなった。こちらは板を接着剤で張り合わせたパネルで、大規模な専門工場で製造する。しかしCLT工場は、関西にない。地元の木材業者にメリットはあまりなさそうである。

 もはや木材は天然素材で、再利用できるという点しか売り文句にならない。

穴の空いた木の再利用

 万博協会は、閉幕後にリングを解体し木材を売却する方針だった。しかし再利用というには地味だ。そこで「自治体に譲り渡して公共建築に使いレガシーにしてもらう」だの、閉会後も夢洲に残置して保存する、解体しても別の場所に再びリングとして移設する……などの案を言い出した。

 だが、一度建築に使用した木材の再利用は、そんなに簡単ではない。最初から次の用途を織り込んで加工しないと、無理が出る。
 貫工法は、部材に大きな穴を開けて差し込むことで接合するのだから、穴の空いた木材をいかに別用途に回せるか。とくに今回は、強度を出すため貫穴に鋼板を入れボルトでつなぐ。ほかにもクギを打ったり、ボルト用の穴もある。

 そこで使用する木材のサイズを調べると、柱材は42センチ角の長さ約2~3メートル。梁材は42×21センチの平角で長さ約1~5メートル。再利用しようと思ったら、貫部分やボルト、クギを使った部分は切り落とすだろうから、もっと小さくなると想像できる。

 それはCLTも同じだ。つなぎ目には金具を使うし、ビスも打つだろう。また会期中人が歩いた床部分は汚れて、すり減ることも予想できる。

 それでは、再利用できる部材はごく一部になりそうだ。

リングは仮設建築物として設計

 それなら会場跡に保存・残置するか、別の場所に移設するのはどうか。
 現在の建設は、万博会期の後には解体する前提で「仮設建築物」扱いの設計をしている。もし長く利用する場合は、長期間の耐震や耐久性を保つために補強が必要になる。それは保存でも移設でも同じである。

 移設する場合は、その場所があるのかどうか。解体して輸送してまた組み立て直す(加えて補強する)ことにかかる莫大なコストはどうするのか、という問題も出てくるだろう。

 工事は、3つの工区に分けて、それぞれ大林組、清水建設、竹中工務店のつくる共同企業体(JV)が担当している。そして同じ貫工法と言っても、それぞれ事業体ごとに構造が違う。また部材の数は、全部で3万ピースを超えるそうだ。解体・移設するにしても事業体ごとに方法が違うとなると大変だろう。

 すでに木造構造部分の約35%が完成している。途中で仕様変更も有り得ない。

 どうする、万博協会?

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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