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「間伐材を有効利用」という言葉に潜む勘違いと傲慢さ

田中淳夫森林ジャーナリスト
間伐材は、切り捨てられるような価値のないもの?

「間伐材を有効に使っています」。そんな文言が最近やたら目につく。その後に続くのは「間伐材だから安く」。そして「間伐は、残す木の質を上げるために行います」という説明。つまり本来役立たずのものを使ってやるというわけか。

 そこで問題。以下の二つの丸太の写真で、どちらが間伐材かわかるだろうか。いずれも奈良県吉野の木材市場で見かけたものである。片方は、直径15~20センチの小中径木。片や80センチ級の大径木である。

直径は15センチから20センチ程度。
直径は15センチから20センチ程度。

直径80センチ以上の丸太。
直径80センチ以上の丸太。

 実は、どちらも間伐材と言ってよいだろう。なぜなら山を皆伐(主伐)して出した材ではなく、抜き伐りだろうから。大径木材は、おそらく樹齢120年以上で、銘木級の品質(賞も取っている)だ。細い方も、取引されるのだから何らかの製品にされるものだ。

 間伐を、残す木を育てるために生長や品質の劣る木を伐ること……と思っている人が少なくない。下手すると、林業家もそんな風に思い込んでいるケースがある。

 だが、本来の間伐は、需要に合わせて抜き伐りで収穫する作業であり、同時に残した木の生長をうながす効果も見込むものだ。若い樹林では、生育の遅い細めの木を選んで伐採したものの、林地から出す手間とコストが売値に引き合わないのでそのまま林地に残すこともある。補助金があるから行えるものだ。だから「切り捨て間伐」と呼ぶが、それは間伐の一形態にすぎない。(冒頭の写真)

 最近は「搬出間伐」と呼んで、伐って出して売るものも増えているが、それでもイメージとして「間伐材だから劣等木」と思われがちだ。

 間伐する木の選び方は、林業でもっとも高度な技術で「林業は間伐にあり」と言われるほどだ。

 なかには林地でもっともよく育っている大木を伐ることもある。太くて品質がよいから高く売れるとともに、その大木がなくなれば光がよく射し込み、これまで日陰で抑えられていた木々の生長をうながす効果を見込む。次はその木が大木になることが期待できる。

 あるいは2番目によい木を伐るとか、これ以上生長が見込めない木を伐るとか、木々の全体の配置を見て間を空けるために伐る木を選ぶケースもある。間伐にはさまざまな思惑と技術がある。

 それなのに一律に「間伐材は劣等木。切り捨てる木をなんとか使ってやる」という発想の工務店や木工業者がいる。そして「間伐材なんだから安くして」という。

間伐材マーク」(全国森林組合連合会)というのもあって、間伐や間伐材利用の推進を消費者に訴えるためのロゴマークだが、そこに添えられた文字は「みどりを育てる」と残した木に重点が置かれた表示だ。すると間伐材だから品質はイマイチ、価格も安い……という意味にとられてしまうだろう。

間伐材マーク
間伐材マーク

 私も、吉野で80年生のスギからつくられた木工品に間伐材マークがつけられているのを見た。間違いではないものの、なんだかモヤモヤする。これでは肝心の木材の価値を貶めているように感じてしまった。

 ちなみに国産の高級割り箸の材料は間伐材でなく、丸太を製材した際に出る弓形の端材、背板からつくる。製材後の残り物だから、製紙用チップに回すか燃料用にするしか使い道がないように思われがちだ。しかし、ときに背板の価格が製材より(立米単価で)高いこともあるそうだ。割り箸の方が柱材や板より高く売れ、その材料も取り合いになるため高値になるのだ。

割り箸の材料となる背板。製材した際に出る端材である。
割り箸の材料となる背板。製材した際に出る端材である。

 間伐材、あるいは端材という言葉は、どうしても品質を悪く感じさせてしまう。だが木材の品質とは、その素材を何に利用するのかによって決まるものだ。利用に適した質ほど高品質とみなすべきだろう。

 それなのに「間伐材を使ってやるんだから安くして」という発想は傲慢に聞こえる。また「間伐材や端材を使うことは環境に優しい」というのもおかしい。すべての木材を無駄なく使い、全体の利益を大きくすることが環境にも経済にもよいのではないか。

 むしろ細い間伐材をいかに高く売れる商品にするか、端材をいかに適材適所の使い方をするかが加工業者の腕の見せ所のはずだ。

 最近は、SDGs(持続的な開発目標)とかCSR(社会貢献)などの流行で環境に優しい行為を探している風潮がある。それ自体はよいことだろうが、「環境に優しいことをするのだから、価格は安くても仕方がない(安くあるべきだ)」という発想を呼び込んでいないか。それは価値を不当に貶めて、安く買いたたくことと同じだ。

 むしろ素材を高く買い取ることこそが経営の持続性につながり、SDGsの精神に合致すると思うのだ。

この間伐材を私は高く売れる商品にしてみせるから、2倍の価格で買い取りましょう」と言える業者が現れることに期待する。

※写真はすべて筆者撮影

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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