Yahoo!ニュース

「けものフレンズ」は絶滅危惧動物を救う~動物アニメや動物園の意外な効能が見える化された

田中淳夫森林ジャーナリスト
ペンギンを間近に~動物との距離を縮めた北海道の旭山動物園

 アニメ「けものフレンズ」には、市民の動物への関心を高める効果があった……そんな研究結果が発表された。

 行ったのは、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の深野祐也助教のほか、曽我昌史東大大学院准教授、東京動物園協会の田中陽介氏の3人。動物園と動物を扱ったテレビ番組が、市民にどんな効果をもたらすかを大規模に定量化したものだ。

日本中で愛を叫んだけもの - 動物園と動物アニメは、絶滅危惧種への関心を高め、寄付を促進する - (論文は「Science of the Total Environment」誌の「Zoos and animated animals increase public interest in and support for threatened animals」)

 この研究は、「けものフレンズ」の放映や動物園の飼育動物によって、インターネット(Google)の検索量とWikipediaの閲覧数の変動、それに動物園の絶滅危惧動物への寄付額を調べたものだ。すると「けものフレンズ」に登場した動物は、それ以前と検索数が600万回以上、Wikipediaでの閲覧数が100万回以上増加したという。

 さらに上野動物園・多摩動物公園・井の頭自然文化園に対して行われた過去5年分の寄付記録を解析すると、アニメに登場した30種の動物への寄付は、登場していない129種への寄付に比べ、放映後に増加していることもわかった。もともと人気のあった動物だけでなく、フンボルトペンギンやジャイアントアルマジロなど、これまで知名度が低かった絶滅危惧種も、アニメによって注目を集めたそうだ。

 私はたまたまこの論文を目にしたのだが、正直こんな研究もありか、と笑ってしまった。結果については、ある意味、当然というか推測されるとおりである。それでも、それを数値で示せたのは学術的成果だろう。

 ただ私は「けものフレンズ」を見たことがないのである。そこでついググってしまった。なんでもゲーム、コミック、そしてアニメ化もされたメディアミックスが行われており、“動物が人間の姿をした「フレンズ」と呼ばれる少女たちが暮らすサファリパーク型動物園「ジャパリパーク」を舞台に、パークに迷い込んだ迷子の正体や仲間がいる場所を知るための冒険と旅を描”いた作品らしい。

 最初はテレビ東京系列で2017年1~3月、続編を19年1~3月に放映したというから、人気はそこそこあったと思われる。そして絶滅危惧種を含むさまざまな動物が「フレンズ」キャラクターとして登場しただけでなく、動物園や世界自然保護基金などとのコラボレーションもあったそうである。

 考えてみれば、ディズニーアニメ・映画など、動物の登場する作品は数多い。そんな作品群が、絶滅危惧種についての普及啓発に一定の役割を果たしているのは間違いないだろう。

 また149の動物園・水族館で飼育展示されている92種の哺乳類と鳥類を対象に、検索量の違いや変遷を調べたところ、特定の動物が飼育されている動物園のある都道府県では、検索量がほかの県より約2倍あった。あきらかに、目にすることができた動物への関心は高まるのだ。そして、そこで見た種が絶滅を危惧されていると知れば寄付を誘発しているわけだ。

 動物園(や植物園、水族館)などは、誕生した時は珍奇な生き物を目にすることのできる、いわば見せ物施設としてスタートした。しかし、今ではレクレーション(観光)のほかに教育の場、種の保存、そして飼育する動物の調査研究と役割は多岐に渡っている。そして展示の仕方も、単に檻の中に閉じ込めておき、それを人間が外から眺めるだけでなくなってきた。生態的展示と呼ばれる生きている環境を再現し、自然界に近い動物の行動を見せる方向に舵を切ったのだ。さらに最近は、より動物を身近に見られるような、柵やガラスなどの障壁のない姿も増えてきた。

 それは人が環境について学べるだけでなく、動物にとっても心地よく暮らせる環境エンリッチメントとかアニマルウェルフェアと呼ばれる動物福祉の考え方とも合致している。すでに記した「動物園のライオンの餌に害獣の駆除個体を与える深い意味」で紹介したような肉食動物の餌の与え方にも及ぶ。

 これらは単に来客を喜ばせる以上の効果があるのかもしれない。

柵のない動物園。(大阪の「生きているミュージアム ニフレル)にて
柵のない動物園。(大阪の「生きているミュージアム ニフレル)にて

もっとも、すべてがよい効果につながるというわけではない。

あらいぐまラスカル」のアニメの影響でペットになったアライグマが飼いきれなくなって、多くは野に放されて野生化してしまった。それが日本在来の動物を脅かし、大規模な獣害を引き起こしている。またディズニーアニメ「ファインディング・ニモ」で主人公をカクレクマノミにしたところ、この熱帯魚の乱獲が進んでしまった例もある。同じことは昆虫を巡っても起きている。動物園のパンダやコアラブームも、益ばかりではない。

 やはり、アニメにしろ動物園の飼育にしろ、その目的意識と表現方法が問われる時代になってきたのだ。

 それにしても、本物の動物を本当の生息環境で見せようとする動物園と、二次元の世界で擬人化した動物の虚構の物語を展開するアニメとは、正反対の存在である。しかし両者がコラボすることで、新たな効果が生み出される。せっかく数値的な効果を読み取る手法が編み出されたのだから、今後の動物アニメの制作や、動物園運営のあり方にも応用されてほしいものである。

※写真はすべて筆者撮影

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事