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宮崎の山は無法地帯か。盗伐被害者の声を聞く

田中淳夫森林ジャーナリスト
盗伐された山の一つ。尾根部分を数ヘクタール皆伐された。(筆者撮影)

 日本の林業は、今や絶望的状況ではないか。

 そう思わざるを得なくなる事態が広がっている。宮崎県の盗伐事情について取材してそう感じたのである。

すでに

'''盗伐しても不起訴。その背景に透けて見える林業の闇を探る'''

でも紹介したが、全国各地で他人の山を無断で伐採する事件が頻発している。なかでも宮崎県は異常な有り様だ。その実態を探った記事をWedge7月号に執筆したが、書き切れなかった点を紹介しよう。

盗伐された山は、荒れ果てている。
盗伐された山は、荒れ果てている。

 ここでは被害者の証言に焦点を当てる。

■宮崎市在住の88歳の女性

 平成28年7月末、亡くなった夫名義の山林が知らぬ間に伐採されていることに気づいた。近隣に住む長男が、山でチェンソーのエンジン音が聞こえるので山に行ってみると、伐採が始まっていた。すぐに警察に届けたところ、3人の警官が来たものの、その場で示談を勧められた。無断で伐採されたのは4反の土地に生えていた約400本の杉だった。これは将来、家を建て直す際に使おうと若いころ夫婦で植えた木である。

 翌日、娘とともに警察署を訪れたら、話を聞くどころか署内にも入れてもらえず追い返された。そこで個人情報開示請求をしたところ、伐採届が「不存在」、つまり出されていないことがわかった。つまり無許可で伐採した森林法違反である。ところが検察は、平成31年4月に不起訴処分としている。

 伐採していたのは二つの林業会社(一方は宮崎商工会議所会員)。林業会社の片方は「現場を片づけ、及び植林を責任を持って行います」と誓約書に記したが、いまだに放置のままである。また切株に土砂をかけて伐採跡を隠蔽しようとした痕跡もある。なお主犯格は、以前に神社の神木を34本を無断で伐ったことが発覚している。その跡地に植林すると約束したが、こちらも放置されたままだ。

 なお長男には知的障害があり、人工透析も必要な身体である。そのため長男には連絡しないよう何度も伝えているが、警察は電話するだけでなく、母親に内密で長男を呼び出して「調書」をとったという。しかし母親には何の聞き取りもしていない。当然、被害者である母親の印鑑は押されていない。また警察は、伐採行為をしていた会社の捜査も行っていない。それなのに宮崎地方検察庁は、今年4月に不起訴とした。

地籍調査の標識杭があっても「誤伐」を主張する。
地籍調査の標識杭があっても「誤伐」を主張する。

■国富町(5人共有地)

 平成30年7月17日、国富町に山林所有者の宮崎市内在住の長男のところに、山林の仲介人(ブローカー)を自称する人物が、立木を売ってほしいと言ってきた。所有者は高齢の母だが、実質的に彼が山の管理をしていた。この山には樹齢50~60年もののよいスギの木が生えている。しかし、まだ伐る時期ではないとそれを断った。ところが、9月に入って「間違って伐ってしまった」という連絡が来た。

 そこで警察に連絡したが、その日は遅かったので翌日に現地を訪れることにした。すると「間違って伐った」と言っていたのに、まだ伐採が行われていた。すぐに作業を中止させるが、説明もせずに業者は重機を置いて帰ってしまった。伐られた本数は200本を超える。金額にして800万円相当。また、周辺の山(所有者は4人)の木も伐採されていた。

 そこで被害届を出そうとしたが、警察は受け取ろうとしない。そして伐採業者は「誤伐だ。伐る場所を間違った」の一点張り。しかし、この山は地籍調査が終わっていて、測量したコンクリート杭が約5m間隔に打たれている。しかも伐採跡を見ても、その杭をまたいで伐採しているのだ。その通路に当たる山林も勝手に伐っているし、非常にその土砂や切株が溜め池に流れ込んでいた。

 しかも、その後の調査で伐採届そのものが出されていないこともわかった。しかも、作業を止めたはずなのに、しばらくすると現場から伐採された木が消えていた。勝手に持ち出したと思われる。

 その後、示談交渉があり、賠償の話も行われたが、3人が和解。ただし支払われたのは1本1000円程度。和解しなかった山主には1本4000円(200本なら80万円)を提示してきたというが断った。

 その後、宮崎県を台風が襲い、大雨が降ってその山は崩壊した。一部の土砂は道路まで流れ出たほか、灌漑用水路も埋めてしまい、山麓の水田は耕作できない状態になっている。もし、和解していたら責任は所有者になりかねない。

追記・7月11日、後者の盗伐事案を首謀した黒木林産の社長黒木達也容疑者が森林法違反(森林窃盗)の疑いで、宮崎県県警生活環境課と高岡署に逮捕された。黒木容疑者は「身に覚えがない」と、容疑を否認しているという。同社は県造林素材生産事業協同組合連合会の「合法木材供給事業者」に認定されており、県からも補助金を受け取って重機類を購入していた。

逮捕された黒木林産の重機。補助金で購入したことが記されている。
逮捕された黒木林産の重機。補助金で購入したことが記されている。

……以上は、いずれも被害者側の声である。こうした経緯が実際にあったかどうか双方に言い分を確認したわけではない。しかし、同様のケースは数多い。宮崎県盗伐被害者の会には現在88家族が加入しているが、その大半が同じような経験をしたという。

 とくに目立つのは、警察の被害届不受理である。驚くのは業者も「警察は俺たちを逮捕しない」と豪語していることだ。なんらかの確信があるのだろう。ようやく被害届を受理させても、すぐに不起訴になる。その理由の説明もはっきりせず、検察審査会に申し立てても、なかなか受理しない。時効の3カ月前までに申し立てしろという不受理の理由もあったが、そうした規則はなかった。

 もう一つ不可思議なのは、多くの弁護士に相談しても引き受けてくれず、警察の言い分に追随してしまうのである。弁護士に話した情報が警察側に漏れている恐れもあったという。

 なお無断伐採現場に警官が来ることも少ないが、来ても「被害届は受け取りません」と最初から言われる有り様である。上司から言われているという証言もあった。

 一体、宮崎県の行政や司法はどうなっているのか。

 なお「Wedge7月号」には、宮崎県で盗伐が頻発している事情を業界関係者に聞くとともに、宮崎県および県警の対応・回答について記した。この記事は、ネットでも公開されている。こちらも合わせて目を通していただけると幸いである。

※文中写真は筆者および旬刊宮崎記者の撮影。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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