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「林業は成長産業」って、本当?

田中淳夫森林ジャーナリスト
林業現場の機械化も進んできたが、維持費はバカ高い。

このところマスコミでは、「林業は成長産業」「日本の山は宝の山」という声がよく登場する。

さまざまなメディアで扱われており、私のところにも某テレビ局から取材の申込みがあった。

主な扱い方は、日本の人工林は太り伐り時を迎えた、そして国産材の生産量が急増し木材自給率が高まった、林業現場では若い世代の就業が増えて機械化も進んだ、国産材が合板材料やバイオマス燃料として引っ張りだこで輸出も増えている、またCLT(直交集成板)やセルロースナノファイバーのような新しい木材の使い道も登場して、産業として前途洋々……といった具合だ。

で、私が知る範囲の現状を話すと、当初の出演依頼は消えてしまう(笑)。

イメージしていた「宝の山」が描けなくなるからだろう。それでも番組は作られるのだが。

ここで「林業は成長産業」論の根拠に対して一つ一つ突っ込むことは止めておく。ただ、いずれの記事・番組にも抜けている点を指摘しておきたい。

それは、「現在の林業で本当に儲かっていますか? 儲けはずっと続きますか?」である。

地域づくりでもよくあるのだが、地域活性化と名打って、多くの人が集まるイベントを開催することがある。そして何日間で何万人集まったから成功したと宣言する。が、会計を見れば赤字なのである。莫大な公的資金を投入したのに、経済効果はそれより小さかったりする。しかも一過性。手伝った地元の人々も疲れてぐったり。むしろ自治体の財政が悪化して衰退を加速しかねない。

また企業でも、売上高は伸びているのに破綻するケースがある。純益がほとんどない、いや赤字だからだ。大きな取引を次々と取っているから忙しいが、全然利益が出ないため現場は疲弊していくのである。

たとえば建築現場も宅配業も介護施設も保育園も……仕事量はある。過労死するほどある。が、そこで働く人々に仕事に見合う待遇はなくて離職しがちだ。そして人手不足に陥っている。

同じことが林業でも起きている。

合板やバイオマスや木材輸出、あるいはCLTやセルロースナノファイバーで山元は利益は出ている(将来出る)だろうか。従業員には十分な給与と待遇が与えられているだろうか。

今伸びている木材需要のほとんどは、素材の価格が安くて利益幅が小さいのだ。だから大量に伐採しなければ儲からない。すると資源は見る見るうちに枯渇する。林業が活性化しているという山に行くと、そこに広がるのは広大な皆伐地帯だ。何十ヘクタール、いや100ヘクタールを超えるはげ山が広がっているのだ。この調子で、10年後も林業は続けられるのか?

機械化が進んで楽になったというが、その林業用機械の価格はバカ高い。何千万円、ときに億を超える。また燃料費やメンテナンス費用も高くつく。稼働率を上げないと元が取れない。しかし肝心の伐る森林がなくなってきた。結局、最新のマシンを導入しても倉庫で眠らせている話も少なくない。

そして働く人々の事故率は異様に高い。全産業平均の10倍をはるかに超える。怪我をしても労災を適用しない話もよく聞く。それでいて収入はたいがい低い。昇給も有休もなかったりする。しかも未だに日給制が普通だ。

そして何十年と森づくりをしてきた山元も、利益を受け取っていない。50年育てたスギがダイコン1本の値段と同じ?という冗談が出る有り様だ。これでは、もう林業なんて止めた! となるのは当たり前だろう。だから伐採跡地の再造林も進まない。

見た目の林業は“活性化”しているのに、山村は衰退していく。木材自給率が上がるとともに、はげ山も増えていく。

これでも「林業は成長産業」か。“成長”したその先には、何が待っているだろうか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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