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韓国に先んじられた? 新たな森林利用法

田中淳夫森林ジャーナリスト
森の中の昼寝も、新たな森林利用になる?

何かと日本と韓国は比較されがちな存在だが、意外な点で韓国が先んじている分野を紹介しよう。

それは森林利用である。と言っても、木材生産などの林業やレクリエーション利用ではない。それはそれで論じるべき対象だが、今回取り上げたいのは、樹木葬と森林療法である。

まず樹木葬。遺骨を主に森林内に埋め、墓石の代わりに樹木を植える、もしくは樹木を墓標にする埋葬法だ。日本では岩手県一関市の知勝院が発祥とされているが、ここ十数年で全国各地で行われるようになった。

ただ、それらは寺院や民間業者など個別の動きであり、また法的にも十分に定められていない。そのため野放図な展開が行われている。

もともと里山などの保全や自然に包まれて埋葬されることを企図したものなのに、単に墓石の代わりに樹木を植えるだけ、あるいは樹木のない“樹木葬”まてある。墓地業者が、人気を呼びだした新たな埋葬方法を取り入れただけのケースも少なくない。

ところが韓国では、国上げて樹木葬を推進しているのだ。

もともと韓国には土葬の文化があり、先祖供養も儒教や風水の影響を受けて大がかりであった。そのため墓地面積も広がる一方だった。

1990年代に入ると墓地不足が問題となり、その一方で墓地開発による森林破壊が世情を賑やかした。当時の報道によると、墓地は国土面積の1%を占めるまでになり、さらに毎年850ヘクタールずつ増えていたのである。

そこで政府が「新葬墓政策」を打ち出し、葬事法も改正して墓面積の縮小と設置期間を有限化し始めた。また土葬から火葬への切り替えと、墳墓の設置を納骨堂へと変えるよう指導した。

ところが納骨堂の建設には地域住民の反対が強く、新たな埋葬場所として模索する中で登場したのが森の中に埋葬することだった。日本の樹木葬だけでなく、ドイツなど欧米で行われている自然葬がヒントだったと言われている。

この機運を受けて、2007年に葬事法を再び改正して自然葬制度が導入された。

そこでは樹木葬を「火葬した遺骨の骨粉を樹木・花草・芝などの下または周りに埋め葬事すること」と規定された。埋葬場所は山林だけでなく幅広く自然地を活用することを可能にしたのである。必ずしも樹木を求めていないが、やはり樹木のある場所が対象になりやすい。

具体的な埋葬は、地面より30センチ以上の深さの穴を掘り、遺骨を容器に入れる場合は生分解性材料のものに納めて埋めると規定されている。

樹木葬の場所は、樹木葬林と呼ばれる。2009年に山林庁が国有林内に1ヘクタールほどあるハヌル森追慕園を開設している。埋葬する場所の樹木(追慕木)は、樹齢30~40年の木を約6メートル間隔で選んだ。これはチョウセンゴヨウとクヌギで8割を占めるそうだ。

なお追慕木の使用期限は15年で、その後延長しても最長60年と定められている。墓地の拡大を防ぐためだろう。

森林療法は、日本で誕生した。森林浴として広まっていた森林散策を、医療や福祉の分野に活かす試みである。障害者施設やリハビリなどに取り入れるところも現れた。

森林散策を行うことで血圧やストレスホルモンの減少、免疫細胞の活性化などが確認されているほか、ノイローゼや鬱など精神面の回復に効果的とされている。

それらの研究を受けて、全国各地に森林セラピー基地の認定が進んだ。しかし国は関与していず、また地域おこしや観光的な側面が強い。「未病を扱う」と割り切り、森林散策を十分に医療・福祉に活かしているとは言い難い。

ところが、いつのまにか森林療法は韓国で取り入れられ、広まっているのだ。それも国が後押しして、積極的に医療に活かしているのである。

韓国の山林庁は、積極的に森林療法を取り入れて、実施する森林の設定やプログラムづくり、さらに専門的な人材の育成、関連法令整備までをまとめている。また大学にも森林療法指導者の育成機関を設けている。そして2017年までに、山林治癒サービスの恩恵者を、100万人へと拡大する計画だ。

実は韓国の山林庁の申元燮長官は、前職は忠北大学の山林治癒学科教授だった。そして校内暴力の加害者や被害者を対象に森林治癒プログラムを実施していたという。それが熱心な理由かもしれない。

何も韓国に負けるな! と競って、日本でも樹木葬や医療的な森林療法を普及させろというのではない。ただ、日本の場合は、各所で新たな試みはあるものの、それらを結んで全体を盛り上げる動きになっていない。むしろバラバラの試みが、お互いの足を引っ張り合っているかのように感じる。

最近では、樹木葬(自然葬)も森林療法関係の活動も、さまざまな団体が乱立して「流派争い」の様相さえ示している。もう少し建設的な取り組みにできないものか、と思ってしまうのである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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