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「関西イチの出世番組」さや香に替わるレギュラーが決定、『せやねん!』はなぜ売れっ子を生み出せるのか

田辺ユウキ芸能ライター
『せやねん!』のメインをつとめる、トミーズの雅(写真:ロイター/アフロ)

関西ローカルの情報バラエティ番組『せやねん!』(MBS)でレギュラーを5年間つとめていたお笑いコンビ、さや香が拠点を東京へ移すため3月23日放送回をもって同番組を卒業。さや香に替わる新レギュラーとして、ドーナツ・ピーナツが発表された。

関西圏以外のお笑いファン、バラエティ番組のファンにはなじみが薄いかもしれないが、トミーズがメインの番組『せやねん!』は若手芸人にとって「関西イチの出世番組」で知られている。2001年4月より放送が開始された同番組。過去のレギュラーの顔ぶれには、中川家、フットボールアワー、ブラックマヨネーズ、チュートリアルの4組の『M-1』チャンピオンも含まれている。さらに、千鳥、かまいたちという全国でも超売れっ子の2組も大阪時代、『せやねん!』のレギュラーとしてロケコーナーに挑むなどして腕を磨き上げた。

ほかにも、前述したさや香、アキナ、ミキ、和牛、からし蓮根、カベポスターなど『M-1』ファイナリストがずらり。また2023年に『第12回ytv漫才新人賞決定戦』『第44回ABCお笑いグランプリ』で優勝し、毎年のように『M-1』決勝進出候補に挙げられるダブルヒガシも現在出演中。ベテランのスマイルは約13年にわたって同番組に出演しており、“関西芸人”としての地盤を固めている。

「出世手形」を渡されたのはドーナツ・ピーナツ

『せやねん!』のレギュラーは「出世手形」と言っても良いほど。そんな同番組の新レギュラーに決まったドーナツ・ピーナツは、パーマのツッコミのドーナツ、童顔のボケのピーナツからなるコンビ。二人とも福岡県生まれで、NSC東京校卒業後、大阪へやって来るという異例の道を歩んだ。大御所の中田カウス(中田カウス・ボタン)に弟子入りし、コンビ名と芸名も師匠が命名。2023年には『第12回ytv漫才新人賞決定戦』で準優勝、『M-1グランプリ2023』も準決勝まで進出するなど着々と実力を伸ばしている。

ドーナツ・ピーナツの主な漫才スタイルは、ピーナツが物事を過剰に考えながらいろんな設定や役になりきり、ドーナツが北九州の訛り丸出しでイラだちをぶつけるようにツッコミをいれるもの。筆者が2023年にインタビューをおこなった際、ドーナツは自身のそんなツッコミのことを「魂のツッコミ」と言い表していた。特に絶品の漫才が、ピーナツが「犬を飼いたいから、その練習として自分が犬になりきる。そんな俺を飼ってくれ」とドーナツに頼むネタ。ピーナツの思想の奇妙さにドーナツが翻弄されながらも、そのヤバさを烈火のごとく指摘していく。

関西のお笑いの賞レースの決勝常連になったこの1、2年はおもしろさが飛躍し、2024年の『第13回ytv漫才新人賞決定戦』の予選会にあたる「事前ROUND2」(2023年11月5日に読売テレビにて放送)では、審査員の久保田かずのぶ(とろサーモン)が「(漫才として)完成しました」と唸ったほど。

そんな同コンビとあって、将来の有望株が抜てきされる『せやねん!』の新レギュラーになったのもうなずける。

トミーズの雅が笑えば全国で通用する

それにしても『せやねん!』はなぜ出世番組となったのか。そのヒントの一つが、3月23日放送回でさや香に投げかけられた、トミーズの雅の言葉である。

雅は、レギュラー当初はさや香におもしろさを感じなかったため「マジな話、さや香を切ってくれまで言うて」と、レギュラー落ち寸前だったことを明かした。さや香の石井、新山も「(おもしろくなかったと)言われますから」「だいぶ、いろいろありました」と返すと、雅は「ようおもろなった。これが力となって東京で暴れてな」と放送回を重ねるごとにおもしろさが増していったという。

さや香はこの5年、雅からのプレッシャーをきっと強く感じていたはず。ただ、厳しい目を向けられるのは期待の裏返し。それに応えようとしたさや香のロケのVTRは、視聴者であるこちら側にもおもしろさの熱が伝わるものになっていった。

筆者が2023年にインタビューをおこなったフースーヤも、『せやねん!』のロケに出演する際、やはりVTRを見ている雅の反応が気になると話していた。おもしろさをしっかり見極められるため、ウケてくれているところを見ると大きな自信につながると語っていた。

長年、漫才師として第一線で活躍し、おもしろい、おもしろくないを遠慮なく、そしてシビアに口にする雅。その反応は、若手芸人たちにとって自分たちの現在の実力を知る大きな判断材料になるのかもしれない。つまり、雅が笑えば全国にも通用するのだ。

いろんな人の感覚に寄り添う番組の特性、そこで芸人が意識すること

筆者は、かつて『せやねん!』のプロデューサーを担当していた村田元氏にインタビューした際、同氏は「そもそも自分は『こうすれば、この層にウケる』みたいなやり方がよく分からなくて、『おもしろかったら、どの世代でもウケるんちゃうかな』というやり方なんです。みんながおもしろがる『なにか』をいつも探して番組を作ってきました」と、自身の考えを話してくれた。

毎週土曜日の朝9時25分から昼12時54分まで放送(二部制)されるという特性上、いろんな人が楽しめる番組内容でなくてはならない。村田元氏の「普通に暮らしている人の感覚にちょっと寄り添えるものに興味があるんだと思います。それが、世代とかいろんなことを超えておもしろさにつながっていくのかなと」という感覚はおそらく現在の同番組制作者にも根付いている。また出演する若手芸人たちも、『せやねん!』では、凝り固まったお笑いのやり方ではなく、幅広い視点かつ原初的なおもしろさを意識するのではないか。それが「全国に通用するおもしろさ」へとつながっているのだと思われる。

『せやねん!』が関西トップの出世番組である理由は、雅が確かな目を光らせていること、そして広い視野を持った笑いが求められるところだ。そういった点も含め、ドーナツ・ピーナツが同番組でどんな結果を残すのか楽しみが膨らむ。

※記事初出時に人名表記に誤りがありました、訂正の上お詫び申し上げます。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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