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『R-1GP 2024』優勝・街裏ぴんく、関係者が語る「二つの追い風」と激しい芸風に潜む意外な性格

田辺ユウキ芸能ライター
写真:『街裏ぴんくのラジオ漫談ショー!』(ABCラジオ)より

ピン芸人のナンバーワンを決める『R-1グランプリ2024』(カンテレ・フジテレビ系)が3月9日に開催され、芸歴20年目の街裏ぴんくが22代目王者に輝いた。

街裏ぴんくはファーストステージで、ダイエットのために通っている温水プールで石川啄木や正岡子規ら歴史上の偉人と出会ったエピソードを、マイク一本の漫談で披露。合計471点で2位通過を果たすと、ファイナルステージでは同じく漫談で、自分はかつてモーニング娘。の初期メンバーだったことや同グループの裏話を明かすネタで優勝をもぎとった。

審査員・小籔千豊「どんなトラウマを受けたら、こういう芸風に」

ファーストステージ、ファイナルステージのネタの内容はもちろん大ウソである。そうだと分かっていても、とにかく虚言を重ねに重ね、さらに強烈な熱量を放ちながら勢いよく喋りまくることで、妙な信ぴょう性を生んでいくのが街裏ぴんくのおもしろさだ。

司会者の広瀬アリスも「本当に事実のように聞こえてきちゃって、受け入れちゃいました」とコメント。審査員の陣内智則は「大嘘つき。でも石川啄木とやりあっているのが想像できた」と画が浮かんだという。同じく審査員の小籔千豊は、インパクトのある漫談を目にして「お笑いのどんなトラウマを受けたら、こういう芸風になるのか」と驚きの声をあげていた。

178センチ110キロとも言われる巨体から繰り出される、息つく間もない喋りは迫力満点。そしてネタ終わりの平場では、審査員のハリウッドザコシショウと罵り合って笑いを集めた。とにかく街裏ぴんくの「激しさ」が目立った。

激しい芸風からは想像できない優しい素顔「控えめな性格で偉ぶるところもない」

「激しさ」がきわ立つ街裏ぴんくのキャラクター。だが「実は繊細で優しい男なんです」と素顔を口にするのは、大阪の朝日放送ラジオ(ABCラジオ)でプロデューサーをつとめている上ノ薗公秀さんだ。

上ノ薗公秀さんは、かつて大阪を拠点としていた街裏ぴんくに早くから注目。関西のメディア関係者としては唯一と言って良いほど、激奨し続けてきた。その芸に惚れ込むあまり、街裏ぴんくのラジオ特番『街裏ぴんくのラジオ漫談ショー!』(2021年/ABCラジオ)などを制作したり、ライブイベントで共演したりするなどした。ちなみに街裏ぴんくが優勝を決めた瞬間、上ノ薗公秀さんのもとには、そんな事情を知っているミルクボーイの内海崇から祝福の連絡もあったという。

舞台上では堂々と大ボラを吹きまくる街裏ぴんくだが、上ノ薗公秀さんは「控えめな性格で偉ぶるところもない。大阪のインディーズで活動していた時代の仲間をとにかく大事にしている。なにより繊細だから、今回の『R-1』でもあれだけウケていてもずっと不安があったのではないでしょうか」と読み解く。

芸歴制限撤廃が優勝の追い風に

ただ、そんな街裏ぴんくには大会前から追い風が吹いていた。

まず一つは、出場資格の芸歴制限が撤廃されたこと。『R-1グランプリ』は2021年大会から2023年大会まで「芸歴10年目以内(アマチュアは参加10回目以内)」という縛りが設けられていた(2020年大会までは芸歴制限なし)。

しかし今大会から芸歴制限が撤廃。若手からベテランまで参加できるようになり、エントリー数も史上最多の5457人となった。2019年大会で準決勝進出経験を持つ芸歴20年目の街裏ぴんくも、再び『R-1』にチャレンジすることができた。

上ノ薗公秀さんは「芸歴制限撤廃は、気持ち的に燃えたでしょうね。それが今回のネタにもあらわれていたように感じました」と、パフォーマンスに凄みがあったと語る。続けて「お笑い芸人を諦めなくて本当に良かった。『R-1』に芸歴制限が設けられたときは、落ち込んだり、目標を見失ったりしたと思うんです。それでも私は、街裏ぴんくはライブ芸人として十分やっていけると考えていました。だけど芸人をやっている以上、やっぱり売れたいだろうし、テレビにも出たいはず。だからこそ彼は、今回の『R-1』は特に力が入っていたんじゃないでしょうか」と心情を慮った。

長尺でこそ持ち味が発揮される喋り「よくネタを4分にまとめた」

二つ目の追い風は、ネタ時間が3分から4分へ延びたこと。司会のせいや(霜降り明星)も番組序盤、1分伸びることの難しさを話していたが、街裏ぴんくにとっては大きなプラスだったのではないか。

というのも街裏ぴんくは、長尺の喋りを得意とする芸人だからだ。1分でも長い方が、街裏ぴんくのネタは味わいが増す。上ノ薗公秀さんは「街裏ぴんくには短い尺のネタもあるけど、いずれもライブ用に仕立てているので基本的にはどれも長め。だから今回のネタ2本については『よく4分にまとめたな』と感心しました。3、4分のネタと、8、10分のネタでは使う“筋肉”も違うでしょうから。そういう意味でも『ようやったな』と」と称賛する。街裏ぴんくにとっては4分でも時間が足りなかったはず。それでも従来の3分より、4分の方がはるかにメリットは大きかったのではないか。

上ノ薗公秀さんは、『R-1グランプリ2024』のファイナリストが発表される前から、街裏ぴんくの新たな特番を企画していた。そして「決勝進出者が発表されたタイミングで企画が通ったんです」と苦笑いする。その特番は4月7日、14日にABCラジオで放送予定だ。

「決勝戦当日の昼頃、街裏ぴんくにLINEで『ぴんく色に染めろ』と送ったら、本人から『染めます!』と返信があったんです。そして番組を見始めたら、アバンタイトルでも『ぴんく色に染めろ』と出ていて(笑)。でもその言葉通りになりましたね。これからきっといろんな人が周りに寄ってくるだろうけど、みんなちゃんと、おもしろいと思って寄り付くはず。だからチャンピオンらしく胸を張って、自信を持って活動してほしいです」とエールを送った。

街裏ぴんくの口から出るのはウソばかり。しかし優勝したときに彼が叫んだ「『R-1』には夢がある」は、つい出てしまった本音だろう。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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