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『M-1グランプリ2023』王者・令和ロマンの圧倒的な「スター性」と「主人公感」の正体

田辺ユウキ芸能ライター
(C)M-1グランプリ事務局

漫才のナンバーワンを決める『M-1グランプリ2023』が12月24日に開催され、結成5年目の令和ロマンが第19代王者に輝いた。

ファーストラウンドで1番手に選ばれた令和ロマンは、遅刻寸前でパンをくわえて走る女子学生が、男子学生と道の角でぶつかり、その彼が転校生だという少女漫画にありがちなシチュエーションのネタを披露。女子学生、男子学生の走る方向の違いから「学校はどこにあるのか」をいろいろ推察して笑わせ、648点をマーク。3位でファーストラウンドを突破すると、最終決戦でもトップバッターで登場し、車作りに挑戦するクッキー工場の人々の姿を描いたドラマのネタで優勝を飾った。

高比良くるまに対して、中川家の礼二「なんとも言えない才能」

令和ロマンは、ネタのおもしろさだけではなく「スター性」も抜群にあった。

ファーストラウンドの登場時のせり上がりでは、高比良くるまはステージ側に体を向けず右側に向かって指差しながら怒鳴っている素振りを見せるなど、「なにかしでかしそうな雰囲気」を醸し出していた。ツカミ前からすでにツカんでいた。さらにツカミでは、いつものように相方の松井ケムリの体や顔をベタベタと触りながら、「(松井ケムリは)なぜもみあげと髭をつなげているのかと言うと、顔の内側を日本から独立させようとしているから」と誰も思い付かないような発想力で、さらに『M-1』の空気を手繰り寄せた。このときから、喋り方、仕草、表情、すべてにおいて人々を虜にしていくカリスマ的な雰囲気が流れていた。

審査員の礼二(中川家)が令和ロマンのボケ担当・高比良くるまについて「ボケの度胸。すぐに空気を、自分の空気にしてしまうなんとも言えない才能」と評価すれば、塙宣之も「自分の空気感にすぐ(持っていける)。ツカミと、脱線と、暴走と全部うまいこと入ったなって」と引き込まれたと話した。「空気を持っていくことができる」という評価は、スターが持つ要素そのものではないだろうか。

「空気を持っていくのがうまい」という点では、優勝発表時の審査員長・松本人志のコメントも象徴的だった。『M-1』では、本来であればファーストラウンドを勝ち抜くために一番自信がある強いネタをそこにぶつけ、その次におもしろいネタを最終決戦に持ってくるのが定石。しかし令和ロマンはファーストラウンドを上回るネタを最終決戦へ持ってきた。そういった大胆な采配も、その場の空気を引き寄せることができた要因ではないか。

あとヤーレンズの審査のとき、礼二は同コンビの楢原真樹について「くるまくんと一緒で、すごい雰囲気を持っている」と高比良くるまを引き合いに出した。礼二のこの言葉は的確なものであった。なぜならそれは、視聴者らも同じように令和ロマンがトップバッターで放った強烈な存在感にどこかずっと引きずられながら、その後のコンビのネタを見続けていたからだ。ここでの礼二のコメントで、令和ロマンの「トップバッターでの最終決戦進出」をより現実的に感じられた視聴者は多かったのではないだろうか。

それらを含めて考えると、今回の『M-1』における令和ロマンには圧倒的な「主人公感」があった。それが2001年大会の中川家以来となるファーストラウンド1番手からの優勝、そして2003年大会のフットボールアワーに次いで2番目の若さの結成年数(5年目/2018年大会の霜降り明星とタイ)での優勝につながったのではないか。

なにより番組終了間際に高比良くるまが口にした「来年も出ます」は、「スター性」「主人公感」のすべてをあらわしていた。

「師匠の風格」と称された松井ケムリ、見た目の意識も高い高比良くるま

今回の『M-1』では高比良くるまの佇まいが注目されたが、しかし準優勝を飾った2023年7月開催『第44回ABCお笑いグランプリ』では、ツッコミの松井ケムリについて、同大会審査員のリンゴ(ハイヒール)が「師匠の風格」とその堂々としたパフォーマンスを絶賛していた。

たしかに、とにかく自由自在にボケているように見え、さらにその一挙手一投足で観る者を魅了する高比良くるまを、余裕のあるツッコミで柔軟に受け止めていく松井ケムリは「師匠感」たっぷり。「このボケにして、このツッコミ」と思えるような、二人でないと成立しないものが漂っている。

余談だが、高比良くるまは2023年9月15日更新のYouTubeチャンネル『売れたら垢抜けるってホント?』のなかで、『M-1』の決勝戦に向けて、美容皮膚科クリニックを訪れて肌診断をしてもらい、顎にヒアルロン酸を注入する様子を公開。笑わせるだけではなく、自分が周りからどのように見られるかなど、さまざまな意識を高く持っている点もスターの要素を感じさせる。

ヤーレンズ・楢原真樹、さや香・新山にも流れていたそれぞれの「スター性」

令和ロマンの「スター性」には目を見張るものがあった。一方、同じく最終決戦を争ったヤーレンズの楢原真樹、さや香の新山もそれぞれものすごい存在感を放っていた。

楢原真樹はファーストラウンド、最終決戦ともにウザいキャラクターになりきって爆笑を集めた。ファーストラウンドでは審査員が口々に「ずっとおもしろかった」と語ったほど。博多大吉は「センスが光っている」と称賛した。最終決戦のさや香は、山田邦子から「最後のネタは全然良くなかった」と酷評されたが、しかし不可解な計算式について4分間とにかく喋りまくって目を引きつけていく新山は、スターの資質がないとできないパフォーマンスだった。

令和ロマンの優勝で幕を閉じた、2023年の『M-1』。ただ大会全体の特徴として、芸人たちの「スター性のぶつかり合い」が印象的だった。

※高比良くるまの「高」の正式表記は「はしごだか」

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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