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『27時間テレビ』の100キロマラソンは「本家」への皮肉だったのか、見落とされている企画内容の違い

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

7月22日から23日にかけて放送された特番『FNS 27時間テレビ』(フジテレビ系)の目玉企画「100キロサバイバルマラソン」の結果が波紋を呼んでいる。

同企画は、「100キロの道のりを、必要以上に休憩時間を取らずに走った場合、いったいいつゴールできるのか?」を有名人ランナーが検証する内容で、1着には賞金1千万円が贈られるというもの。ランナーは先導車を追いかける形で走るが、引き離されて「鬼」に追い越されると脱落となる。また終盤は先導車が外れて、ランナーが自分のペースで走った。

22日18時30分頃にスタートし、翌日11時30分にハリー杉山が1着でゴール。続いて、ワタリ119、大倉士門、井上咲楽、団長安田(安田大サーカス)、山本賢太(フジテレビアナウンサー)が完走。その熱い走りが感動を集めた。

『27時間テレビ』のマラソン企画の結果から、「本家」に対して「茶番」の批判も

一方でSNSなどでは『24時間テレビ「愛は地球を救う」』(日本テレビ系)のマラソン企画と比較する声も多数あがった。こちらはチャリティランナーが24時間かけて、「100キロ」など課せられた距離を走るというもの。

ただ『27時間テレビ』で16、17時間くらいで走り切るランナーが続出したことにより、『24時間テレビ』のマラソン企画に対して「茶番」「闇が暴かれた」といった批判的な意見が飛んだ。また「『27時間テレビ』のマラソン企画は『24時間テレビ』への痛烈な皮肉になった」とする声も見られた。

確かに『24時間テレビ』は、番組のフィナーレに合わせてチャリティランナーが駆け込んでくるのが定番。「感動の押し売り」と呼ばれるクサい演出感は否めない。ただ重要なのは、『27時間テレビ』のマラソン企画のシステムに向いているランナーもいれば、『24時間テレビ』のやり方に合ったランナーもいるという点。筆者も陸上競技経験があるが、結局は走者の性質によるところが大きいのだ。

『24時間テレビ』の「走り切らなければ番組が成立しない」というプレッシャー

『27時間テレビ』は放送時間内の「完走」が義務付けられているわけではなかった。また、先導車から引き離されて「鬼」に追い抜かれたら脱落というルールも設けられるなど「終わり」が分かりやすく示されている。全員脱落の可能性もあり、そうなっても趣旨的に番組は成立する。「走る」という部分ではどちらかというと自由度は高く、「鬼」に抜かれさえしなければある程度、自分のペースで走ることもできた。そしてこれらの設定は従来のマラソン大会のルールに近い。

なにより、大金がかかっていることもあって、他のランナーに対する競争心から足が動くこともある。さらに番組サイト『フジテレビュー』の「100キロサバイバルマラソン」の紹介記事には、参加するのは「脚力自慢の有名人ランナー」と明記されている。つまりある程度、走ることに慣れたランナーたちばかりなのだ。そういったランナーにとっては、マラソン大会に近い『27時間テレビ』のシステムはぴったりだろう(もちろんそれでも過酷であることには違いない)。

一方『24時間テレビ』は番組の特性上、「24時間かけて走り切る」ということに重点が置かれる。時間をフルに使うことの利点は、ペース配分がしやすいところだ。「これくらいの時間をかけてこれだけの距離を走り、きっちり休憩をはさむことができれば完走できる」とプランを立てることで、ランナーの身体にかかる負担をいろいろ考慮できる。ランナー的にも時間と距離の目安ができて、走りやすくなる。

それでも「24時間で必ず走り切らなければならない」と枠組みが決められることで、精神的には追い詰められる気分になるはず。そのプレッシャーは計り知れない。『27時間テレビ』が証明したように本来の実力や、練習でやってきた成果を発揮できれば走り切れる距離・時間だったとしても、「24時間以内にリタイアせず必ず走破しなければ番組が成立しない」との圧がかかることで、いつも通りのパフォーマンスができなくなる可能性も多々ある。それは有名人による100キロマラソンの企画に限らず、どんな仕事・役割・場面でも同じではないだろうか。

そもそも『24時間テレビ』は、参加するランナーのことを決して「脚力自慢」とはうたっていない(番組開始当初のランナーである間寛平などは別だが)。走ることに慣れていないランナーであれば余計に、24時間をフルに使うこと、じっくり練習期間を設けることなどが最善だ。あと、同番組は早くゴールすることが目的でもない。

視聴者も「24時間で100キロを走る」という企画に慣れすぎて、そもそもそのキツさが軽く映ってきているようにも思える。だからこそ「茶番」「闇が暴かれた」という感想が出てくるのではないか。前述したように、番組のフィナーレにあわせてゴールするのは「感動の押し売り演出」なのかもしれない。それであっても走る側は過酷なのだ。

『27時間テレビ』『24時間テレビ』のマラソン企画は「どちらもすごい」

あと、『27時間テレビ』の「100キロサバイバルマラソン」を担当した倉田大誠アナウンサーによる「大型生放送のフィナーレに(100キロマラソンのランナーが)ゴールしてしまいますと、マラソンをがんばった人の感動と、(長時間番組を)やりきったMCの方々の感動がごっちゃになってしまうと思います」との発言もクローズアップされている。

確かに皮肉っぽい言い回しに聞こえた。しかしそうではなく、倉田大誠アナウンサーは『27時間テレビ』『24時間テレビ』ともに「すべての人のがんばりをリスペクトしよう」ということを伝えようとしたのではないか。『24時間テレビ』に対して「演出が過ぎる」「茶番だ」といった角度のコメントではないだろう。

『27時間テレビ』と『24時間テレビ』はマラソン企画という部分では同じだが、システムも含めて違ったものである。大切なのは、番組のやり方や方針に対して視聴者的に好き嫌いはあったとしても、走ることに関しては「どちらもすごい」という点。今回の『27時間テレビ』の結果をアンチテーゼとして捉えたり、茶番としたりするのは疑問である。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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