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『THE SECOND』の見事な独自システムと演出、賛否両論「紙出し漫才」の結果も観客審査の醍醐味に

田辺ユウキ芸能ライター
(提供:アフロ)

全国ネットの漫才賞レース番組での優勝経験者をのぞく、芸歴16年目以上のお笑い芸人を対象とした漫才の賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』(フジテレビ系)。その第1回大会が5月20日に開催され、結成19年目のギャロップが王者に輝いた。

中堅からベテランまで133組がエントリーした同大会は、2月の選考会で32組が勝ち残り、3月にタイマンの対戦形式「ノックアウトステージ32→16」で激突。さらにグランプリファイルとなるトーナメント進出者を決める「ノックアウトステージ16→8」が4月におこなわれ、金属バット、マシンガンズ、スピードワゴン、三四郎、ギャロップ、テンダラー、超新塾、囲碁将棋の8組にまで絞られた。

この8組が争った2023年の『THE SECOND』。初開催となった今回は「完璧な大会」と言っても良かったのではないだろうか。

1対1だからこそ高まったドラマ性、ギャロップ・毛利は1回戦から涙

「ノックアウトステージ32→16」「ノックアウトステージ16→8」同様、グランプリファイルのトーナメントも、1回戦から決勝戦まで1対1の対戦形式が続いた。これは『M-1グランプリ』など現在の大型賞レースとは異なるシステムだ。ただ、戦う相手がはっきり分かるからこそ一つひとつのバトルのドラマ性も高まった。

象徴的だったのは、トーナメント1回戦のギャロップ対テンダラー。両コンビは同じ大阪の吉本に所属し、なんばグランド花月などで長年共演。そんな「関西ダービー」に勝利した後輩のギャロップ・毛利大亮は、先輩のテンダラー・白川悟実について「世話になっているから」と涙を流した。それを受けて白川悟実も感極まる表情を浮かべた。また同じく1回戦で囲碁将棋に敗れた超新塾は、自分たちの思いを託すように「囲碁将棋がやってきたことは正しい」と口にし、「正」の人文字を作った。それを見て文田大介は「泣きそう」とこぼした。

いずれの勝者も、「負けた相手の分まで」というトーナメント戦ならではの「背負う気持ち」が芽生えたのではないか。そういった「ストーリー」の数々に胸が熱くなった観客、視聴者は多かったはず。1対1の戦いだからこそ生まれる、『THE SECOND』独自のドラマがあった。

漫才中の芸人を必ず映すカメラワーク、スマートな演出が大会成功につながった

カメラワークも実に見事だった。ネタ中はほとんど、舞台上の芸人の姿を画面から外さなかった。マシンガンズや三四郎らがネタ中に今大会のアンバサダーを担当した松本人志(ダウンタウン)について触れた際はその反応を追いかけたが、そういったカメラワークはほんの一部。あとは必ず、芸人が漫才をしている姿を撮っていた。

たとえば『M-1』では、司会者の今田耕司と上戸彩、そして松本人志ら審査員がウケている様子も放送される。それもまたバラエティ番組としてのひとつの演出である。ただ『THE SECOND』は、実直なまでに芸人の漫才をとらえることを優先した。松本人志や観客らがウケているところもあくまで、漫才中の芸人の背景。その様子は遠目でしか確認できない撮り方だった。ただそうすることで、視聴者的には変なバイアスがかからない。余すことなく漫才を楽しむことができた。

お笑いの賞レースには欠かせないオープニングなどの煽りのVTRに関しては、泣かせにかかったり、興奮度合いを上げたりするところはあった。それでも、番組が始まってすぐに本戦へ入っていくなどスピーディーな番組進行になっていた。『M-1』などの焦らしながら盛り上げていく方法ももちろん楽しい。それでも『THE SECOND』のスマートさには惚れぼれさせられた。

カメラワークなどの演出面から感じたのは、「極力、漫才以外の情報を入れない」という出場芸人たちとネタへのリスペクトである。そういうシンプルかつスマートな考え方が、今回の『THE SECOND』の成功につながった。

あと、テレビの放送時間が4時間10分という長丁場でありながら一切、慌てた様子をうかがわせなかったのも驚異的。むしろ、三四郎が1回戦、準決勝でネタ時間を巻き気味で終えていったことから「余り気味」だったという。

マシンガンズの「紙出し漫才」に賛否、松本人志も「プロの審査員ならどうかな」

アンバサダーの松本人志の立ち位置も絶賛したくなるものだった。なぜ彼は「ご意見番」にならず、一歩引いた目線を貫いていたのか。それは「会場にいる100人の観客が審査する」という『THE SECOND』独自の勝敗の決め方が影響していたはず。

観客による審査・採点は、対戦した2組のネタ終了直後におこなわれた。審査結果が出るまで松本人志は具体的な感想などを口にしなかった。それは東野幸治ら司会者も同様。たしかに、審査前に少しでも偏った意見を言ってしまったら、観客の心理に「揺れ」が生じる可能性がある。松本人志らは自分の影響力を理解し、自らを徹底的に抑え込んだ。しかも、審査結果が発表されてからも後々の戦いに響くようなコメントは述べなかった。非常に丁寧に自分の役割を全うしていたのだ。

この観客審査によって勝敗が決まるシステムは、『THE SECOND』で一番の醍醐味だった。

今大会で唯一、松本人志がはっきり講評したのが準決勝のマシンガンズのネタだ。ネットに自分たちの悪口が書かれているとして、それをプリントアウトした紙を持ち出し、悪口内容を読みながら漫才をした(ただ、もしかするとその紙は白紙だったかもしれない)。この「紙出し漫才」の披露後、SNSでは「小道具を出すのはどうかと思う」「別に良いんじゃないか」など賛否の声が相次いだ。松本人志もそれまで各組のネタにそこまで口を出さなかったが、マシンガンズが漫才途中に紙を出したことについては「プロの審査員ならどうかな」と違和感を語った。さらにマシンガンズの勝利が決まると、「そうかな」「もうひと笑いほしかった」と“審査”した。

たとえばサンドウィッチマンにも、「花嫁からの手紙」という紙を使った漫才ネタがある。ただそうであっても、「紙出し漫才」はプロ的には邪道なのかもしれない。ところがマシンガンズは三四郎を下した。この結果は、「プロの審査員」ではなく「観客審査」という、『THE SECOND』の特徴がもっとも働いた瞬間だった。

ちなみに放送中は、審査をした観客たちに「なぜその点数をつけたのか」と講評を求める場面が毎回あった。こういった場合、持論を語りまくるなど面倒くさめな観客が一人はいたりするもの。ただ今大会に限ってはそれがまったくなかった。これは偶然なのか、それとも番組が細心の注意を払ってきっちり人選していたのか。なんにせよ“事故”がなかった点も番組制作・運営として完璧だった。

ギャロップとマシンガンズ、決勝戦での6分の使い方

最後に「6分以内」という各組のネタ時間も書いておかなければならない。その妙味が特に光ったのが、マシンガンズとギャロップによる決勝戦。

1回戦、準決勝ですべてを出し尽くして「勝負するネタがない」というマシンガンズは、スタミナ切れを起こしたように一杯いっぱいになり、「(時間を)引き延ばしている」「イオンに営業へ来てるんじゃねぇんだから」と自虐しながら、それでもネタとアドリブを混ぜ込んで喋り続けた。その切り抜け方も経験豊富な漫才師らしさのひとつ。なにより6分のネタ時間だからこそ味わえる「生身」だった。

一方でギャロップは1回戦から決勝まで「作品」を見せ続けた。勝負ネタを3本きっちり揃えてきたところが、ベテランコンビの力である。しかも決勝戦で披露したネタは、6分間のほとんどをフリに使ったもの。フランス料理をテーマにしたそのネタの中盤から、林健はフランス料理店の師弟関係などについてひたすら喋りまくった。誰の頭にもまったく入ってこない内容だ。毛利大亮ですらツッコミが入れられないほど。しかも林健の喋りには笑いどころや着地点が見当たらない。ところがラストで急展開。序盤に出た「フランス料理はパンが一番美味しい」というワードを、最後の最後で伏線回収してみせた。6分というテレビの賞レースとしては長めなネタ時間をギリギリまで使っての一発大勝負。タメにタメて爆発的な笑いを巻き起こし、「セカンドチャンス」をもぎとった。

バラエティ番組として、そして賞レースとして考え抜かれた演出とシステム。早くも次大会への期待が高まる、1回目の『THE SECOND』だった。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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