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『ドラフトコント』で野田クリスタルが放った「ギャグ芸人論争」、鋭い批評性で伝えたギャグ依存の危うさ

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

11月19日、バラエティ特番『ドラフトコント2022』(フジテレビ系)が放送された。2021年につづいて2回目となった同番組。5人の芸人がキャプテンをつとめ、20人の候補芸人のなかから「一緒にコントがしたい」と思った4人をドラフト形式で指名。そしてドラフト終了後、1か月のあいだに台本制作、稽古などをおこない、観客の前で披露するというものだ。

優勝したのは、キャプテンの小籔千豊が、和田まんじゅう(ネルソンズ)、原田泰雅(ビスケットブラザーズ)、秋山寛貴(ハナコ)、イワクラ(蛙亭)を引き入れた、チーム小籔。息子が生まれたばかりの夫妻の前に、未来から成長した我が子とその友人がやって来る物語で、その展開のおもしろさが目を引いた。

野田クリスタルがネタ考案、春日俊彰らが持ちギャグを応酬

5組のなかで、「問題作」とSNSをざわつかせるほど、笑いのなかに強烈なメッセージ性を込めたチームがあった。春日俊彰(オードリー)が率いたチーム春日だ。

2021年も『ドラフトコント』に出演し、ドラフトで指名した水川かたまり(空気階段)にネタを書かせて優勝をつかんだ春日俊彰。今回も自身はドラフトの指名役に専念。斉藤慎二(ジャングルポケット)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、ナダル(コロコロチキチキペッパーズ)、松尾駿(チョコレートプラネット)を獲得し、ネタは野田クリスタルに丸投げした。

ただ結果的には、春日俊彰のドラフト指名と野田クリスタルが書いたコント台本が奇跡的に噛み合った。

野田クリスタルが作ったネタは、商店街のロケにやってきた春日俊彰、斉藤慎二、ナダル、松尾駿が、それぞれ持ちギャグばかりコメントするというもの。番組スタッフ役の野田クリスタルは、各自の持ちギャグだけを書いたカンペを次々とめくっていく。それをチラチラと見ながら、春日俊彰が「トゥース」、斉藤慎二が「ハーイ」、ナダルが「いっちゃってる」、松尾駿が「どんだけー」を応酬させていく(ちなみに松尾駿は厳密には、持ちギャグではなくIKKOのモノマネ)。

持ちギャグへの依存、カンペ頼り…「ギャグ芸人」の姿をコントに

マヂカルラブリーが『M-1グランプリ2020』で優勝した際は、そのネタをめぐり、漫才か、漫才ではないかという「漫才論争」の渦中に立たされた。今回も稽古時、野田クリスタルが書いた台本を読んだ松尾駿が「コントなのか?問題」と話し、論争必至であることをにおわせた。

野田クリスタルが書いたコントの台本は「コント論争」ではなく、「ギャグ芸人論争」「ロケ番組論争」と言えるほど刺激的なコントであり、彼の天才性が光っていた。

劇中の春日俊彰、斉藤慎二、ナダル、松尾駿は、カンペの指示に従うままに持ちギャグだけを連発させる。4人はその奇妙なやりとりに疑いを持つ気配は一切ない。このコント台本のすごさはまず、中盤に「フリートーク」をお願いするカンペが出されるところだ。そこで4人は気の利いたコメントをまったく口にすることができず、まごついてしまう。見兼ねたスタッフは結局、カンペを戻して、ふたたび持ちギャグだけを連発させる。そのほかスタッフがカンペ出しに手間取っているときも、ギャグ芸人たちはなす術がない状況に。もはや思考停止状態である。

そのストーリー展開は、持ちギャグに依存しすぎてしまい、スタッフのカンペにも頼りがちになるギャグ芸人への、野田クリスタルなりの痛烈な皮肉が込められていたように感じた。

終盤では番組スタッフ役の野田クリスタルがサングラスをかけ、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のテーマ曲を流す演出に。ストーリーテラーに変身した野田クリスタルは、そこでこのように語る。

「ギャグ、それは芸人を縛りつける呪いなのかもしれません。もしも、あなたの好きな芸人が同じことしか言わなくなったら気をつけてください。ギャグ芸人の扉を開けているのかもしれません」

野田クリスタル「お前らのロケってこういうこと。説教なんです」

コントを終えた野田クリスタルは「4人を見て普段から思ってたんです。『こういうことだぞ』と。お前らのロケってこういうことだからなって」とあらためて意図を説明。司会者の今田耕司から「一石を投じたかった?」と尋ねられると、「説教なんです」と強い口調で手に持つカンペを押し出した。

振り返れば野田クリスタルは稽古時、4人には「(コントの台本の台詞は)覚えなくて良い」と告げた。その指示もまた、ギャグ頼みでロケにやってくる芸人への皮肉になっていたのかもしれない。実際、この稽古にはキャプテンの春日俊彰が仕事を理由に欠席。それでも本番では自分の役割を全うできた。その点でも、野田クリスタルが考えていたことが証明されたのではないか。

同コントはまさに、野田クリスタルがギャグ芸の危険性や依存性を批評的に鋭く伝えたものだった。

お祭りのようなコント番組に深い意味を投げ込んだ野田クリスタル

写真:つのだよしお/アフロ

野田クリスタルのすごさは、彼自身がコントの方向性を考えた上でドラフト指名に参加したわけではなく、後日、自軍の顔ぶれを見てこのネタを思いついたところである。

キャプテンの春日俊彰は、自分を含めてそれぞれに代表的な持ちギャグがあることを見越してドラフトしたわけではなさそうだ。視聴者も、なんとなく分かってはいるものの、そこまで各芸人の持ちギャグについて気に留めていなかったはず。そこにセンサーが反応してネタにおとしこんだ点は、まさに野田クリスタルの才気である。

ある意味でお祭りのようなコント番組のなか、ギャグ芸人やロケ番組に対する深い意味を投げ込んできた野田クリスタル。あらためて末恐ろしい芸人であると感じさせた。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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