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ランジャタイの笑いに地上波はどこまで耐えられるのか、ゴイゴイスーと冠番組で示した「しつこさ」の可能性

田辺ユウキ芸能ライター
(提供:アフロ)

2022年秋はランジャタイのシーズンだった、と言っても良いのではないだろうか。

10月4日深夜より、お笑いコンビ・ランジャタイにとって初めての冠番組『ランジャタイのがんばれ地上波!』(テレビ朝日系)がスタートした。同番組は「自由で新しい地上波テレビの表現を模索する」をテーマに、ランジャタイの伊藤幸司、国崎和也が、バラエティの定番企画のなかでいかに逸脱するか=ランジャタイらしさをみせられるかに挑む内容である。

『M-1グランプリ2021』決勝進出をきっかけに本格的にブレイクしたランジャタイ。そのおもしろさは「しつこさ」「執着」「リピート」である。時間の限り(ライブではその制限すら超えて)、同じ言葉、動作、くだりをひたすら繰り返して観る者の感覚を狂わせていく。

たとえば3月18日放送『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)出演時も、オズワルド・伊藤俊介が話したエピソードトークを、国崎和也がそのあとすぐに丸パクリして披露。ダウンタウンらを唖然とさせたのもつかの間、「ネタを見て欲しい」と小道具を用意しながら「トークの方が大丈夫ですか」と再び、伊藤発信のエピソードトークを最初から最後まで、同じテンション、同じ内容で言い切ったのだ。

ランジャタイのしつこさ「お客さんがどうなるか見てみたい」

「同じことを繰り返す」は、ランジャタイが出演する各番組で必ずと言って良いほど見ることができる。ある意味、それが彼らの芸風だ。

雑誌『芸人雑誌 volume.5』(2021年)の川原克己(天竺鼠)との対談記事でも、国崎和也は「話していて、ずっと同じことを言ってるのも楽しいんですよ」「(ずっと同じことを言って)嫌われるより、お客さんがどうなるか見てみたい、のほうが勝つんでしょうね」と興味本位でリピートしていると語っており、川原克己は「笑かすためのしつこさではないよね。ずっとやらないと気が済まないだけ」と分析している。

『ランジャタイのがんばれ地上波!』は、そんなランジャタイの「しつこさ」に、地上波の番組がどこまで耐えられるのか試すような内容になっている。だからタイトルも、ランジャタイががんばるのではなく、番組側へのエールになっている。

初回のオープニングでは、国崎和也がカメラから遠く離れた場所に立って挨拶。伊藤幸司が連れ戻すために追いかけると、国崎和也は対岸まで逃亡。番組側が取材申請をおこなっていなかったことから、その逃亡映像は使用することができず、オープニングが撮り直されたという。気が済むまで走るという、まさにランジャタイのしつこいスタイルが初回から炸裂した。

15分番組なのに終わりがまったく見えない「無間地獄」

以降の回でも、高野正成(きしたかの)をゲストに招いて海老名サービスエリアでロケをおこなうはずが、美容院、歯医者、わんこそばの食レポなどに何度も立ち寄り、その都度、高野正成が楽曲「浅草キッド」を歌わされ、目的地の海老名サービスエリアにたどり着かない展開が、10月18日、25日の2回にわたって放送された。高野正成もたまらず「なにしてんだこれ!」「いい加減にしろ!」と絶叫した。

わずか15分枠の番組でありながら、終わりがまったく見えない「無間地獄」のようなリピート展開。それは、川原克己がコメントしたように、もはや笑いを超越したようなものがあった。雑誌『お笑い2021 Volume.4』(2021年)で国崎和也は「スベり続けて、そこからおもしろくなることがあるので」と語っていたが、この『海老名SAでロケをしよう!』回は、いろんな物事を対象に「しつこくコスり続けるとどうなるのか」というランジャタイの地上波番組での実験精神がうかがえた。視聴者側も、「もう良いよ!」という呆れを通り越し、どんな着地点が待っているのか気になってしまう。

ちなみに同番組の幕間に流れるタイトルコールと弾幕テロップも「がんばれがんばれがんばれ……」と連呼するものだ。ここにも「同じことを繰り返す」というランジャタイのしつこいスタイルが反映されている。

カメラのフレームや15分という放送尺におさまりきらないところが多々あり、またその映っていない箇所も「きっとおもしろいのだろう」と視聴者が想像してしまう点で、同番組は「オーバーサイズな笑い」と言えるのではないだろうか。

一方、初回と2回目に放送された『アシスタント選手権』では、大御所俳優の高橋英樹や「ランジャタイの友だち」らが参戦して、アシスタントの座をかけたバトルを繰り広げた。そこでのランジャタイは意外なほどしっかりと進行役をつとめた。型破りだが、しかし実は場の雰囲気で“押し引き”ができるところが、ランジャタイが現在さまざまなテレビ番組に引っ張りだこになっている理由ではないだろうか。

ランジャタイとダイアン・津田のコラボによる“脱法「ゴイゴイスー」”

「秋のランジャタイ」のハイライトといえば、10月8日放送『お笑いの日2022』(TBSテレビ系)の企画「お笑いプラスワンFES」で披露した、津田篤宏(ダイアン)とのコラボレーションである。

伊藤幸司と国崎和也がすれ違いざまに肩がぶつかって殴りあいのケンカが始まりそうなとき、時間がストップして津田篤宏が出現する。そして楽曲『ヒットパレード』のメロディにのせながら、津田が自身のギャグ「ゴイゴイスー」を連呼。さらに津田がその合間にわんこそばを食べたり、くの一(女性忍者)や津田の実母「母ゴイゴイスー」が登場したりし、思いもよらぬ流れの数々にMCのダウンタウンも大笑いしてた。

「ゴイゴイスー」とは、究極的なすごさをあらわすワードのひとつである。語源は「すっごいごいごいゴイゴイスー」である。津田篤宏はYouTubeチャンネル『ダイアン公式チャンネル』2月25日配信回のなかで、正しい「ゴイゴイスー」のやり方をレクチャー。「発音はIKKOさんの『どんだけー』を長めに言う感じ」などと解説。さらに津田篤宏は「ゴイゴイスー」の存在感が想像以上に「大きくなった」と語っていた。

「ゴイゴイスー」の言い方、ポージング、使う場面などに正解があるなら、『お笑いの日2022』のコラボレーションでランジャタイが津田篤宏に課したものは明らかに逸脱した「ゴイゴイスー」だった。レクチャー動画で説明があった「ゴイゴイスー」とは用途がまったく違った。言うなれば“脱法「ゴイゴイスー」”だ。しかしそれは、まだ見ぬ「ゴイゴイスー」の姿でもあった。だからこそ、すでにピークを過ぎたと思われる「ゴイゴイスー」には、まだまだ可能性が眠っていると感じることができたのだ。

そもそも「ゴイゴイスー」の語源「すっごいごいごいゴイゴイスー」自体、「しつこい」「同じ言葉の繰り返し」という要素を持っているからこそ、ランジャタイの芸風とフィットしたのかもしれない。

10月26日をもって最終回を迎えた『今ちゃんの「実は…」』(ABCテレビ)のラストでは、津田篤宏を中心として、MCの今田耕司ら出演者全員で「ゴイゴイスー」ポーズで締めくくられた(“集合「ゴイゴイスー」”)。14年半も続いた長寿番組を労う意味として考えれば、ここでの「ゴイゴイスー」こそが本来の意味に近い使われ方なのかもしれない。

ランジャタイとのコラボの「ゴイゴイスー」、そして『今ちゃんの「実は…」』での“集合「ゴイゴイスー」”。たったひと月のなかで、ここまで「ゴイゴイスー」の違いについて考えさせられるのは、後にも先にも「2022年10月」だけではないだろうか。それくらい、ランジャタイが示した「ゴイゴイスー」の使い方は斬新かつおもしろかった。

ランジャタイは地上波をどのように乗りこなしていくのか。そして地上波はランジャタイのしつこさを前にがんばり切れるのか。『ランジャタイのがんばれ地上波!』『お笑いの日2022』の2番組では、ランジャタイの持ち味を生かした「新しい表現」を観ることができたと言える。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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