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女性芸能人の大喜利「IPPON女子グランプリ」、松本人志の試みが成功した理由と勝敗を分けたポイント

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロスポーツ)

松本人志(ダウンタウン)がお笑いの可能性を探求していく特番『まっちゃんねる』(フジテレビ系)が6月25日、約1年ぶりに放送された。

第3弾となった同放送回は「IPPON女子グランプリ」と題し、出場者を女性芸能人に限定した大喜利企画を実施。女芸人版、女性タレント版のふたつの部門で「最強」を決める戦いが繰り広げられた。

麒麟・川島、バカリズムら審査員はどこに着目していたのか

女芸人版は『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)にも出演したことがある箕輪はるか(ハリセンボン)、女性タレント版は自身のYouTubeチャンネルでも大喜利を披露している滝沢カレンが優勝。急きょひらかれた決勝戦では、箕輪はるかが勝利した。

「実験的バラエティ」を打ち出している、『まっちゃんねる』。たしかに今回の「IPPON女子グランプリ」はさまざまな発見があった。特に気付かされたのは、スポーツと同じように、大喜利には「流れ」があること。たったひとつのお題や回答が、勝負の行方をガラッと変えていく。まるで高校野球を観戦しているみたいだった。

「本家」と言える『IPPONグランプリ』は、大喜利の場数をたくさん踏んでいる出演者が揃っているとあってか、戦いのリズムやペースがそこまで乱調になることはない。ただ「IPPON女子グランプリ」はまったく違った。まさに激流である。大喜利経験の有無、対戦相手との相性でここまで展開が不安定になるのかと驚かされた。

そういった状況もあってか、審査員たちも戦局を読む場面が多かった。川島明(麒麟)は「自分なりに戻してきた」、バカリズムも「ちょっと乱れてきたな」など、あちこちへ転じていく流れに着目していた。

序盤0点だった蛙亭・イワクラ、ひとつのお題をきっかけに躍進

女芸人版では、イワクラ(蛙亭)が序盤苦戦。0本が続き、箕輪はるか、加納愛子(Aマッソ)、福田麻貴(3時のヒロイン)に取り残された。審査員からは、点数が獲れない理由として「回答の情報量の多さ」が挙げられた。

ただ、お題「そんなこといちいち5・7・5で言うな。何?」では、答えを5・7・5でまとめる必要性が出たことから、課題だった情報量の多さが自然解消。イワクラはそこでコツをつかんだのか、後半、トップを走る箕輪はるかに急接近。大逆転劇を期待させた。出題ごとに脱落者が明確になり、上位が絞られていく『IPPONグランプリ』ではなかなかお目にかかれない「最下位からの猛追」である。

女芸人版はこのたったひとつのお題が、試合の流れをおもしろくした。

王林の「ぼうこう暴大男」が波乱演出、渋谷凪咲は荒れた場の空気に飲まれたか

女性タレント版は、さらに落ち着きのない展開となった。まさに乱打戦である。

優勝候補筆頭と目されていたのは、バラエティ番組に多数出演し、芸人たちからその大喜利力を高く評価されている渋谷凪咲(NMB48)だ。

全お題で必ず最初に回答ボタンを押す姿は、「大喜利アイドル」と呼ばれる彼女の意地が見えた。同時に、自分のペースに引き込もうという作戦のようにも感じられた。最初のお題「壁ドン以上のキュンキュンを教えてください」で、いきなり「尻モギ」と書いたフリップをひっくり返したとき、多くの視聴者は「やっぱり優勝は渋谷凪咲だろう」となったのではないか。

ただ、大喜利をあまり理解していない隣席・神田愛花が珍回答を連発し、場が荒れた。大喜利の認識を逸脱しまくる神田愛花に、松本人志もたまらず中断ボタンを何度も押して、モニター越しで大喜利について説明。それでも暴走機関車は止まらなかった。彼女のあとは、どれだけうまい回答を出してもインパクトが弱くなってしまう。松本人志の中断も含め、展開がスムーズに流れたとは決して言えないものだった(もちろん、それも妙味である)。

王林も、すさまじい爆発力を放った。「壁ドン以上のキュンキュン」のお題では「ぼうこう暴大男(ばくだいおとこ)」という回答を出し、『IPPONグランプリ』シリーズに歴史的爪痕をのこした。一方で終始、荒れるか荒れないかのギリギリのラインを突き進んだ。この日の瞬間最大風速を何度も更新したが、終盤では渋谷凪咲の回答パターンを真似てしまう一幕も。渋谷凪咲にとっては、パターンを被せられたことも痛かったのではないか。

神田愛花と王林の間に挟まれた渋谷凪咲。最後は、審査員も「フォームが崩れ出した」と指摘。渋谷凪咲のいくつかの回答が荒れた場の空気に飲まれていく様子は、「大喜利会場には魔物が住んでいる」と言いたくなるほどだった。渋谷凪咲の場合は、本職の芸人たちを相手にした方が本領を発揮できたかもしれない。

滝沢カレンの回答のうまさに、松本人志「ちょっといまのは怖い」

箕輪はるかと滝沢カレンの勝因は、そんななかで「自分のペースをキープできたこと」ではないか。箕輪はるかは14回答中10本、滝沢カレンは14回答中11本を獲ったが、その数字以上に的確な印象があった。

滝沢カレンは最終問題「かわいくないことをかわいく言って下さい」で4回答すべて1本を奪取し、独走した。「ゴッツゴツのエゾジカ」と回答した際には、松本人志も「ちょっといまのは怖い。パンチがキレてた」とうなった。また「あしうら、ごみだらけだね」との回答では、バカリズムが「(荒れた場を)ちゃんと戻してくれる」と試合運びを絶賛。バカリズムのコメントは、彼女がいかに周りに影響されることなく、自分なりに流れを作って大喜利ができているかをあらわしていた。

大喜利は組み合う相手によって展開が大きく左右され、明暗を分けていく。そして、ちょっとしたことで場の空気が揺れ動く。あらためて大喜利のおもしろさや奥深さ知ることができた。なにより、そこまで大きく乱れない『IPPONグランプリ』の高度さも実感できた。

「おもしろいと思うことをテレビで実験する」という『まっちゃんねる』の意図は、成功だったのではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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