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「お笑い戦国時代」へ突入か、地下芸人の台頭と第七世代という総称の終焉

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

3月17日放送の『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)と『アメトーーク!』(テレビ朝日系)。トークの題材は違ったが、しかし両バラエティ番組の内容は、まさにいま「お笑い戦国時代」を迎えていることを強く意識させるものだった。

地下芸人は全国で約7200人、最下層はマントル芸人

『ダウンタウンDX』では地下芸人が特集され、地下出身のモグライダー、真空ジェシカ、オズワルド、ランジャタイ、ぺこぱ、ハリウッドザコシショウ、チャンス大城がその生態についてトークを繰り広げた。

番組は、地下芸人について「地上波の番組・事務所ライブにはほぼ出られず、自費でインディーズライブに出演している芸人」と説明。日本の芸人約9000人のなかで、頂点にいるのがテレビの冠番組を持つ約70人、続いて位置するのがテレビに出演できる約1700人、その下を約7200人もの地下芸人が占めているという。ちなみに最下層の呼び名は「マントル芸人」で、ハリウッドザコシショウ、チャンス大城は「マントル上がり」だという。

昨今、そんな地下芸人たちが地上へ這い上がって人気者になる事例が増加。同番組は「新時代到来」と銘打った。

地下芸人が脚光を浴びるひとつのきっかけとなったのは2020年、マヂカルラブリーが『M-1グランプリ』で優勝を飾ったことだ。野田クリスタルは無所属のピン芸人期、インディーズライブを拠点に活動。2007年のコンビ結成後も長年、相方・村上とそこで腕を磨いた。マヂカルラブリーの出自が地下にあり、そこから王者に輝いたことで、コアなお笑いファン以外も地下芸人やインディーズライブに興味を持つようになった。

このムーブメントの決定打は、『M-1グランプリ2021』での地下勢の躍進だ。モグライダー、ランジャタイ、真空ジェシカが決勝に初進出し、彼らとインディーズライブで何度も共演していた錦鯉がチャンピオンに。ちなみに2位のオズワルドも『ダウンタウンDX』のなかで、自費でインディーズライブに出ていた経験から「自分たちは元地下芸人である」と明かしている。

地上と地下が入り乱れることで「戦国時代化」

2010年代のアイドルシーン然り、地下が盛り上がるとシーン全体が底上げされる。カウンターも含めて表現も多様になり、地上と地下が入り乱れて「戦国時代化」する。

『M-1』でのマヂカルラブリーの漫才論争は象徴的な出来事だった。「地上波」ではなかなかお目にかかれない独自の漫才スタイルは、『M-1』のような賞レース=メジャーを中心に観ている層の衝撃と違和感を膨張させ、物議を醸した。ひとつ言えるのは、いつの時代でも新しい動きは地下で生まれ、地上で芽吹いて花開くということ。音楽、映画など多くの物事はそれに当てはまる。

たとえば『ダウンタウンDX』で真空ジェシカの川北茂澄が紹介した、芸人・ぼく脳による「植物を相方に迎えて漫才をおこない、18日間かけて種を成長させ、伸びた葉っぱを体に触れさせることでそれをツッコミとし、ネタを終える」というもの。番組司会のダウンタウン・松本人志も、常人離れしたそのネタのVTRを観て「ヤバイ」と震撼。地下にはこういった「まだ見ぬお笑い」が広がっていることを印象づけた。

番組ではランジャタイの国崎和也が、オズワルド・伊藤俊介が披露したエピソードトークをパクり、その話を同じ語り口で、フルで2度繰り返して喋るというテレビ番組ではあり得ない離れ業をやってのけた(3度目は未遂に終わった)。これもまた「地上」のセオリーにはないもの。ある意味、事件だった。

今回の『ダウンタウンDX』は、地上と地下の間にあった結界が本格的に破られた瞬間だったのではないか。「理解不能」と「おもしろさ」が紙一重の地下芸人が台頭するとなれば、それこそまさしく「新時代到来」である。シーンの何かが塗り替わるかもしれない。

『アメトーーク!』で議論、第七世代はこれからどうなる?

地下芸人がクローズアップされるようになったのは、第七世代のブームが落ち着いたことも要因ではないか。

同日放送『アメトーーク!』(テレビ朝日系)では、霜降り明星、EXIT、宮下草薙、四千頭身が「第七世代、その後…」について話し合い、第七世代を解散させるかどうかを考えた。

とは言っても、霜降り明星ら該当コンビの勢いが落ちたわけではない。各自がお笑い界を代表するほど売れっ子へと成長し、第七世代という総称で括ることが疑問視されるようになったのだ。

あと、そのネーミングがあまりにもコスられすぎて飽きが出ていることも一因となっている。番組でも、第七世代を絡めたテレビ企画・タイトルが激減していることが指摘された。

第七世代の言い出しっぺである霜降り明星・せいやも解散をのぞんでおり、相方・粗品と以前から「(インタビューなどの席では)第七世代の話はしないでおこう」と話し合っていたという。VTRで出演した、ぺこぱ・松陰寺太勇も「もう、世代で括るのはやめにしよう」と発言していた。

結局、番組のラストでは第七世代の存続が決定。しかし多数決の結果は5対4の僅差。そもそもこうやって解散か否かが話題にあがること自体、過渡期を迎えている証拠だろう。

オズワルド・伊藤「バチバチの時代が始まる」が口火に

第七世代の輪に加われず、元地下芸人の肩書きに身を寄せたオズワルドの伊藤俊介は、2021年12月28日放送『八方・今田の楽屋ニュース』(ABCテレビ)で、「別に悪口を言うわけじゃないけど、第七世代に僕らは入れて欲しかったのに入れてもらえなかった。そういう和気あいあいみたいなものが終わって、これからはバチバチの時代が始まるんですよ」と闘争心をみせた。

思い返すと、彼のこの言葉は「お笑い戦国時代」の口火を切るものだったのかもしれない。

地下芸人の台頭による「新時代到来」、第七世代という総称の終焉、錦鯉をはじめとする「おじさん芸人」の逆襲、『R-1グランプリ』のピン芸人や、『キングオブコント』のコント師らの活躍、そして学生芸人にも注目が集まりつつある。お笑い界は群雄割拠の様相を呈している。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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