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<ウクライナ>ミサイル攻撃の現場で住民救出に出動する消防隊員たち(ザポリージャ) 写真11枚

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
ザポリージャ消防署の隊員たち。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆「瓦礫かきわけ遺体を運び出すときがつらい」

連日、ウクライナに撃ち込まれるロシア軍のミサイルや砲弾。軍事施設だけでなく、住宅地、学校までもが狙われる。着弾現場に駆け付け、住民の救助に奮闘するのが消防隊だ。ウクライナ南東部、ザポリージャ市で隊員たちの声を聞いた。(玉本英子・アジアプレス)
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「瓦礫をかきわけ、子どもの遺体を収容するときがもっともつらい」と話す消防隊のステツェンコ・ヴォロデミロヴィチ隊長。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
「瓦礫をかきわけ、子どもの遺体を収容するときがもっともつらい」と話す消防隊のステツェンコ・ヴォロデミロヴィチ隊長。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

住宅地に炸裂するミサイルと砲弾。燃え上がる炎に立ち向かい、立ち込める煙のなか瓦礫に埋もれた住民を助け出す消防隊員たち。その姿は、この国の悲しい日常の光景の一部となってしまった。

ロシア軍のミサイル攻撃の現場で、瓦礫のなかから犠牲者を運び出す隊員たち。 (写真:2022年10月・ザポリージャDSNS撮影)
ロシア軍のミサイル攻撃の現場で、瓦礫のなかから犠牲者を運び出す隊員たち。 (写真:2022年10月・ザポリージャDSNS撮影)

◆防弾ベストで消火作業

「ミサイルが着弾した住宅で泣き叫ぶ住民を見たとき、そして瓦礫をかきわけ子どもの遺体を運び出すときが、本当につらくてたまりません。激しく揺れる心を抑え、冷静になれ、と自分に言い聞かせて任務を続けています」

ザポリージャ消防隊のステツェンコ・ヴォロデミロヴィチ隊長(35)は、心情を打ち明ける。あいつぐ住宅地への攻撃と犠牲のなか、それを止める手立てがないことに複雑な思いだという。

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ミサイル攻撃があった際の消火・救助活動では、重いアーマープレートが入った防弾ベストを着用する。同じ場所に第2波攻撃が加えられることがあるためだ。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
ミサイル攻撃があった際の消火・救助活動では、重いアーマープレートが入った防弾ベストを着用する。同じ場所に第2波攻撃が加えられることがあるためだ。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

防弾ベストを着用して消火活動する隊員たち。 (写真:2022年10月・ザポリージャDSNS撮影)
防弾ベストを着用して消火活動する隊員たち。 (写真:2022年10月・ザポリージャDSNS撮影)

◆第2波攻撃で隊員が殉職

消防隊の活動の妨げとなっているのが、ミサイルや砲弾の第2波攻撃だ。消火、救助作業中に、連続してミサイルが撃ち込まれることがあるのだ。このため、隊員たちは防火服に加え、重いプレート入りの防弾ベストを着用する。

ザポリージャ市内の大通りには、軍と兵士を称えるスローガンが掲げられた大きな看板が立ち並ぶ。そのなかに、殉職した消防隊員を追悼する看板がある。ロシア軍の攻撃下、これまでに1名が殉職、6人が負傷している。亡くなった隊員は、現場に到着したところに2発目が着弾し、犠牲となった。

殉職した隊員を顕彰する看板。隊員は、ロシア軍からの砲撃の現場で消火活動に駆け付けたところに2発目が炸裂し、亡くなった。幼い娘がいたという。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
殉職した隊員を顕彰する看板。隊員は、ロシア軍からの砲撃の現場で消火活動に駆け付けたところに2発目が炸裂し、亡くなった。幼い娘がいたという。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

戦時下での任務の過酷さについて語るザポリージャDSNSのニコラ・ザイコ副本部長(左)とセルヒイ・シェルチェンコ副署長(右)。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
戦時下での任務の過酷さについて語るザポリージャDSNSのニコラ・ザイコ副本部長(左)とセルヒイ・シェルチェンコ副署長(右)。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)


ザポリージャ消防本部のセルヒイ・シェルチェンコ副署長(46)は、第2波攻撃について説明する。

「急いで駆け付けても、そこに次のミサイルが炸裂すれば、犠牲が拡大します。安全を見極めながら、消火作業と救助活動を進めなければならず、迅速に動けません。住民と隊員の命にかかわる大きな問題です」

ヨウ素剤を手にするヴォロデミロヴィチ隊長。ザポリージャ原発破壊による放射能流出を想定し、消防隊の各車両に常備されている。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
ヨウ素剤を手にするヴォロデミロヴィチ隊長。ザポリージャ原発破壊による放射能流出を想定し、消防隊の各車両に常備されている。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆原発破壊に備え、ヨウ素剤

ザポリージャ州には、欧州最大級の原発があり、現在、ロシア軍の占領下に置かれている。戦闘での損傷だけでなく、ロシア軍の意図的な破壊もありうる危険な状況だ。放射能流出の事態を想定し、消防隊はヨウ素剤を携行していた。

「これを服用する日が来ないことを願っていますが、放射能汚染という最悪の事態も想定し、対処できるようにしています」
ヴォロデミロヴィチ消防隊長は、ヨウ素剤の入った小さな白い容器を見せて言った。

ザポリージャ市街は、ロシア軍支配地域から約30キロだが、絶え間ない攻撃にさらされている。ザポリージャ原発(6基)は、欧州最大級の規模で、現在ロシア軍の占領下にある。(地図作成:アジアプレス)
ザポリージャ市街は、ロシア軍支配地域から約30キロだが、絶え間ない攻撃にさらされている。ザポリージャ原発(6基)は、欧州最大級の規模で、現在ロシア軍の占領下にある。(地図作成:アジアプレス)

消防隊を取材した直後、ザポリージャからさらに南方にあるカホウカダムが破壊され、ドニプロ川下流域のヘルソン一帯に大規模な浸水被害が出た。ロシア、ウクライナ両政府ともダム破壊への関与を否定し、双方が非難。下流域に多大な被害が出る事態が起きたことで、原発破壊も含め、あらゆることが想定される状況となっている。

消防隊員たちは、危険と隣り合わせで任務を続ける。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
消防隊員たちは、危険と隣り合わせで任務を続ける。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆住宅地に繰り返される攻撃

消防部門を管轄するDSNS(国家非常事態庁)は、ミサイルと砲撃による被害者、損壊建物を詳細に記録している。ロシア政府は「軍事施設を標的」としているが、ザポリージャDSNSのニコラ・ザイコ副本部長(44)は、こう話す。

「半径3~5キロ以内に軍事施設が一切ない地区までもが攻撃を受けています。住民の避難場所にも着弾し、子どもを含む多数の市民が犠牲となりました。テロ行為というほかありません」

命を救う最前線で、消防隊員たちは過酷な任務と向き合い続けている。

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DSNSは民間地域での地雷・不発弾処理も担う。ポスターには様々な地雷・砲弾の写真とともに「爆発物を見ても触らないで」と注意を呼びかけている。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
DSNSは民間地域での地雷・不発弾処理も担う。ポスターには様々な地雷・砲弾の写真とともに「爆発物を見ても触らないで」と注意を呼びかけている。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

ザポリージャ消防署の隊員たち。日本政府からはDSNSを通じて車両も届いているという。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:坂本卓)
ザポリージャ消防署の隊員たち。日本政府からはDSNSを通じて車両も届いているという。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:坂本卓)

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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