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<シリア・イドリブ>アメリカ「テロとの戦い」の陰で 後絶たぬ市民巻き添え(写真 ・地図12枚+動画)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
米軍ドローン攻撃の巻き添えで負傷したアハマドさん一家。(アスマール撮影)

◆米軍のドローン攻撃、巻き添えになった住民

2001年に起きた米9.11事件から始まったアメリカの「テロとの戦い」。アフガニスタン、イラクのほかシリアなど各地で「テロ組織」に対する掃討作戦が続いてきた。一方、「テロ」と関係のない市民の巻き添え被害があとを絶たない。昨年12月、シリア・イドリブでの米軍ドローン攻撃に巻き込まれ負傷した一家を、地元記者の協力のもとネットを通じて取材した。(取材・構成:玉本英子/アジアプレス、協力:ムハンマド・アル・アスマール)

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「標的」のバイクにミサイルが着弾した際、すぐ近くにいたアハマドさんの車は大破。家族6人が乗っていた。自身は手と頭を負傷、妻と息子は骨折の重傷を負った。(撮影:アハマドさん)
「標的」のバイクにミサイルが着弾した際、すぐ近くにいたアハマドさんの車は大破。家族6人が乗っていた。自身は手と頭を負傷、妻と息子は骨折の重傷を負った。(撮影:アハマドさん)

◆ミサイルが標的のバイクに命中、そこに住民の車

昨年12月3日の朝、シリア北西部イドリブ郊外を走る1台のバイク。上空からその動きを追っていた米軍のドローン(無人攻撃機)がミサイルを発射し、バイクに命中した。乗っていた男性はバラバラになって即死。

【動画】ミサイル着弾の瞬間の映像。車内で歌を歌っていた様子を息子が撮影していたところに、すぐそばで爆発。煙のなか、悲鳴が上がる。(撮影:息子マフムードさん)

ドローンのミサイル攻撃の現場を地元記者に撮影してもらったもの。見通しのよい一本道で、周囲に遮蔽物はない。米軍は標的のバイクのわきに民間車両がいるのをわかっていてミサイルを発射したと見られる。赤枠がミサイル着弾現場。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
ドローンのミサイル攻撃の現場を地元記者に撮影してもらったもの。見通しのよい一本道で、周囲に遮蔽物はない。米軍は標的のバイクのわきに民間車両がいるのをわかっていてミサイルを発射したと見られる。赤枠がミサイル着弾現場。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

道路には着弾の痕が残っていた。アスファルトにはいくつもの穴があき、破片がまだめり込んだままだった。標的となったバイクの男は炸裂したミサイルで即死。遺体はバイクとともにバラバラになって肉片だけが飛び散っていたという。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
道路には着弾の痕が残っていた。アスファルトにはいくつもの穴があき、破片がまだめり込んだままだった。標的となったバイクの男は炸裂したミサイルで即死。遺体はバイクとともにバラバラになって肉片だけが飛び散っていたという。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

家族を乗せた車で現場を走っていたアハマド・カスムさん(52)は、爆発に巻き込まれた。

「私の車がバイクに近づいた時、大きな衝撃とともに砂煙に包まれた」

アハマドさんの車も被弾し、妻と4人の子どもも負傷。爆発が米軍のミサイルによるものだったと、病院で知った。

◆「なぜ家族がこんな目に」

2年前、アハマドさん一家は、アサド政権の政府軍の攻撃から逃れ、国内避難民になった。爆撃してくるのは、政府軍か、それを支援するロシア軍だった、と話す。

「アメリカの攻撃で家族がこんな目に遭うなんて」

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アハマドさんの9歳の息子は頭蓋骨を損傷。一命はとりとめたが、後頭部にはいまも傷が残る。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
アハマドさんの9歳の息子は頭蓋骨を損傷。一命はとりとめたが、後頭部にはいまも傷が残る。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

◆米軍が標的人物を「幹部」と誤認か

イドリブは反体制派が統治する地域で、周辺では政府軍との戦闘がいまも続く。シャム解放機構などイスラム武装各派の拠点ともなっていて、外国人戦闘員も入り込んでいる。アメリカは、テロ組織の幹部とみなした人物を追跡し、幾度も空爆で殺害してきた。

反体制派の拠点、イドリブ一帯は武装各派が割拠。国民解放戦線、シャム解放機構(旧ヌスラ戦線)ほかフッラース・アル・ディンなどの武装組織が混在し、地元の行政統治機構に影響力を持つ。外国人義勇兵も入り込み、アメリカはイスラム過激派系の武装各派の動向を注視してきた。(地図作成:坂本卓/アジアプレス)
反体制派の拠点、イドリブ一帯は武装各派が割拠。国民解放戦線、シャム解放機構(旧ヌスラ戦線)ほかフッラース・アル・ディンなどの武装組織が混在し、地元の行政統治機構に影響力を持つ。外国人義勇兵も入り込み、アメリカはイスラム過激派系の武装各派の動向を注視してきた。(地図作成:坂本卓/アジアプレス)

米国防総省のカービー報道官は、昨年12月3日のドローン攻撃について「死亡したのはアルカイダ関連組織フッラース・アル・ディンの幹部ムサブ・キナン」とした。だが実際は幹部ではなく、すでに組織から離れていた20歳の青年だった。(画像は米国防総省サイト・赤枠部分は筆者)
米国防総省のカービー報道官は、昨年12月3日のドローン攻撃について「死亡したのはアルカイダ関連組織フッラース・アル・ディンの幹部ムサブ・キナン」とした。だが実際は幹部ではなく、すでに組織から離れていた20歳の青年だった。(画像は米国防総省サイト・赤枠部分は筆者)

12月のドローンでの作戦について米国防総省は、「死亡したのはアルカイダ関連組織フッラース・アル・ディンの幹部」と発表した。

フッラース・アル・ディンは、シャム解放機構の分派として知られる。殺害されたバイクの男性は、イドリブ出身のムサブ・キナンさん(20)だった。

知人の青年は、「彼は過去に運転手や警護をしていた程度で、幹部などではない」と証言する。1年前に組織を離れ、その後は地元大学の法学部に通い、別の学部に入り直す準備をしていたと、ムサブさんの兄は言う。

「新たに勉強を始めた矢先のことだった」

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米軍ドローン攻撃で死亡したムサブ・キナンさん(20歳)。過去にフッラース・アル・ディーンにかかわっていたものの、末端メンバーで1年前に組織から離脱。その後は地元大学に進学。ムサブさんが「幹部」として米軍の標的となった理由は不明。(写真はシリア人権ネットワークSNHRサイトから引用)
米軍ドローン攻撃で死亡したムサブ・キナンさん(20歳)。過去にフッラース・アル・ディーンにかかわっていたものの、末端メンバーで1年前に組織から離脱。その後は地元大学に進学。ムサブさんが「幹部」として米軍の標的となった理由は不明。(写真はシリア人権ネットワークSNHRサイトから引用)

2021年12月の米軍ドローン攻撃はイドリブ郊外の幹線道で起きた。何らかの「確証」があったと思われるが、死んだのは幹部でもない青年だった。米軍の情報が誤っていたのか、真相はわからぬままだ。ドローンからの映像で現場の民間車両は確認できたはずだが、巻き添えをいとわずミサイルが発射された。
2021年12月の米軍ドローン攻撃はイドリブ郊外の幹線道で起きた。何らかの「確証」があったと思われるが、死んだのは幹部でもない青年だった。米軍の情報が誤っていたのか、真相はわからぬままだ。ドローンからの映像で現場の民間車両は確認できたはずだが、巻き添えをいとわずミサイルが発射された。

米軍が殺害作戦を実行する場合、地元協力者の情報や通信傍受などで標的が選定される。ムサブさんが幹部と誤認されたのか、組織への警告だったのか、真相はわからない。ただ、民間人の車両がバイクのそばにいるのを分かったうえで、ミサイルは発射されたものとみられる。

フッラース・アル・ディンは、シャム解放機構から分派したイスラム過激派組織として知られる。アメリカは、イドリブ一帯を拠点とするシャム解放機構やフッラース・アル・ディンを「アルカイダ系組織」とみなし、動向を監視してきた。(写真はフッラース・アル・ディン系メディア公表映像より)
フッラース・アル・ディンは、シャム解放機構から分派したイスラム過激派組織として知られる。アメリカは、イドリブ一帯を拠点とするシャム解放機構やフッラース・アル・ディンを「アルカイダ系組織」とみなし、動向を監視してきた。(写真はフッラース・アル・ディン系メディア公表映像より)

◆「テロとの戦い」の陰で

アメリカ史上最長の20年におよんだ戦争、「テロとの戦い」は、昨年夏の米軍のアフガニスタン撤収と、タリバン政権復活で振り出しに戻った。一方、シリアをはじめ、他国の領空内でのドローンや戦闘機による空爆は続いている。「テロとの戦い」のなかで繰り返された誤爆や住民の巻き添え被害への怒りは、反米感情を増幅させる皮肉な結果ともなった。

2019年、イドリブ北部に潜伏していた過激派組織「イスラム国(IS)」のバグダディ指導者は、米軍特殊部隊の急襲で自爆死。今月3日には、その後継者とされるアブ・イブラヒム・アル・ハシミ指導者も潜伏先を特定され、米軍特殊部隊に追い詰められて自爆死した。アメリカにとって「成功」した作戦は大きく伝えられるが、誤爆の被害実態が明るみに出ることは少ない。

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米軍が運用する偵察・攻撃ドローン、MQ-9リーパー。シリアやイラクでも投入されている。今回のイドリブでのバイクを狙った攻撃でミサイルを発射したのも、MQ-9リーパーだった。(米空軍公表写真)
米軍が運用する偵察・攻撃ドローン、MQ-9リーパー。シリアやイラクでも投入されている。今回のイドリブでのバイクを狙った攻撃でミサイルを発射したのも、MQ-9リーパーだった。(米空軍公表写真)

◆誤爆や巻き添え被害者の調査や補償なく

地元記者によると、イドリブではこの2年間だけで、8回の米軍の爆撃があり、18人が死亡、うち4人は子どもを含む民間人だった。米軍は巻き添え被害者への謝罪も補償もしていない。米軍の軍事作戦が、ISのような過激組織を一定程度封じ込めたのは事実だ。だが、人道と正義の名のもとに「対テロ作戦」が展開されてきたなか、誤爆や巻き添え被害の調査や補償、その責任追及はどれだけなされてきただろうか。

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アハマドさん(左)は頭と手に傷を負い、息子(右)は頭蓋骨損傷と足を負傷。「なぜ市民が犠牲に」とアハマドさんは話す。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
アハマドさん(左)は頭と手に傷を負い、息子(右)は頭蓋骨損傷と足を負傷。「なぜ市民が犠牲に」とアハマドさんは話す。(2021年12月、シリア・イドリブ・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

「国民の命をかえりみないアサド政権を批判したアメリカが、市民の犠牲をいとわず爆弾を落とす。どの国も信じられなくなった」

攻撃に巻き込まれたアハマドさんは、そう嘆いた。

※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2022年2月1日付記事に加筆したものです。

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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