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親に暴言、殴る蹴る~子どもを「勘当」する方法

竹内豊行政書士
現代版の勘当に、相続権を奪うことができる「廃除」という制度があります。(写真:アフロ)

親に暴言、殴る蹴る

田中恵子さん(医師・享年82歳)は、美容整形の病院の院長を務めていました。病院の経営は順調そのものでした。しかし、恵子さんには次男・祐二さん(52歳)のことが悩みの種でした。

祐二さんは、中学に入学すると地元の不良グループに入ってしまいました。喧嘩・窃盗に明け暮れ、その度に恵子さんは学校や被害者に謝りに行きました。高校を卒業後、恵子さんのコネで一度は就職したものの長続きしませんでした。

その後は恵子さんに「今度こそ心を入れ替えてやり直すから」と言って恵子さんからお金を引き出しては失敗を繰り返し続けました。

恵子さんが亡くなる1年程前からは、恵子さんの元を訪れては金の無心を繰り返し、拒否すると「クソばばあ」とののしり、ひどいときは殴る蹴るの暴行を加えることもありました。恵子さんは「もう我慢ならない。祐二には一切財産を残さない!勘当するわ!確か、廃除という制度があるはずだわ」と祐二さんを廃除することを決断しましたが、心労がたたって行わないまま亡くなってしまいました。

相続はしっかり主張

恵子さんは離婚していたので相続人は長男の賢一さん(55歳)と祐二さんの2人です。賢一さんは医師で病院を引き継いでいます。恵子さんの遺産分割で、祐二さんは自分が恵子さんにした仕打ちや借金をよそに「兄貴、俺には2分の1の相続権があるんだから半分よこせよ」と言うではありませんか。母の悩む姿や祐二さんが母に行った仕打ちを見ていた賢一さんは到底受け入れることはできません。その後も祐二さんは主張を変えず遺産分割は一向に進みません。賢一さんは頭を抱えてしまいました。

現代版の勘当~「廃除」という選択

推定相続人(自分が死亡した時に現時点で相続人となる人)が、自分に対して虐待や重大な侮辱をしたとき、その他著しい非行があったときは、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます。廃除とは、自分の意思に基づいてその相続人の相続資格を剥奪する制度です(民法892条)。

民法892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

廃除は相続権の剝奪という重大な問題です。そのため、廃除請求を受けた家庭裁判所は、慎重に審査して廃除の是非を決めます。

遺言で「廃除」ができる

廃除は遺言でもできます。その場合、遺言者が死亡した後、遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除請求の手続きを行うので、遺言書に遺言執行者を書くとともに、遺言執行者に指定した人にそのことを託しておくことが肝要です。

民法893条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

なお、廃除の対象となる相続人は「遺留分を有する相続人」に限られます。なぜなら、遺留分を有しない兄弟姉妹に相続させたくない場合は、他の人に全財産を相続または遺贈したり、その人の相続分をゼロにしたりする遺言書を残すなどして、遺産を相続させない処置をすることができるからです。

遺言で「廃除」をする方法

遺言で廃除をする文例をご紹介します。

第〇条 遺言者の(続柄)(  氏名  )(  年 月 日生)は、遺言者を常に「くそばばあ」とののしって侮辱し、しばしば遺言者に暴行を加えるなど虐待を続けるので、遺言者は、(続柄)(  氏名  )を廃除する。
2 遺言者は、遺言執行者として次の者を指定する。
   住所 (                        )
   職業 (           )
   氏名 (           )
   生年月日 (  年 月 日生)

祐二さんの非行と恵子さんに行った暴言・暴行は廃除に相当する行為と考えられます。恵子さんは祐二さんを「勘当する」と思ったのであれば、遺言で全ての財産を賢一さんに残すとともに祐二さんを廃除すべきでした。

ご紹介したように、目に余る非行・虐待・侮辱を行った子どもに対して廃除という選択もあります。廃除は遺言でもできます。廃除は伝家の宝刀です。心当たりがある方は覚えておくとよいでしょう。

※事例はフィクションです。また、文中の名前は仮名です。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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