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どうなる!?~遺産分けの話し合いがまとまらない!

竹内豊行政書士
遺産分けの話し合いがまとまらないとどうなってしまうのでしょうか(写真:イメージマート)

お身内が亡くなられてこれから遺産分けの話し合い(遺産分けの話し合いを「遺産分割協議」といいます)をしなければならないという方もいらっしゃると思います。遺産分割協議の成立には相続人全員の合意が必要です。円満に協議が成立すればよいのですが、残念ながら物別れになってしまうこともあります。そこで、遺産分割が成立しないとどうなってしまうのかお話ししたいと思います。

遺産が「共有」のままになってしまう

相続は人の死亡を原因として開始します。相続の実際の過程では、被相続人の死亡→死亡届→葬儀→遺産分割協議→相続手続(相続登記・相続預貯金の払戻手続など)といった一連の流れを経て、遺産が相続人の個人財産になっていきます。

しかし、法律の扱いでは、被相続人が死亡すれば、その瞬間に相続人について相続が開始し、それによって被相続人の相続財産が相続人に移転して相続人全員による遺産の共有が始まります。このことは、相続人が被相続人の死亡の事実を知っているか否か、死亡届を出したか否かなどは関係ありません。

このように、被相続人の相続財産は、被相続人の死亡の瞬間に有無を言わさず相続人全員の共有となりますが、これは、被相続人の相続財産が一瞬たりとも誰のものでもない状態、つまり財産の無主物化を回避するためです。

そのため、遺産分割協議が成立しないと、相続財産は共有のままで、たとえば遺産の不動産は売却等が困難となり空き家となってしまう可能性が高くなってしまいます。

預貯金は「凍結」されたままに

銀行は、預金者が死亡した情報を入手すると、銀行のシステムに死亡の登録を直ちに行います。その結果、被相続人の口座での支払い・振込等が一切できなくなるといった、いわゆる“預金口座の凍結”が開始します。

銀行が金口座を凍結するおもな目的は、相続開始によって共有財産となった金融資産を、特定の相続人が被相続人の印鑑やキャッシュカードで預貯金等を払い戻すことによる金融資産の無制限の変動を防止することで相続財産を保全・確保することです。

相続税の申告で「特例」を利用できない

相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署に対して行うことになっています。

相続税の申告は、相続財産が分割されていない場合であっても上記の期限までにしなければなりません。分割されていないということで相続税の申告期限が延びることはないのです。

そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。その際、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例配偶者の税額の軽減の特例などの相続税を軽減できる特例が適用できない申告になってしまいます。

費用がかさみ親族は分裂

相続人当事者間でもめてしまって協議続行が困難になってしまったら、法律専門職を代理人として協議を続行するという手段があります。

そして、法律専門職はいくつかありますが、紛争状態になってしまったら法律上、弁護士しか関与できません。当然ながら、費用はそれなりにかかるでしょう。しかも、相続でもめると解決まで年単位を要することがめずらしくなく、解決しても相続人同士の関係は分断されてしまうようです。

以上ご覧いただいたとおり、遺産分割協議が成立しないと遺産の承継ができなので空き家問題を引き起こしてしまったり金融資産が凍結されてしまったりしてしまいます。また、相続税の特例が利用できずに多めの相続税を支払ったり、その上費用がかかったり、何年も相続人同士で争った挙句、親族間が分断されてしまったりなど、踏んだり蹴ったりで何一ついいことはありません。

もし、ご自分の相続で遺産分割協議が成立するのが困難なようなら、遺言書を残しておくべきではないでしょうか。遺言書を残せば、遺産分割協議を経なくても、死後財産を引き継がせることができます。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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