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羽生結弦さん離婚を決断~離婚の「本質」とは

竹内豊行政書士
羽生結弦さんが「離婚を決断した」と発表しました。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

プロスケーターとして活躍する羽生結弦さん(28)が17日深夜、離婚することを決断したと公式X「羽生結弦official_Staff公式」で発表しました。結婚発表からわずか105日での決断となりました。

羽生さんはXで、結婚してから過激なマスコミからの取材、誹謗中傷やストーカー行為に悩まされ続け、通常の生活を送ることが困難な状況に追い込まれたと伝えています。そして、パートナーである「お相手に幸せであってほしい、制限のない幸せでいてほしいという思いから、離婚するという決断をいたしました」と悲痛とも言える決断を下したことを綴っています。

これまでの経緯から「しかし、私が未熟であるがゆえに、現状のままお相手と私自身を守り続けることは極めて難しく、耐え難いものでした。このような状況が続いていく可能性と、一時改善されたとしても再びこのような状況になってしまう可能性がある中で、これからの未来を考えたとき、お相手に幸せであってほしい、制限のない幸せでいてほしいという思いから、離婚するという決断をいたしました」と重大な決断をするに至ったとした。

引用:羽生結弦さん離婚発表「誹謗中傷やストーカー行為…お相手と私自身を守り続けることは極めて難しく」決断

一般的に、パートナー間で夫婦生活を継続していくことが困難になって離婚に至るケースがほとんどですが、このように、第三者の影響のために離婚せざるをえない状況に追い込まれてしまうということは離婚の形態としては例外的だと思います。

そこで、今回は「離婚」の「本質」について民法の観点から考えてみたいと思います。

離婚の方法

まずは離婚の方法について見てみましょう。民法は、夫婦の間に離婚の合意がまとまり、それを戸籍法の定めるところに従い届け出ることによって成立する協議離婚(民法763条)と民法の定める一定の離婚原因がある場合に離婚の訴えが認められ、判決によって成立する裁判離婚(同法770条)の二つの離婚を定めています。

民法763条(協議上の離婚)

夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

民法770条(裁判上の離婚)

1夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

羽生さんは、Xで「離婚するという決断をいたしました」とおっしゃっています。ひょっとしたら、まだ離婚届を役所に届け出ていないのかもしれません。もし、そうであれば、法的には離婚は成立していないことになります。

9割が「協議離婚」で離婚する

日本では、離婚の内、協議離婚は約90%を占めます。協議離婚は、離婚問題を当事者の自主的解決にゆだねます。離婚に対する国の介入を許さない点で、家族のプライバシーを守ることができる制度であるといえます。

協議離婚の前提条件

協議離婚は当事者同士の話し合いで解決を模索するため、当事者の対等性や離婚後のことに関して話し合えるだけの理性が双方にあることが前提条件となります。

協議離婚の問題点

夫婦や親子関係の調整を十分につけず、特に財産分与、子の養育費や離婚後の親子の交流についての協議が不十分なまま、離婚届を届け出てしまうケースが多く見受けられます。そのため、離婚後の特に妻の生活と子の福祉が十分に守れない結果を多く生み出しています。

もし、お互いに十分な話し合いがなされない内に、相手側から一方的に離婚届が届出されてしまうおそれがある場合は、不受理申出制度の利用も検討してみてはいかがでしょうか。

離婚の本質

結婚生活に不仲は起こりうるし、円満な夫婦生活に回復するように努力を強いることが不可能なことも当然あります。

破綻した、形式だけの婚姻は、婚姻外の性的関係(いわゆる「不倫」)を生むこともありうるなど婚姻の価値を否定することにもなりかねません。

破綻した婚姻から当事者を解放し、再婚や自立の自由を保障することが、民法が掲げる離婚の第一の目的です。つまり、お互いの「再生」が離婚の本質と言えます。

冒頭でご紹介したとおり、羽生夫妻の場合は、お互いの事情で不仲になったのではなく、第三者の心無い言動が原因で健全な結婚生活を営むことが困難になったため、離婚という選択を決断したようです。つまり、第三者によって破綻に追い込まれてしまったと捉えることができます。繰り返しになりますが、離婚に至る経緯としては例外と言えるでしょう。

離婚という決断に至るまでには、第三者には想像しがたい苦悩があったはずです。周りはこれ以上詮索することはやめて、お二人の再生を見守るに止めておくべきでしょう。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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