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坂上忍さんが「婚姻届」を提出~「婚姻届」でなにがどう変わるのか

竹内豊行政書士
坂上忍さんが「婚姻届」を提出しました。「婚姻届」で何がどう変わるのでしょうか。(写真:イメージマート)

坂上忍さんが先月下旬に役所に婚姻届を提出して結婚したことが報じられました。記事の中で坂上さんは次のようにコメントをしています。

◆ご結婚おめでとうございます。 「きょう(※9月下旬)籍を入れてきました。入籍日が何の日かも知らないです(笑)。調べてもないし。たまたまスケジュールが空いてたので」

◆坂上さんに籍を入れるというイメージがなかったので驚きました。 「僕もなかったよ。これだけ長い期間付き合っているから夫婦同然の内縁関係で、籍を入れるっていうハードルがそんなに高くなかったというか。ある種夫婦同然というか、籍が入っているか入っていないかだけだったので」

引用:坂上忍、交際14年“彼女さん”と再婚【コメント全文】 妻が初の“インタビュー出演”も

坂上さんと奥様は、坂上さんいわく「夫婦同然の内縁関係」だったとのことですが、婚姻届を提出したことで「夫婦同然」から法的な「夫婦」となりました。そこで、婚姻届を提出することで、何がどう変わるのか見て行きたいと思います。

届出なければ結婚なし

結婚するには、戸籍法で定める婚姻届を役所に提出しなければなりません(民法739条1項)。このように、民法は「届出なければ結婚なし」という届出婚主義を採用しています。

したがって、婚姻(法律では、「結婚」のことを「婚姻」といいます)の届出がなければ、いくら事実上の夫婦生活が続いていても、法的な婚姻にはなりません。

届出は、当事者双方および成年の証人2人以上から、口頭または署名した書面でしなければなりません(民法739条2項)。

民法739条(婚姻の届出)

1.婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

2.前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

婚姻の効果~婚姻届を出すと発生する権利・義務

そして、婚姻届を届け出ると、法律上、次のような権利と義務が生じます。

夫婦同氏(民法750条)

夫婦は、結婚の際に夫または妻の氏(法律では「姓」や「苗字」を「氏」と呼びます。)のどちらかを夫婦の氏として選択しなければなりません。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

同居協力扶助義務(民法752条)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助し合わなくてはいけません。

民法752(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

貞操義務

夫婦は貞操義務を負います(つまり、不倫はダメということ)。

実は、民法には、「婚姻をして、配偶者がいる者は不倫をしてはならない。」といった、不倫を直接禁止する条文はありません。

しかし、次の3つの条文から、「夫婦は互いに貞操義務(配偶者がいる者が、配偶者以外の者と性的結合をしてはいけないこと)を負う」という不倫禁止が導き出されます。

1.重婚が禁止されている(民法732条)

民法732条(重婚の禁止)

配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

ここでいう「婚姻」とは、戸籍に表れる関係のことです。法律上の配偶者がいる者が、別の異性と事実上の夫婦生活を営んでも、重婚にはなりません。

2.「同居」「協力」「扶助」の3つの義務が規定されている(民法752条)

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

3.不貞行為が離婚原因になる(民法770条1項1号)

民法770条1項1号(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一、配偶者に不貞な行為があったとき。

不貞行為とは、貞操義務に反する行為です。つまり、夫または妻以外の人と性的関係を持つ行為です。不貞行為が離婚の原因になるのは、道徳上当然の効果といえます。

ちなみに、民法770条は、離婚の原因として、「配偶者の不貞な行為」の他に、次の場合を挙げています。

二、配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三、配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。

四、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

(以上民法770条1項2号~5号)

以上3つの条文に加えて、一夫一婦制という結婚の本質からしても、夫婦はお互いに貞操義務を負うとされています。

夫婦間の契約取消権(民法754条)

夫婦は結婚期間中に締結した夫婦間の契約を、結婚期間中はいつでも、何の理由もなしに一方的に取消すことができます(ただし、第三者の権利を害することはできません)。

民法754条(夫婦間の契約の取消権)

夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

その他にも、

・姻族関係の発生(民法725・728条)

・子が嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子、つまり夫の子)となる(民法772・789条)

・配偶者の相続権が認められる(民法890条)

などがあります。

ご覧いただいたように、婚姻届を届け出ることによって、様々な権利や義務が発生します。制約があってなんだか重苦しく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、制約があるからこそ継続的・安定的に夫婦関係が保てるということもあると思います。そういったことも理解して婚姻届を届けることが夫婦円満の秘訣のひとつになるかもしれませんね。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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