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坂上忍さんが結婚!~事実婚と法律婚の違いは?相続は?残した遺言はどうする?

竹内豊行政書士
坂上忍さんが結婚したことが報道されました。(写真:イメージマート)

俳優・坂上忍さん(56)が結婚したことが報道されました。

俳優・坂上忍(56)が結婚したことが26日、分かった。お相手は坂上が常々「彼女さん」と呼ぶ女性で、14年にわたって交際を続け、これまでも度々話題に上がっていた。坂上にとっては再婚となる。自身がMCを務める27日放送のフジテレビ系冠番組「坂上どうぶつ王国」(金曜、後7・00)の2時間スペシャルでサプライズ発表する。

引用:坂上忍が結婚 お相手は話題の交際14年“彼女さん”ロケ中に電撃告白「籍入れてきた」

実は、坂上忍さんは2020年10月にMCを務めていたフジテレビ系「バイキングMORE」で、事実婚のパートナーの方に死後に財産を承継させるために遺言(公正証書遺言)を残していることを明かしています。そこで、今回は事実婚と遺言の関係、そして遺言を残した後のことについてお話ししたいと思います。

「事実婚」とは

まず、事実婚とは何か見てみましょう。1980年代後半から、自分たちの主体的な意思で婚姻届を出さない共同生活を選択するカップルが社会的に広がり始めました。代表的な理由は次のようなものがあります。

・夫婦別姓の実践

・家意識や嫁扱いへの抵抗

・戸籍を通じて家族関係を把握・管理されることへの疑問

・婚姻制度の中にある男女差別や婚外子差別への反対

・結婚観が民法の規定する婚姻関係に合わない  など

このような理由で当事者が主体的に婚姻届を出さないことを選択して共同生活をするカップルの関係を事実婚と称します。今後は、「ライフスタイルの自己決定権」を理由に、事実婚を選択するカップルが増えることが予測されます。

「法律上の夫婦」ではない

さて、民法の規定では、婚姻は、婚姻届を役所に届け出ることによって成立すると規定しています。

民法739条(婚姻の届出)

1.婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

2.前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

したがって、事実婚は、婚姻届を出さない共同生活のため、外形上は夫婦でも、「法律上の夫婦」ではありません。

そして、近代的な法制度では、家族の基礎となる婚姻を法の規制と保護の対象とし、婚姻外の関係については、「同居・協力・扶助義務」(民法752条)や「夫婦同氏」(民法750条)等の法的規制もしない代わりに法的保護もしないという立場をとります。

「法律上の夫婦」に認められて「事実婚の夫婦」には認められないもの

法律上の夫婦は保護されるが、事実婚を選択したパートナーには認められないことの一つに相続権があります。

役所に婚姻届を提出した婚姻関係の夫婦は、常に相続人になります。婚姻関係にあれば、婚姻関係が破綻して「仮面夫婦」であろうが長期間別居をしてようが相続権は発生します。

民法890条(配偶者の相続権)

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。(以下省略)

一方、事実婚を選択したパートナーは、いくら仲良く暮らしていても、パートナーが死亡した場合、相続権は発生しません。つまり、法定相続分はゼロです。

死後に「事実婚」のパートナーを保護するためには

このように、婚姻関係にある夫婦と比べて事実婚を選択したパートナーは相続法に関しては法的に保護されません。そこで、死後にパートナーに財産を承継させるためには、遺言を残すことが必要になります。

民法964条(包括遺贈及び特定遺贈)

遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

このように、遺言を残すことで、相続人ではない事実婚のパートナーにも死後に財産を承継させることが可能となるのです。

坂上さんは、相続人ではない事実婚のパートナーに財産を承継させるために遺言を残したと考えられます。

遺言は作り直すことができる

遺言は遺言を作成した人(「遺言者」といいます)が亡くなったときから効力が生じます(民法985条)。

民法985条(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

そのため、遺言を作成したときと効力が発生するとき(つまり遺言者が死亡したとき)では、事情や状況が変わっていることがあります。坂上さんの場合、遺言を残したときは事実婚でしたのでお相手の方は相続人ではありませんでした。今回結婚(入籍)されたことで配偶者になり相続人となりました(民法890条)。

民法890条(配偶者の相続権)

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。(以下略)

遺言はいつでも撤回(完全に有効な行為を将来に向かってのみ効力を失わせること)ができます(民法1022条)。

民法1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

あわせて、何度でも作成し直すことができます。

一度残した遺言書も事情や状況が変わったら、撤回した上で新たに作り直したほうがよいかもしれません。

何はともあれ、坂上ご夫妻の末永いご多幸を心よりお祈り申し上げます。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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