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「えっ!なんで私が叔父の借金を背負うの?」~「生涯未婚率」急増で知らぬ間に相続人になる恐怖

竹内豊行政書士
生涯未婚率の増加で知らぬ間に相続人になるケースが増えそうです。(写真:イメージマート)

突然届いた叔父の借金の督促状

山下健一さん(仮名・48歳)が在宅勤務で自宅で仕事をしていたある日、チャイムが鳴ったのでインターフォンを取ると「内容証明郵便のお届けに参りました」と言うではありませんか。そこで、玄関に出て郵便を受け取り、早速開封するとそれは貸金業者からの「支払督促状」でした。まったく心当たりがない健一さんは「新手の詐欺に違いない」と思いその場で破り捨てようとしましたが、気になって一応読んでみることにしました。するとそこには、「叔父の山田寅次郎さん(仮名・享年76歳)が半年前に死亡したので相続人として、寅次郎さんが当社から借りた500万円を健一さんが相続人として1か月以内に返済せよ」という内容でした。

音信不通だった叔父

寅次郎さんは放浪癖があり、20年程前から音信不通になっていました。両親の葬儀にも連絡が付かず参列しませんでしたし、唯一の兄弟である健一さんの父・龍太郎さん(仮名・享年79歳)が1年前に死亡したときも同様に参列しませんでした。

知らぬ間に「代襲相続人」になっていた

内容が理解できなかった健一さんは、内容証明に書かれてある貸金業者に電話をしました。すると、次のような説明がありました。寅次郎さんは死亡時に配偶者も子どももおらず、両親も死亡しているため、相続人は兄である健一さんの父・龍太郎さんになりましたが、その龍太郎さんも寅次郎さんより先に亡くなっていたので、兄・龍太郎さんの子(寅次郎さんの甥)である健一さんが代襲相続人になったということでした。

「代襲相続」とは

代襲相続とは、被相続人(死亡した人)の死亡以前に、相続人となるべき子や兄弟姉妹が死亡したり、相続欠格や相続廃除を理由に相続権を失ったときに、その者の子がその者に代わって、その者の受けるべき相続分を相続することをいいます(民法887条2項)。つまり、健一さんは代襲相続人として叔父の残した負の遺産を引き継ぐことになったのです。

生涯未婚率の増加で代襲相続は今後増える可能性大

国立社会保障・人口問題研究所によると、50歳までに一度も結婚しない人の割合を表した「生涯未婚率」は、1980年に男性が2.6%、女性が4.5%でした。それが2020年には男性がほぼ3人に1人の28.25%、女性が17.81%にまで上昇しました。

そうなると、死亡時に配偶者(夫・妻)も子もおらず、両親も死亡している結果、兄弟姉妹が相続人になるという相続が増えてくることが予測できます。そして、兄弟姉妹の中で既に先に死亡している人がいる場合、その人の子、すなわち、被相続人の甥・姪が代襲相続人として相続人になるケースが増えると予測できます。

「笑う相続人」ならよいのだけど・・・

代襲相続人は「笑う相続人」と呼ばれることがあります。それは、思いもよらなかった叔父や叔母の相続人になった結果、想定外の遺産を手にして笑いが止まらないといったことからそう言われています。しかし、健一さんのように、負の遺産を背負ってしまうリスクもあります。そうなると「泣く相続人」になってしまいます。万一、泣く相続人になってしまったら相続放棄という救済措置がありますので、法律専門家や家庭裁判所に相談してみてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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