Yahoo!ニュース

しまった!お墓のこと忘れてた・・・。「田中家」の墓を「佐藤さん」は引き継げるのか!?

竹内豊行政書士
お墓を引き継ぐ人に、制限はあるのでしょうか?(提供:イメージマート)

田中修一さん(仮名・78歳)は、ここ数年、終活に励んでいました。やっと目処が立ったので、終活の締めくくりとして遺言を残すことにしました。そこで、知人の行政書士に相談することにしました。

盲点だったお墓の引き継ぎ

修一さんは行政書士に、自宅の土地と建物は妻に、金融資産は妻に8割、2人の子どもの長男と長女に1割ずつ残し、残りの全てを妻に残すことを伝えました。すると、行政書士から思いがけない質問を受けました。

「もし、お墓をお持ちでしたら、お墓はどなたに引き継いでもらいますか?」

まさに盲点でした。財産の残し方ばかり考えていて、お墓について考えたことがなかったのです。それに、長男が引き継ぐのが当たり前と考えていたことも原因でした。しかし、長男はイギリスに留学して、そのままイギリスで就職し、現地で知り合ったイギリス人と結婚して「日本に戻るつもりはない」と言っています。長男に墓を継がすのは現実的ではありません。

長女は地元の短大を卒業後、保育園で働いています。長女の夫は地元の役所に勤めているから転勤はありません。長女は近所に住んでいるし、長女に引き継いでもらうのがベストです。しかし、長女は結婚して姓が田中から佐藤に変わっています。田中家の墓を姓が変わった長女が引き継げるとは思えません。このように、順調に進んでいた終活が、お墓問題で暗礁に乗り上げてしまったのでした。

お墓を引き継ぐ者に制限はあるのか

民法は、お墓などの祭祀財産の引き継ぎを、897条で規定しています。

897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

このように、897条1項で、お墓や系譜、祭具などを引き継ぐ人を「祖先の祭祀を主宰すべき者」とし、2項は「権利を承継すべき者」と規定するだけで、祭祀を継承する人(「祭祀承継者」といいます)になることができる者の範囲を限定する文言を民法は特に設けていません。そのため、祭祀承継者をめぐって争うこともあります。そこで、判例を見てみることにしましょう。

・祭祀承継者は、被相続人と親族関係があることや氏(姓)を同じくすることを必要としないとした事例

・祭祀を主宰する者とは、風俗習慣により定まるものであって、相続人とは限らず、また、相続人でなければならないということもないとされた事例

・被相続人所有の祭具、墳墓および墓地を事実上管理、供養している被相続人の内縁の夫の孫が祭祀財産の承継者と指定された事例

以上の判例から、祭祀財産を承継するのに最も適した者であれば、特に制限はないものと解されます。

このことから、田中家のお墓を、結婚して姓が佐藤に変わった長女が引き継ぐことは、問題ないと考えられます。

終活は財産だけではありません。お墓をお持ちの方は、だれが引き継ぐのにふさわしい者かを考えてみることをお勧めします。

※この記事は、民法と判例を基にしたフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事