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なんてことだ!あと1人で協議が成立したのに~知っておきたい「遺産分割協議書」の裏ワザ

竹内豊行政書士
遺産分けで知っておくと便利なワザをご紹介します。(写真:イメージマート)

亡くなった方が遺言書を残していないと、遺産を引き継ぐのに相続人全員で遺産の分け方を協議して合意しなければなりません。その合意の証しとして遺産分割協議書を作成ます。今回は遺産分割協議書の作成で知っておくととても便利な方法をご紹介します。

警察からの突然の電話

山田次郎さん(仮名・58歳)は6人兄弟の末っ子です。ある日、A警察から自宅に電話が入りました。あわてて対応すると「突然お電話差し上げて失礼します。A警察の加藤(仮名)と申します。山田一郎さん(当時76歳・仮名)はお兄さんでよろしいでしょうか?」と、20年以上も会っていない長兄の名前が耳に入ってきました。警察によるとポストに郵便物が溢れていたのを不審に思った大家さんが警察立会いのもと、室内に入ると一郎さんは一人住まいのアパートで孤独死をしていたというのです。次郎さんは一郎さんがアパートを借りるときに連帯保証人になりました。その賃貸借契約書に次郎さんの連絡先が書いてあったので次郎さんに連絡が入ったのでした。

残されていた通帳

次郎さんは2日後に一郎さのアパートに行き、警察官と室内の遺品を改めてました。すると、財布から現金約1万円と通帳が1通出てきました。通帳を開くと約300万円の預金が記されていました。

相続人は20人

それから1か月ほど経ちました。「そろそろ預金の払い戻しもしないといけないな。自分も立替払いを100万ほどしているし・・・」と思い、忙しい合間をぬって相続人がだれであるかを一郎さんの戸籍謄本を集めて調べてみました。一郎さんは生涯独身で子どもがいませんでした。既に両親は死亡しています。そのため、兄弟姉妹と既に死亡している兄弟姉妹の子ども(つまり甥・姪)が相続人となり、その数は20人にも達しました。その中にはもう何十年も会っていない顔も思い出せない甥や姪まで含まれていました。

このように相続人の範囲が広範囲におよんでしまったため、すべての戸籍がそろったのは始めてから実に3か月後でした。

遺産分割協議を行う

次に、次郎さんは相続人全員に、一郎さんが死亡したことと、遺産が300万円ほどあること、自分が死後の清算や葬儀代など100万円ほど立替えているので、300万円から100万円を除いた200万円を均等に配分したいので合意してほしいという内容の手紙を出しました。幸い手紙を出してから10日程で全員から「合意する」という電話が入りました。

まさかの展開!~最後の一人が遺産分割協議書を破棄

次郎さんは、合意内容を遺産分割協議書に記し、一人ひとりに送っては署名押印して印鑑証明書とともに返信しもらいました。そして、3か月後、いよいよ最後の一人を残すまでになりました。毎日まだかまだかと書類の返信を待ちかねていると、その最後の1人から信じられない電話が入ってきました。

「すいません、もらった書類を失くしてしまいました。どうやら間違ってシュレッダーにかけてしまったようです。申し訳ないですが、もう一度送ってくれませんか」

そうです、19人の署名押印された遺産分割協議書は最後の一人で闇に葬られてしまったのです。また一からり直さなければならないと思った瞬間、次郎さんはめまいにおそわれました。

こうすればよかった

遺産分割協議書には相続人全員から署名押印をもらう必要があります。数名なら1枚の協議書に全員から署名押印をもらえばよいのですが、相続人が多数となるとそうもいきません。では、どうすればよいでしょうか。それは、同一内容の協議書を相続人の人数分作成して、相続人一人ひとりに届けて署名押印してもらえばよいのです。前述のケースでは、遺産分割協議書を人数分、つまり20枚コピーして、一人ひとりに郵送して署名押印をしたものを返信してもらえばよかったのです。そうすれば、万一紛失や汚損してしまっても、その人だけ作成し直せばよいのです。

今日ご紹介した方法は、相続人が多数になる場合はとても便利です。そのような場面に遭遇したらぜひご活用ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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