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「預金が下せない!」~「口座凍結」の理由と対策

竹内豊行政書士
なぜ死亡すると預金口座は止められてしまうのでしょうか。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

預金者が死亡すると預貯金の入出金や口座振替ができなくなる場合があります。これを「口座凍結」といいます。

口座が凍結されてしまうと、被相続人(死亡者)の預貯金から葬祭費用や入院費用等の工面をしようとしてもできなくなってしまいます。また公共料金等の自動引き落としもできなくなります。

被相続人の預貯金で生計を立てていた配偶者は口座凍結により生活に支障が出てしまうことにもなりかねません。

銀行が口座を凍結する理由

なぜ銀行は口座開設者の死亡を知ると預金を凍結するのでしょうか。

遺産である預貯金債権は遺産分割の対象になります。したがって、遺産分割までの間は、相続人単独での払戻しはできません(平成28年12月最高裁判所判決)。

そのため、銀行が、何らかの方法により口座開設者の死亡を知った場合には、法的に預貯金の承継が決まるまで払戻しを防止する必要があります。銀行が口座開設者の死亡を知るケースは次のような場合があります。

相続人からの連絡により知るケース

・相続人が相続手続のために来店した

・相続人からの電話

業務で知るケース

・斎場の看板で預金者の氏名を見かけた

・得意先回りで預金者死亡の情報を得た

マスコミの情報で知るケース

預金者が著名人であるなどの理由により、その死亡が新聞やテレビの報道等で公知の事実となっている場合には、一般に相続人等からの死亡の連絡がなくても、銀行が預金者死亡の事実を知った時点で直ちに預金を凍結します。

その他

・所轄の税務署から預金者の照会を受けた

・他の金融機関から預金者死亡の連絡が入った

銀行が預金者の死亡の事実を知ったにもかかわらず、預金の入出金停止措置をとらなかったために、払戻しがなされた場合には、銀行は免責されず、払戻しした額と遺産分割や遺言執行による払戻しの両方の払戻しをしなければならない場合が発生するおそれがあります(いわゆる「二重払いのリスク」)。

つまり、二重払いのリスクを回避するために、相続人等から預金者死亡の連絡を受けたり、マスコミの情報等で預金者の死亡を知った場合は、銀行は直ちに全店での入出金停止措置(口座凍結)を実行するのです。

口座凍結を解除する方法

いったん口座が凍結されてしまうと、一定の手続を経ないと払戻しできません。

遺言がない場合、払戻しをするには、まず相続人全員でだれがどの遺産をどれだけ承継するかを話合いで決めます(この話し合いを「遺産分割協議」といいます)。その上で、銀行所定の手続きを行います。

遺産分割協議は多数決では成立しません。あくまでも相続人全員の合意が必要です。したがって、相続人の内の一人でも遺産分けの内容に反対するといつまで経っても口座は凍結されたままで払戻しができない状態が続いてしまいます。

なお、通常、遺産分割協議を開始してから払戻しが完了するまで、スムーズにいっても2か月程度を要します。

被相続人のキャッシュカードで預貯金を払戻した場合の注意点

被相続人の死亡が銀行に伝わらなければ、口座は凍結されません。そのため、たとえば、親の死亡後に親のキャッシュカードの暗証番号を知っている相続人がなんらかの理由で預貯金を払戻すことがままあります。

被相続人の預貯金口座から払戻した現金は相続財産です。したがって、遺産分割の対象となります。その場合は、払戻したお金の使途を領収書を取るなどして明確にしておきましょう。そして遺産分割協議の際に相続人全員に公開します。それを怠ると、たとえそのお金で被相続人の入院費や葬儀代を支払ったとしても、他の相続人が「親の遺産を勝手に引き出して遺産の取り分を増やしたのではないか」という疑念をいだくかもしれません。十分注意しましょう。

実は、遺産分割前でも相続人が単独で相続預貯金を払戻しできる制度があります。詳しくは、「預金が下せない!」~「口座凍結」の対抗手段はこれだ!をご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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