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「預金が下せない!」~「口座凍結」の対抗手段はこれだ!

竹内豊行政書士
預金者死亡による口座凍結の対抗手段をご紹介します。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

預金者が死亡すると預貯金の入出金や口座振替ができなくなる場合があります。これを「口座凍結」といいます。

口座が凍結されてしまうと、被相続人(死亡者)の預貯金から葬祭費用や入院費用等の工面をしようとしてもできなくなってしまいます。また公共料金等の自動引き落としもできなくなります。

被相続人の預貯金で生計を立てていた配偶者は口座凍結により生活に支障が出てしまうことにもなりかねません。

「口座凍結」解除に2か月程度もかかる

では、口座の凍結を解除するにはどうしたらよいでしょうか。

遺言ない場合、相続預貯金の払戻しをするには、まず相続人全員でだれがどの遺産をどれだけ承継するかを話合いで決めます(この話し合いを「遺産分割協議」といいます)。その上で、銀行所定の手続きを行います。

遺産分割協議を成立させるには相続人全員の合意が必要です。したがって、相続人の内の一人でもその内容に反対すると口座は凍結されたままで払戻しができない状態が続いてしまいます。

また、遺産分割協議が成立しても、銀行にだれが相続人であるか証明するために戸籍謄の束を提出しなければなりません。その他、相続人全員が署名押印した遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書も必要です。さらに銀行所定の相続届に相続人全員が署名押印しなければならないなど面倒な手続きが待ち構えています。そのため、通常、遺産分割協議を開始してから払戻しが完了するまで、スムーズにいっても2か月程度を要します。

遺産分割前に預貯金を払戻せる制度がある

以上ご覧いただいたとおり、口座が凍結されてしまうと被相続人の預貯金を払戻すためには遺産分割協議を成立させて、なおかつ銀行に対して払戻手続を行わなければなりません。これでは被相続人の預貯金を当てにしている相続人にとっていかにも気の毒です。

そこで、民法は、従来相続人全員による遺産分割協議を経なければ相続預貯金の払戻しができない法制度を改正し、遺産分割が成立する前でも相続人が単独で相続預貯金を払戻すことができる制度を設けました(民909条の2)。

払戻し可能金額

この制度を利用すると、各相続人は、原則として、遺産に属する預貯金債権のうち、次の計算式で算出される額を払戻すことができます(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、150万円を限度とします)。

【計算式】

単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

【事例】

遺産のうち、A銀行の普通預金に300万円、A銀行の定期預金に240万円あった場合で、法定相続分が2分の1である相続人が単独で権利行使をすることができる金額

普通預金:300万円×1/3×1/2(法定相続分)=50万円

定期預金:240万円×1/3×1/2(法定相続分)=40万円

この結果、A銀行から遺産分割前に50万円と40万円の合計90万円の払戻しを受けることができます。

冒頭で述べたとおり、お身内が亡くなられると、医療費や葬儀費用など火急の出費が生ずることがあります。また、生活に支障が出てしまうこともあります。そのような場合に、今回ご紹介した「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」は役立ちます。いざという時に備えてぜひ覚えておいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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