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衝撃の相続 「再転相続」の恐怖 遺産分けをする前に相続人が突然死

竹内豊行政書士
遺産分けをする前に、相続人が死亡してしまったら相続はどうなるのでしょうか。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

相続は「まさか!」の衝撃の場面に出くわすことがあります。今回は衝撃の相続の中から「再転相続」を紹介します。

父の死

田中誠一さん(仮名・55歳)は半年前に父昭一さん(仮名・享年87歳)を亡くしました。死因は大腸癌でした。

誠一さんは妻と一人息子と両親と同居していました。そして、誠一さんは妻の明美さんと昭一さんを癌が発覚してから1年間看病をしました。

残されなかった遺言書

昭一さんは、晩年「お前に全財産を残すから、母さんを頼むよ」と言っていました。「遺言を残してくれないかな」と頼みましたが、病状が悪化してしまい、結局遺言を残さぬまま亡くなってしまいました。

遺産分けを行う

誠一さんは、葬儀や法要、納骨も済んだので、遺産分けをすることにしました。昭一さんが亡くなってから1年が過ぎようとしていました。

相続人は、誠一さんの他に、母澄恵さん(仮名・85)と妹の智美さん(仮名・51)の以上3人です。

遺産は、同居している土地・建物(約3千万円)と預貯金約1千万円の合計約4千万円です。

母の澄恵さんは「私は年金で生活できるから遺産はいらないよ」と言ってくれました。妹の智美さんは「兄さんと義姉さんがお父さんの介護をしてくれたし、これからお母さんの介護もあるからお金がかかるよね。私には子どもがいないし、仕事もしているから私はいらないわ」と言ってくれました。

正直、妹の申出はありがたいものでした。澄恵さんはここ数年、足腰がめっきり弱くなってバリアフリーにリフォームしなければならなかったからです。業者からの見積は500万円と予想以上でした。それに、これからの母の介護を考えるとお金は必要でした。

そこで、誠一さんはありがたく母親と妹の申し出を受け入れることにして、自分が全ての遺産を取得する内容の遺産分割協議書を作成しました。

妹の突然の死

今度の日曜日に妹が家に来て遺産分割協議書にサインをすれば協議成立のはずでした。しかし、約束の時間になっても智美さんは現れませんでした。携帯に電話を入れても留守番電話になってしまいます。なにやら嫌な予感がしたその時、智美さんの夫の浩二(仮名)さんから電話が入りました。浩二さんは切羽詰まった声で、「義兄さん、大変です。智美が朝起きたら死んでいたんです。今、警察が来て現場検証をしています」。なんと智美さんは突然死してしまったのです。

相続人はだれになる

智美さんには夫の浩二さんがいて二人の間には子どもはいませんでした。昭一さんの遺産分けが済まない内に智美さんが死亡してしまった結果、妹の亡父の相続分は「妹の相続人」が相続することになりました。

亡父の各相続人の相続分は、妻の澄恵が2分の1,子どもの誠一さんと亡智美さんが各4分の1でした。

智美さんの相続人は夫の浩二さんだけでした。したがって、亡智美さんの亡父の4分の1の相続分は、そのまま浩二さんに引き継がれることになりました。

一転「争族」に

誠一さんは、亡妹の四九日の法要が終わって数日後、義理の弟の浩二さんに亡父の遺産分割協議書に署名をもらえないかと相談しました。昭一さんが亡くなってから既に1年半が過ぎていました。

誠一さんは、すんなりと署名をもらえるものと思っていましたが、「法的な権利は行使します」という想定外の答えが返ってきました。

浩二さんの主張を認めると、亡父の約4千万円の遺産の4分の1の約1千万円相当の遺産を渡さなくてはならなりません。

不動産を共有することは現実的ではありません。そのため、現金の1千万円をそのまま渡さなくてはならない可能性もあります。誠一さんは頭を抱えてしまいました。

被相続人が死亡した後、さらに相続人が死亡した場合(再転相続)

以上ご紹介したように、遺産分割がまだ終わらない内に、相続人の一人が死亡してしまう場合があり得ます。この場合、遺産は、死亡した相続人に、法定相続分に応じて承継されることになります。この結果、「死亡した相続人の相続人」を含む相続人全員によって遺産分割協議をした上で、相続財産を承継することになります。

このように、遺産分割協議が成立する前に、相続人の一人が死亡した場合、遺産は、「死亡した相続人の相続人」(=「再転相続人」といいます)に、法定相続分に応じて承継されることになります。このことを再転相続といいます。

再転相続は被相続人と関係の薄い者が相続人となることが多いため、遺産分割協議が難航する可能性がどうしても高くなってしまいます。

遺産分けは速やかに!遺言の活用も

遺産分けをするまでに時間がかかってしまうと、再転相続が発生する可能性は高くなります。また、一般的に遺産分けに時間がかかればかかる程、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)が難航する傾向にあります。

遺産分割協議はお金と血が絡む複雑な話し合いになります。しかも、面倒な法的な手続きもあります。そのため、気が進まず放置してしまうケースも多いようです。しかし、円満な相続を行うためにもできるだけ速やかに行うことが肝心です。

また、遺言があれば遺産分割協議を経ないで遺産を承継できます。状況によっては親に遺言書を残してもらうように勧めてみることも必要でしょう。

「衝撃の相続 夫が死後に落とした「遺言認知」の紙爆弾が炸裂!」「衝撃の相続 「見知らぬ相続人」が突然現れた 死後に発覚した夫の知られざるまさかの過去」も合わせてご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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