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前田敦子さんの「離婚」を「前向き」にとらえる思考法~離婚の2つの目的

竹内豊行政書士
前田敦子さんは離婚を前向きにとらえているようです。(写真:つのだよしお/アフロ)

4月23日、自身のSNSで離婚したことを明かした前田敦子さんが勝地涼さんとの協議離婚を進めている間に、「将来やりたいこともたくさんある」と明るい表情で知人に語っていたと報道がありました(参考:前田敦子、勝地涼との離婚も早すぎる切り替え「やりたいことたくさん」)。

離婚とは夫婦が法的に夫婦関係を解消することを意味します。つまり別れです。そのため、離婚から暗いイメージを連想しがちですが、前田さんのように希望につながる制度と位置づけることもできます。

そこで、今回は、離婚の目的を民法の観点から考えてみたいと思います。

離婚の2つの目的

離婚には次の2つの目的があると考えられています。

「やり直しの自由」を保障する

人と人との結合である結婚生活に不仲は起こりうるし、円満な夫婦生活に戻そうと努力を強制することが不可能なことも当然あります。

破綻した、形だけの結婚は、夫や妻以外との性的関係を生むこともあり、結婚の価値をかえって否定することにもつながります。

そこで民法は、夫婦の間に離婚の合意がまとまり、それを戸籍法の定まるところに従って届け出ることで成立する協議離婚(民法763条)と、民法の定める一定の離婚原因がある場合に離婚の訴えが認められ、判決によって成立する裁判離婚(民法770条)を設けました。

民法763条(協議上の離婚)

夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

民法770条(裁判上の離婚)

1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

このように、破綻した結婚から当事者を解放し、再婚や自立の自由を保障すること、いわば「やり直しの自由」を保障することが、民法が掲げる離婚の第一の目的といえます。

「不公正な結果」を防止する

お互いに「夫婦としてやっていけない」と判断することほど、明白な結婚生活の破綻はありません。そこで、日本では、明治時代から、夫婦の合意だけで離婚ができる協議離婚制度がありました。しかし、明治民法の下では、妻に協議離婚届書に署名するように強制して、家の嫁としてふさわしくないとする妻、夫の気に入らない妻を、一方的に追い出す「追い出し離婚」が行われていました。ここでは、「やり直しの自由」は夫にしかありませんでした。このような離婚から生じる不公正な結果を防ぐことが、法が掲げる離婚の第2の目的です。

離婚制度の見直し

このように、民法がかかげる離婚の目的には「やり直しの自由」の保障と「不公正な結果」の防止の2つがあります。

しかし、現実は、離婚後の多くの女性や母子の生活は楽ではありません。また、離婚父子の場合も、父が子の扶養のために転職を余儀なくされたり残業ができなくなって収入減につながってしまったり、勤務形態によっては子の監護ができなくなってしまうことが少なくありません。

そこで、「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み、子の利益の確保等の観点から、離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」として、先月3月30日に法制審議会家族法制部第1回会議が開催されました。これにより、民法がかかげる離婚の目的が「絵に描いた餅」ではなく実現可能になることが期待されます。

冒頭にご紹介した記事では、前田さんは離婚を前向きにとらえているように感じられます。まさに法が掲げる「やり直しの自由」の実現といったところでしょうか。前田さんの今後の活躍に注目です。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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