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日本マクドナルド元社長「原田泳幸」氏が「妻への暴行」容疑で逮捕~配偶者へ暴力を振るうとどうなるか

竹内豊行政書士
「配偶者への暴力」を民法の観点から探ってみます。(写真:YUTAKA/アフロ)

“プロ経営者”として知られる「日本マクドナルド」元社長で現在「ゴンチャジャパン」の会長兼社長の原田泳幸氏が、妻の歌手谷村有美さんに暴力を振るったとして逮捕されるという衝撃のニュースが報道されました。

自宅で妻に暴力を振るったとして、警視庁渋谷署が「日本マクドナルド」元社長の原田泳幸容疑者(72)を逮捕したことが6日、同署への取材で分かった。認否を明らかにしていない。妻はシンガー・ソングライターで歌手の谷村有美(55)。逮捕容疑は5日、都内の自宅で谷村の足を殴るなど暴行した疑い。ゴルフの練習器具で殴りつけたとの情報もある。谷村とは2002年に結婚した。同署によると、谷村から通報を受け、原田容疑者に事情を聴いていた。詳しい経緯を調べている。

引用:日本マクドナルド・原田元社長を逮捕 歌手の妻・谷村有美に暴行容疑

そこで今回は、民法が規定する離婚事由と「配偶者への暴力」について考えてみたいと思います。

配偶者への暴力は「離婚事由」に該当する

民法は、770条に裁判上の離婚原因を規定しています。すなわち、夫婦間で離婚の合意ができない場合でも、本条が定める離婚原因があるときは、夫婦の一方は、訴えにより婚姻を解消できます。

民法770条(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

このように本条は、具体的に次の4つの離婚原因を掲げています。

1.配偶者に不貞な行為があったとき。

2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。

3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは

そして、最後に抽象的な離婚原因として「その他婚姻を継続し難い重大な事由」を規定しています。

この「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、配偶者(夫または妻)の一方が相手方に対する愛情を喪失し、相手方の行動、性格や生活環境などから、相手の顔を見るのも嫌なほど婚姻を継続し難いと感じるようになった場合と考えられます。

判例で5号にあたるとされた理由としては、次のようなことが挙げられます。

1.暴行・虐待(DV)

2.同居に耐えられないような重大な侮辱

3.犯罪行為

4.夫婦の協力扶助義務に著しく違反するような行為(浪費癖、勤労意欲の欠如、家庭をかえりみないなど)

5.性生活の不一致(性交不能、正当な理由のない性交拒否、異常な性行為の要求など)

6.精神的な理由(お互いの性格、人生観や生活感覚の不一致、愛情の喪失など)

7.他方配偶者の親族との不和 など

これらの事情に加えて、2~3年程度の別居があれば、5号に該当すると判断されやすい傾向があります。

「暴行・虐待」の裁判事例

暴行・虐待を「婚姻を継続し難い重大な事由」とした裁判事例をご紹介します。

離婚を認めた事例

・繰り返しての暴行

・妻が夫に対して一晩中タオルを持っただけでの裸でベランダに放置し、子ども用二段ベッドで就寝することを強要し、背広やネクタイをハサミで切ったり、就寝中にペーパーナイフを持って襲いかかり腕や額に軽傷を負わせ、水やみそ汁、ミルクの類をかけたりする虐待行為を行った

・夫がテーブルを傾け、妻に対しスリッパを投げつけるといった程度の暴行でも、夫にはそれまでも粗暴な言動があり、前述の暴行が原因となって妻が家を出て3年以上別居している

・被告である夫が妻に対してだけでなく、子に対しても暴力をふるっていた(夫は不貞行為もしていた)

離婚を認めなかった事例

・被告である妻が夫に傷害を負わせたという場合、それが夫の不貞行為に起因した偶発時であるというときは、夫の離婚請求を棄却した

・それまでに暴力を加えたことがなかった夫が妻を転倒させ、首を絞めたりしたという場合に、それは子の結婚問題についての意見の対立、夫婦の宅地建物の権利証を妻が持ち去ったことに基因するとして、別居が3年に及んでいても妻の請求を棄却した

これらの棄却事例は、問題となった暴行の程度にもよると思われますが、原告配偶者に暴行を誘発する要因があったことを重視したと考えられます。

暴行・虐待は、それ自体重大な法益侵害行為です。事情はともかく、絶対に行ってはならない行為であることは間違いありません。これはもちろん「夫婦」という関係でも例外ではありません。夫婦関係を継続していく中では、様々なことが起きて、頭に血が上ることもあるかもしれませんが、このことをくれぐれもお忘れなく。

参考文献:『家族法 第5版』(新世社 二宮周平)、『新注釈民法(17)親族』(有斐閣)、『判例民法9親族』(第一法規)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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