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「相続人不存在」で遺産「603億円」が国庫に~「生涯未婚率」過去最高・「少子高齢」が背景か

竹内豊行政書士
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

産経新聞が行った最高裁への取材で、財産を残して死亡したものの相続人がおらず、換金の末に国が引き取った遺産の額が昨年度は603億円に達し、わずか4年の短期間で約1.4倍に急増したことが分かりました。

行き場のない遺産~相続人不存在

相続人がいない場合(「相続人不存在」といいます)、遺産はどうなるのか見てみましょう。

相続人がいる場合

まず、相続人がいる場合を見てみましょう。人が死亡するとその瞬間に相続人について相続が開始します。その結果、被相続人(亡くなった方)の遺産は相続人が複数いる場合は、相続人による共有(注)が始まります。

(注)共有とは、数人が持分(共同所有の割合)を有して1つの物を共同所有する場合であり、かつ各自の持分が明確になっているものをいいます。共有物を売却など処分する場合は、共有者全員の同意が必要であるなど(民法251条)、共有のままだと不便を来すことがあります。

そして、「配偶者は常に相続人になる」など、だれが相続人となるかは民法で規定されています。また、各相続人の持分(「法定相続分」といいます)も、民法で規定されています。

ただし、法定相続分のとおりに遺産が承継されることはまれで、実際は、「だれが、何を、どれだけ」取得するのかを相続人全員で話し合って決めることになります(この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます)。

「相続人がいない」とどうなるか~最終的に「国庫」に入る

では、相続人がいない場合は、遺産はどうなるのでしょうか。

相続人の存在、不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして結果として相続する者がいなくなった場合も含まれる)には、家庭裁判所は、被相続人の債権者等の「利害関係人」または「検察官」からの申立てにより、相続財産の管理人(「相続財産管理人」といいます)を選任します。そして、相続財産管理人は、被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。

なお、特別縁故者(被相続人と生計を同じくしていたり被相続人の療養看護に努めたなど、特別の縁故のあった者)に対する相続財産分与がなされる場合もあります。

「相続人不存在」の背景

相続人が存在しない典型的なケースとして、死亡時に次の4つの条件を満たしている場合があります。

1.独身(=法律婚をしていない)

2.子ども(養子も含む)がいない

3.両親が既に死亡している

4.兄弟姉妹がいない

つまり、両親が死亡している「子どもがいない独身の一人っ子」です。

「生涯未婚率」過去最高を更新

厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「50歳時での未婚の割合」によると、2015(平成27)年で男性は23.37%、女性は14.06%と、それぞれ過去最高を更新しました。このデータは「生涯未婚率」とも呼ばれます。同省の推定では、生涯未婚率は今後さらに上昇し、法定相続人がいないまま亡くなる人の数も増えるとみられています。

生涯未婚率が上昇し、少子高齢化も今後一層進むとなると、「相続人不存在」の相続が今後増加することは容易に想像できます。

「遺言」で「財産の行き場」を決められる

遺言を残していれば、原則として遺言の内容のとおりに財産を残すことができます。

もし、ご自身が死亡した場合、相続人が不存在になる可能性があり、ご自身の遺産が国庫に入ることを望まないのなら、遺言を残す必要があります。

相続法改正により、自筆証書遺言の方式が緩和されたり、法務局で自筆証書遺言を保管できる制度が施行されるなど、遺言書が作成しやすくなりました。

「相続人不存在」のケースに限られたことではありませんが、「自分の死後に財産を思うとおりに残したい」と希望する方は遺言書を残すことを検討してみてはいかがでしょうか。

ただし、法的要件を満たさない遺言を残すと、遺言が「争いの火種」になってしまいます。遺言を残す際は、「法的に完備」した遺言を残すようにしてください。

また、認知症等で「意思能力」が欠如しているときに遺言を残すと、法的に完備していても「有効・無効」の争いになるおそれがあります。遺言は「元気」な内に残しましょう。

以上参考「〈独自〉相続人なく遺産漂流 国へ603億円、少子高齢化時代反映」(産経新聞)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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