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潜入ルポ「遺言書保管法」~7月10日午前9時 日本一早く、法務局に「遺言書」の保管を申請してきた

竹内豊行政書士
法務局に遺言書の保管を実際に申請してみました。(写真:アフロ)

本日、7月10日から、遺言書保管法がスタートしました。そこで、早速私自身が自らの遺言書の保管を法務局(以下「遺言書保管所」といいます)に出頭して申請してきました。今回は、その一連の流れをご紹介したいと思います。

「遺言書」を書く~4度目でやっと書き上げる

遺言書保管所に保管できる遺言書は、民法968条による「自筆証書遺言」のみです。つまり、自分で遺言を書かなければなりません(ただし、「財産目録」に関しては、預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を添付しても可)。

そこで、まずパソコンで案文を作成して、できた案文を見ながら自書することにしました(用紙は「A4」サイズで、文字の判読を妨げるような地紋、彩色等のあるものは不可)。

しかし、写すだけなのに3度も書き損じてしました。やはり、他の書類と勝手が違うようです。結局、4度目で書き損じなく書き上げることができました。

そして、財産目録として、通帳の見開きページ(銀行名、支店名、口座名義、口座番号が記載されているページ)のコピーを添付しました。なお、この財産目録にも、本文と同様に署名と押印が必要になります。押印は認印でも構いませんが、実印で押印しました。

申請の「予約」を入れる

なんとか遺言書を書き上げて、次に遺言書保管所に申請の予約を入れることにしました(申請には予約が必要)。

予約は、申請する遺言書保管所に直接電話するか(平日8:30~17:15まで)法務局手続案内予約サービスの専用ホームページ(24時間365日可)から行います。

私は、専用ホームページから7月10日の9:00の予約を取ることができました(つまり、一番バッター)。

なお、申請できるのは、「遺言者の住所地」「遺言者の本籍地」そして「遺言者が所有する不動産の所在地」のいずれかを管轄する遺言書保管所になります。私は自宅から一番近い住所地を管轄する遺言書保管所に予約を入れました。

「住民票の写し」を入手する

添付書類として「住民票の写し」(作成後3か月以内のもの)が必要です。そこで、住所地の役所に請求しました。なお、住民票の写しには「本籍地」の記載が必要です。請求する際に、必ず「本籍地の記載のあるもの」と指定してください。

「申請書」を作成する

申請する際に申請書を提出します。遺言書保管所にも用意されているので申請当日に記載してももちろん構いませんが、事前に法務省ホームページからダウンロードして必要事項を記載して持参すると申請が短時間で済みます。

「収入印紙」を購入する

申請には3,900円の手数料を収入印紙で納付します。事前に郵便局等で購入しておきましょう。なお、当日法務局でも購入できます。

いよいよ「申請前日」

インターネットで予約すると、前日の昼頃に「法務局手続案内予約サービス」から予約内容を確認するメールが届きます。忘れ物がないように書類を確認します。

待ちに待った「申請当日」

当日の流れは次のとおりです。

時間厳守

予約を入れた遺言書保管所へ指定された時間に出頭します。10分前には到着するようにしましょう。一人当たり1時間程度の枠が設けられています。もし、遅刻をしてしまったら、予約の関係上当日の作成ができなくなるおそれがあります。また、キャンセルする場合は、必ず事前に遺言書保管所に連絡を入れるようにしましょう。

「遺言書保管官」との面談

遺言書保管官と面談をします。遺言書保管官とは、遺言書の保管に関する事務を取り扱う法務局に勤務する法務事務官のうち、法務局または地方法務局の長が指定する者です。

まず、遺言書保管官に遺言書と申請書を提出します。次に本人確認の書類を提示します。本人確認書類は、マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、在留カード等の内いずれか一つを提示します。提示した書類はその場でコピーを取られて返却されます。なお、本人確認の書類は有効期限内のものでなければなりません。

遺言書保管官が書類を「確認」する

提出した自筆証書遺言と申請書を遺言書保管官が内容に不備がないか確認します。私の場合は、その間約30分でした(ちなみに不備な点はありませんでした)。

遺言書保管官は「最初なのでお待たせしてすいません」とおっしゃっていましたが、「待たされた」という感じはしませんでした(待っている間に「『自筆証書遺言保管制度』に関するアンケート」という書類に記載していました)。

「保管証」が発行される

遺言書が遺言書保管所に保管された証しとして「保管証」がその場で交付されます。保管証には「遺言者の氏名」「遺言者の生年月日」「遺言書が保管されている遺言書保管所の名称」そして「保管番号」が記載された上、「上記の遺言者の申請に係る遺言書の保管を開始しました。」として「開始年月日」と「法務局名」および「遺言書保管官の氏名」が記載されて遺言書保管の押印がされます。

この「保管証」を相続人、受遺者、遺言執行者等の関係相続人等に渡しておくと、遺言者の死後に、関係相続人等が遺言書保管所に保管されている情報を証明した書面(=「遺言書情報証明書」)の交付を請求し入手することで遺言を執行することができます。なお、遺言書情報証明書は、遺言者が申請した以外の遺言書保管所に対しても請求することができます。

遺言書の保管を申請してみて

遺言書の保管を申請した感想は、「けじめを付けた」ということです。仕事柄、死後の遺産整理のお手伝いをする機会がありますが、やはり遺言書があった方が格段に相続人の負担は軽くなります。また、被相続人(=亡くなった方)としても、遺産分けの心配がなくなるので、安心してあの世に逝けるのではないでしょうか(本人に感想を聞いたことはありませんが・・・)。

以上が遺言書の保管の流れです。遺言書の保管に興味が湧いた方は、まずは法務省ホームページ「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」をご覧になってください。そして、必要性を感じたら、ぜひ実行してみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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