Yahoo!ニュース

速報!「行政書士試験」4470人合格~コロナ禍で活きる資格 「合格者」「開業を目指す方」へアドバイス

竹内豊行政書士
行政書士試験の合格発表が行われ、4470名の合格者が誕生しました。(提供:barks/イメージマート)

先ほど、令和2年度の行政書士試験の合格発表が行われました。

行政書士試験に合格された皆さま、おめでとうございます!

コロナ禍の中、合格までの道のりは困難なこともあったと思います。しかし、「合格」を勝ち得たこの一瞬でいい思い出に変わったのではないでしょうか。

さて、今回は、令和2年度の「行政書士試験の結果」「行政書士制度」そして「合格者へのアドバイス」をお伝えしたいと思います。

令和2年度 試験結果の概要

一般財団法人行政書士試験研究センターが今朝発表した、令和2年度の試験結果は次のとおりです。

・受験申込者数 54,847人(52,386人)前年比+2,461人

・受験者数 41,681人(39,821人)前年比+1,860人

・合格者数 4,470人(4,571人)前年比▲101人

・合格率 10.7%(11.5%)前年比▲0.8%

※カッコ内は前年度

このように、前年と比べると、やや厳しい結果となりました。

行政書士ができること~広範にわたる業務範囲

行政書士は法律系の国家資格です。しかし、名称を聞いたことはあるけれど、どのような資格なのかご存知ない方は多いと思います。そこで、この機会に行政書士制度についてご紹介したいと思います。

行政書士の業務~「広い業務範囲」が認められている

行政書士は、行政書士法に基づいて以下の業務を業として行うことができます。

1.書類作成業務

次の2つの分野の書類を作成することができます。

(1)「官公署」に提出する書類

~たとえば、建設業、風俗営業、運輸業、外国人の在留資格等の許可申請等

(2)「権利義務または事実証明」に関する書類

~たとえば、遺言書、遺産分割協議書、各種契約書等

2.「代理」業務

作成した書類を、依頼者に代わり官公署に提出することができます。また、契約その他に関する書類を代理人として作成することもできます。

3.「相談」業務

さらに、前述の書類の作成について相談に応ずることもできます。

以上のとおり、行政書士は、「官公署に提出する書類」と「権利義務または事実証明に関する書類」について作成はもちろん、提出代理、代理作成、相談業務に至るまで業として行うことができます。このように業務範囲が広いことが行政書士の特徴といえるでしょう(注)。 しかし、「広範にわたる業務範囲」が、その実体をわかりにくくしている原因ともいえます。

(注)ただし、他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができません。たとえば、訴訟・調停に関して代理人として書類を作成すること、登記申請、税務書類の作成等が挙げられます。

行政書士は「お得」な資格~「難易度」に比べて「できること」がたくさんある

このような広い権限があるにもかかわらず、行政書士試験は、やるべきことをきちんとやれば、テレワークや家事の合間を上手に使って、独学でも「受かる試験」です。

つまり、行政書士は、試験の難易度に比べて、法で与えられた権限が広範囲におよぶ「お得な資格」といえます。

「コロナ禍」で受験者増加か~「いざ」というときの「セーフティネット」としての資格取得

「広範にわたる業務範囲」を上手く活用すれば、仕事などを通じて培った「実績」や既に習得している「知識」「行政書士業務」として「仕事」にすることも可能です。

実績や知識を行政書士の特徴を活かして活躍している方をご紹介しましょう。

・南米諸国との貿易実績を活かして、対南米諸国とのビジネスコンサルティングを業務にしている方

・市役所の職員として環境分野での業務実績を活かして、企業の環境関連の許認可取得を含めたコンサルティングを業務にしている方

・企業の法務部で取引先との契約書の作成・リーガルチェックを行った実績を活かして、中小企業の法務アドバイザーとして業務にしている方

・大学で女性福祉を学び、卒業後は、配偶者暴力相談支援センターや男女共同参画センターにて専門員として働いた実績を活かして家族法務に特化して業務にしている方

 先の見えないコロナ禍の中、自分の実績や知識が活かせる行政書士を、「いざ」という時の「セーフティネット」として取得してみてはいかがでしょうか。

「合格者」「開業」を目指す方へのアドバイス

私は、20年前に行政書士を開業しました。20年の業務歴を振り返ってこれから開業をお考えの方へアドバイスをお伝えしたいと思います。

「合格」が意味すること~「合格」直ちに「実務」は困難

行政書士試験の合格は、業として行政書士業務を適正に行うことができる「素養」があると認められたことを意味します。

では、合格直後に登録して行政書士として実務ができるかというと、そのような方はほとんどいません。

よく、「行政書士試験の内容は実務に則していない」と言われますが、前述のように行政書士業務が広範囲におよぶため、そもそも「業務に直結する試験内容」にすることは無理なのです。もし、業務に則した内容にしたら、現在の試験科目に加えて、「建設業法」「出入国管理及び難民認定法」「貨物自動車運送事業法」「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」なども試験科目に入れなければなりません。そのようなことをしたら、受験する方は激減するに違いありません。

「行政書士ができる業務」と「自分ができる業務」は「イコール」ではない~しっかり「準備」してから開業を

合格した方の中には、広い業務範囲を活かして「何でもやるぞ!」「仕事は取ってから学べば何とかなる!」と気合を入れて「営業」を行おうとしている方もいるでしょう。

しかし、「何でもできるは何にもできない」のは世の常です。準備不足で受任をして、業務遅滞を発生させて懲戒処分を受けたり、依頼者に損害賠償をしなくてはならなくなった者も実際います。なお、懲戒処分を受けてしまうと、日本行政書士会連合会、所属行政書士会および都道府県のホームページに公告されてしまいます。くれぐれもしっかり準備をしてから開業するようにしてください。

いかがでしょうか。行政書士という資格の「広範にわたる業務範囲」という特徴を上手に活かせば、自分の「好き」なことや仕事での「実績」、習得している「知識」を行政書士業務として仕事にすることができます。

また、コロナ禍で先行き不透明な状況下では、行政書士という資格を、「自分を守る盾」の一つとして取得しておくこともありかもしれません。

行政書士試験には受験資格が設けられていません。年齢、学歴、国籍等に関係なくどなたでも受験できます。興味がある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事