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多部未華子さん主演「私の家政夫ナギサさん」(「わたナギ」)に見る「夫婦の形」

竹内豊行政書士
多部未華子さん主演の「わたナギ」の人気は、「夫婦の形」にあるかもしれません。(写真:つのだよしお/アフロ)

国内最大級の電子書籍サイト「コミックシーモア」発のWEBコミック「家政夫のナギサさん」(著者:四ツ原フリコ)をドラマ化し、この夏大きな話題となった多部未華子さん主演の「私の家政夫ナギサさん」(通称「わたナギ」)の2時間の特別編が9月8日の放映で終了となりました。

主人公は、多部未華子さん扮する家事が苦手で、製薬会社のMRとしてバリバリ働くキャリアウーマンのアラサー独身女子・相原メイです。そのメイの家に、28歳の誕生日の夜に、大森南朋さん扮する料理・洗濯・掃除といった家事全般をパーフェクトにこなす「スーパー家政夫」おじさんの鴫野ナギサが突然現れることからこのドラマは始まります。そして、「見ず知らずの男性、ましてやおじさんが家にいるなんて絶対イヤ!」と最初はナギサを拒んでいたメイが、共に時間を過ごす中で、いつしかナギサの存在に安らぎや温かみを感じていき、二人は結婚するというラブコメディです。

ドラマで使われた主人公が住むマンションを「聖地巡礼」のスポットとして多くのファンが訪れたり、昨日8日に放映された「私の家政夫ナギサさん 新婚おじキュン!特別編」の終了後、喪失感を表す「わたナギロス」というハッシュタグが上位にランクされるなど人気の高さがうかがえる現象も起きています。

人気の理由は、人気俳優の出演の他、母娘関係の難しさ、職場での人間関係の悩みなどを巧みに表現しているなどいくつか挙げられると思いますが、その中でも、妻のメイがバリバリ外で働き、夫のナギサが家事をこなすという、多くの家庭から見れば男女が逆の役割を果たすという、男女の役割について固定観念にとらわれない「結婚観」が、このドラマの人気の原因の一つと考えられます。

そこで今回は、法律が定めている結婚観について見てみたいと思います。

結婚とは~憲法が定める「3つ」の結婚観

憲法とはその国のあり方を書いたものです。さらに言うと、その国の目指すべき姿がそこに書かれています。そこで、憲法が結婚のあるべき姿をどのように定めているか見てみましょう。憲法は24条で次のように結婚(婚姻)観を唱えています。

憲法24条(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)

婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

このように、憲法は、結婚について次の3つを定めています。

1.結婚は「両性の合意」によってのみ成立する。

結婚が両性の合意のみに基づいて成立することを要求しています。結婚をする人に自由な独立した人格を認めて、結婚はそれを基礎とする一種の契約であるという結婚観を表明しています。

2.夫と妻は同等の権利を基本として、相互の協力によって結婚生活を維持しなければならない。

夫は外で仕事、妻は家で家事・育児といった伝統的な男女の性別役割分担といったような性差別を否定して、夫婦の法的地位の平等と同権を保障しています。

これが前提にあって初めて、夫婦相互の愛情と協力による家庭生活が維持されるという考えです。

協力のあり方については、伝統的な男女の性別役割分業の見直しが課題とされています。これまで女性の役割とされてきた家事・育児などを男女の共同責任とし、社会にも男女が積極的に参加できる社会作りが目指されています。

「相互の協力」の形は、それぞれの夫婦の事情でもちろん異なります。お互いが対等な立場で十分話し合い、自分たちに合った夫婦の形を作っていくことが大切です。

「わたナギ」で妻のメイが外で働き、夫のナギサが家事をこなすという、お互い合意の上で、それぞれが好き・得意な役割を担って家庭を築いていく姿勢は、まさに憲法が唱える性差別の否定に基づいた夫婦の法的地位の平等と同権の実践のあるべき形の一つといってよいでしょう。

3.一夫一婦制~パートナー関係の独占排他性

これは、前述の「1」と「2」の2つの結果として、「一夫一婦制」、つまり、パートナー関係の独占排他性が導き出されます。

過去には、一夫多妻制や妻妾制度なども存在していましたが、現段階では、同時に複数の者と婚姻関係を持つことは公認されていません。一夫一婦に反する行動、すなわち「不倫」は憲法の精神に反する行為といえます。

夫婦の同居・協力・扶助義務

そして、憲法が唱える結婚観を受けて、民法は夫婦に同居・協力・扶助の3つを義務付けています(民法752条)。これは、結婚共同生活を維持するための基本的な義務とされています。

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

夫婦の形はそれぞれの夫婦で異なります。その形をどのようにしていくかを夫婦間で平等な立場で話し合い納得した上で結婚生活を送ることができれば、自ずと、二人だけの「幸せの形」を作り上げていくことができるのではないでしょうか。

「わたナギ」もそのようなメッセージが織り込まれているかもしれませんね。あなたはどのように思われますか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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